2014年11月25日火曜日

微積分II演習(第6回)後半

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

HPに行く.

第6回の続きです。

陰関数定理II は第5回で説明したので、そちらを見てください.

陰関数定理III

 $F(x,y,z)=G(x,y,z)=0$ となる空間の内の曲線 $L$ が$x$ からの関数のグラフとして書けるかどうかという問題がこの場合の陰関数定理です.
$L$ の各点において、曲線が2つの曲面 $S_1=\{(x,y,z)|F(x,y,z)=0\}$, $S_2=\{(x,y,z)|G(x,y,z)=0\}$ の交差によって得られているとします.
また、$S_1,S_2$ は各点において接平面が存在するとしましょう.
つまり、関数 $w=F(x,y,z),w=G(x,y,z)$ の勾配ベクトルに対して $(F_x,F_y,F_z)\neq (0,0,0)$ かつ $(G_x,G_y,G_z)\neq (0,0,0)$ が成り立ちます.

$L$ の接方向 ${\bf v}$ が $x$-方向と直交しなければ $L$ が $x$- 軸からのグラフとしてかくことができます.
つまり、$x$-軸からみて、傾き無限大の関数のような形になっていなければいいのです.

勾配ベクトル $(F_x,F_y,F_z)$ $(G_x,G_y,G_z)$ は$S_1,S_2$ の垂直方向(法線方向)でもありますので、

$L$ の接線方向ベクトル ${\bf v}$ は
$${\bf v}\cdot(F_x,F_y,F_z)=0$$
$${\bf v}\cdot(G_x,G_y,G_z)=0$$
を満たします.

つまり、${\bf v}$ は $(F_x,F_y,F_z)$ と$(G_x,G_y,G_z)$ の外積と平行です.

3次元ベクトル ${\bf x}$ と${\bf y}$ に対して外積 ${\bf x}\times {\bf y}$ はある3次元ベクトルを
以下のように対応させます.
その外積ベクトル ${\bf x}\times {\bf y}$ は、${\bf x},{\bf y}$ に両方直交するベクトルであって、
その長さが ${\bf x}$ と ${\bf y}$ で作られる平行四辺形の面積に等しいものです.

よって、${\bf v}$ はある実数 $k$ を使って ${\bf v}=k\cdot(F_x,F_y,F_z)\times (G_x,G_y,G_z)$、
と書けます.

$L$ が $x$-軸からの関数にならないとすると、${\bf v}$ は $x$-軸方向 ${\bf e}_1=(1,0,0)$ と直交します.つまり、内積でいえば、
${\bf v}\cdot {\bf e}_1=0$
${\bf e}_1\cdot((F_x,F_y,F_z)\times (G_x,G_y,G_z))=0$
この左辺は
$\det\begin{pmatrix}1&0&0\\F_x&F_y&F_z\\G_x&G_y&G_z\end{pmatrix}$
なので、結局、
$\det\begin{pmatrix}1&0&0\\F_x&F_y&F_z\\G_x&G_y&G_z\end{pmatrix}=\det\begin{pmatrix}F_y&F_z\\G_y&G_z\end{pmatrix}\neq 0$ が成り立てば、 $L=S_1\cap S_2$ が$x$-軸からのグラフとしてかけることになります.

ここで使われた ${\bf x}\cdot ({\bf y}\times {\bf z})$ がその3つのベクトルを並べた $3\times 3$ 行列の行列式であるということは線形代数の知識です.教科書を見ましょう.

またその曲線 $L$ の速度ベクトル を求めると、陰関数 $y=f(x), z=g(x)$ として、
$F(x,f(x),g(x))$ を微分して、
$F_x+F_y\cdot f'+F_z\cdot g'=0$
$G_x+G_y\cdot f'+G_z\cdot g'=0$
 として、これを$f',g'$ の連立方程式と思って、
$\begin{pmatrix}F_y&F_z\\G_y&G_z\end{pmatrix}\begin{pmatrix}f'\\g'\end{pmatrix}=-\begin{pmatrix}F_x\\G_x\end{pmatrix}\Leftrightarrow \frac{\partial(F,G)}{\partial(y,z)}\begin{pmatrix}f'\\g'\end{pmatrix}=-\begin{pmatrix}G_z&-F_z\\-G_y&F_y\end{pmatrix}\begin{pmatrix}F_x\\G_x\end{pmatrix}$
ゆえに、
$\frac{\partial(F,G)}{\partial(y,z)}\begin{pmatrix}f'\\g'\end{pmatrix}=-\begin{pmatrix}F_xG_z-F_zG_x\\F_yG_x-F_xG_y\end{pmatrix}=-\begin{pmatrix}\frac{\partial(F,G)}{\partial(x,z)}\\\frac{\partial(F,G)}{\partial(y,x)}\end{pmatrix}$

よって$\frac{\partial(F,G)}{\partial(y,z)}$ を割ってやって、$f',g'$ がそれぞれプリントの式として求まります.

例1

簡単な例ですが、円柱を斜めに平面で切ったときにできる空中の楕円について考えます.

円柱 $F=(x-a)^2+(y-b)^2-1=0$ と、平面 $G=z-cy=0$
の満たす曲線斜めの楕円が $x$-軸からのグラフとして書けるためには、
$\det\begin{pmatrix}2(y-b)&0\\-c&1\end{pmatrix}=2(y-b)\neq 0$
であればよい.
よって $y=b$ つまり、 $(x,y,z)=(a\pm1,b,cb)$ のとき、以外では
曲線がグラフとしてかけます.
そのときの$x$ 座標としての速度ベクトルは、
$(1,-\frac{x-a}{y-b}, -\frac{c(x-a)}{y-b})$
となります.

例2

他の例では、
$F(x,y,z)=x^3+y^3+z^3, G(x,y,z)=x^2+y^2+z^2-1$
とすると、
$\frac{\partial(F,G)}{\partial(y,z)}=6yz(y-z)$
であり、$y\neq 0, z\neq 0, y\neq z$ のとき$x$ からの関数になっています.
具体的に求めると、
$(x,y.z)=(\pm\frac{1}{\sqrt{2}},0,\mp\frac{1}{\sqrt{2}}),\ (\pm\frac{1}{\sqrt{2}},\mp\frac{1}{\sqrt{2}},0),\ (\pm\frac{\sqrt{3}\sqrt[3]{2}}{3},\pm\frac{\sqrt{3}}{3},\pm\frac{\sqrt{3}}{3})$
の6点になります.

この6点では、曲線上を動いたとき、$x$ 軸から垂直になっています.
言い換えれば、この曲線を $x$-軸に射影してできる曲線上の関数の臨界点が
この6点ということです.

また$x$-軸からの写像としての速度ベクトルは、
$$(1,-\frac{x(x-z)}{y(y-z)},-\frac{x(y-x)}{z(y-z)})$$
となり、分母を払ってやれば、接線方向のベクトルは、
$$(yz(y-z),-xz(x-z),-xy(y-x))$$
となります.

2014年11月18日火曜日

線形代数II演習第5回宿題の間違い解答例

線形代数II演習レポート

を採点していて、以下の解答にバツもしくは三角がつきました.


5-2(1,2,3)
  • $C({\Bbb R})$ を多項式の集合と間違えているもの.
    $X=\sum_{k=0}^na_kx^k$ などと$X$ の意味を完全に取り違えているもの
  • 奇関数かつ偶関数の関数は $0$ のみと単に書いてあるもの.
  • $X=\langle f(x)\rangle, Y=\langle g(x)\rangle$や$f(x)\in g(x)$ など意味不明なもの.
  • 偶関数の和が偶関数、奇関数の和が奇関数とだけ書いてあるもの.むしろそれを証明する問題です.
  • $f_1(x)\in X,f_2(x)\in Y$ として取っているのに、$f_1(x)+f_2(x)$ など計算しており、意味がない.$X\cap Y$ の元として $f(x)\in X$ かつ $f(x)\in Y$ をとるべき.
  • $X$ の元が $ax+b$ と一次式で書けると書いてあるもの.$X$ は一次式の空間ではございません.連続関数全体の中の偶関数の空間です.
  • $f(x)=\frac{f(x)+f(-x)}{2}+\frac{f(x)-f(-x)}{2}$ と書けると書いてあり、これらが偶関数、奇関数であることを示していないものがありましたが、これは百歩譲ってマルにしました.
5-3(1)
  • $1,i$ を使った基底が4つ存在するとだけ書いてあるだけのもの
  • 基底らしきものを並べて、これらは基底となるから.とだけ書いています.
    それらが基底であることを証明しないと次元が4とはなりません.
  • $a+bi=a\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}+b\begin{pmatrix}0\\i\end{pmatrix}$ など複素数とベクトルを混同しているもの.
  • 基底であることを示す問題なのに基底であることをちゃんと示していないもの.
    もしくは、これこれは基底であるとかいてあるだけのもの.
  • ${\Bbb C}^2$ の集合の元がいつのまにか4つの成分で書かれているもの.
  • ${\Bbb C}^2$ の元 $\begin{pmatrix}a+bi\\c+di\end{pmatrix}$ を断りなしに
    $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ などと行列に直して議論しているもの.
5-3(2)
  • $W$ が何としたのか書かれていないもの.
  • $W$ は$X$ と $Y$ の直和なので、と書いてあるもの.
  • すでに、${\Bbb C}^2=W\oplus {\Bbb R}^2$ と書いてあり直和になることが示されていないもの.
$C({\Bbb R})$ は多項式の空間ではないとコメントしたはずなのに
多項式を使って書いている人は複数見られて残念です.
前のブログを見てください.
$C({\Bbb R})$ は連続関数全体の空間です.

${\Bbb C}^2$ の中の実の基底は、
$(1,0),(i,0),(0,1),(0,i) $です.
任意の$(z_1,z_2)\in {\Bbb C}^2$は

と$z_j=a_j+ib_j$ と書いたとすると
$${\bf x}=(z_1,z_2)=(a_1+b_1i,a_2,b_2i)=a_1(1,0)+b_1(0,i)+a_2(1,0)+b_2(0,i)$$
のように4つのベクトルで書けますよね?
それぞれ、順番に ${\bf v}_1,{\bf v}_2,{\bf v}_3,{\bf v}_4$ と書くと、
$${\bf x}=a_1{\bf v}_1+b_1{\bf v}_2+a_2{\bf v}_3+b_2{\bf v}_4$$
と書けますね.

これは数ベクトルのような形をしていますが数ベクトルではございません.
立派な抽象実ベクトル空間です.2次元の ${\Bbb C}^2$に惑わされて
書いてあるものは三角もしくはバツです.

$X$ が部分空間であることの示し方.
$f,g\in X$ とする.
このとき、$f+g\in X$ であることを示す.
$f(-x)=f(x)$, $g(-x)=g(x)$ であるので、辺々足して、
$f(x)+g(x)=f(-x)+g(-x)$ となり、$f+g\in X$ となります.

$Y$ の方も同様.


そういうわけでレポートは結構、惨憺たるものでした.
試験は明日なのでまだ間に合います!!
勉強しましょう.
レポートは返せますので、もし返して欲しい人がいましたら
数学事務に預けておきますので今日の午後2時以降 D705に取りにいってください.

微積分II演習(第6回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

今日は以下の演習を行いました.
  • 特異点
  • 勾配ベクトル
  • 陰関数定理II ($F(x_1,x_2,\cdots,x_n)=0$ の形)
  • 陰関数定理III ($F(x,y,z)=G(x,y,z)=0$ の形)

以下、余計なことを書きすぎたので最後の2つについては書けませんでした。
またどこかでかきます.
次回はラグランジュの未定乗数法です.

特異点

ある方程式 $F(x_1,x_2,\cdots,x_n)=0$ を満たす点 $(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ の中で、
$$\begin{cases}F_{x_1}(a_1,a_2,\cdots,a_n)=0\\F_{x_2}(a_1,a_2,\cdots,a_n)=0\\\cdots\\F_{x_n}(a_1,a_2,\cdots,a_n)=0\end{cases}$$
を満たす点のことを特異点といいました.


勾配ベクトル

勾配ベクトルは以前やりましたが、ここでは
関数 $F(x,y)$ $F(x,y,z)$ に対してその役割と性質をまとめておきます.
関数 $z=F(x,y)$ $w=F(x,y,z)$ があったときにその勾配ベクトルとは
$\text{grad}(F)(x,y)=(F_x(x,y),F_y(x,y))$,
$\text{grad}(F)(x,y,z)=(F_x(x,y,z),F_y(x,y,z),F_z(x,y,z))$
などとなり、それぞれ、2次元上のベクトルと3次元上のベクトルになります.
これを勾配ベクトルといいます.

また、このとき、このベクトルたちは各点に与えられているので、
そのような状況をベクトル場、この場合は関数の勾配を与えているので
勾配ベクトル場とよばれます.
この場という言葉は物理(ヒッグズ場とか重力場とか)でも出てきますが、
この場合と同じような意味合いです.
空間の上の各点に一斉に与えられる一つの状態を表しています.


例えば $f(x,y)=x^2+y^2$ の場合の $\text{grac}(f)(x,y)=(2x,2y)$ の
様子は授業でもやりましたが、以下のようになります.

放射状になっているのは、各点において関数 $f(x,y)=x^2+y^2$ が増える方向が外向きであるからです.
もう一次元落として考えれば、$f(x)=x^2$ も、導関数 $f'(x)=2x$ であり、絶対値が大きくなる
に従って2倍のスピードでその傾きが増えています.
関数の接平面の傾きがだんだんと急になっていることを表しています.

また、同心円はこれらのベクトルに一斉に直交しますがその円は $f(x,y)$ を
一定とする集合 $V_c=\{(x,y)|x^2+y^2=c\}$ となる等高線を意味します.


皆さんにやってもらったのは $f(x,y)=xy$ でしたが、
その時は以下のようになりました.
矢印をつなげて書けば


$y=-x$ の近くの点から矢印をたどっていくと、

まず、原点方向に向かって流れ、向きを変えて
今度は $y=x$ の近くの点を通って無限大に流れていきます.
これは、馬の鞍の腹の方から登っていき、背中を通って馬の頭(もしくは尻)の方を
だどって登っていくことに対応しています.

ちなみに原点では矢印が有りませんからどこにも向かいません.
止まったままです.
このような点は$F_x(a,b)=F_y(a,b)=0$ ですから、関数 $z=F(x,y)$ の
臨界点であることに注意しましょう.


授業中に等高線も描きましたね.自分でももう一度やってみてください.

関数 $w=F(x,y,z)$ においても勾配ベクトル場があります.
関数のグラフは4次元 $(x,y,z,w)$ の中に入っている3次元の物体なので見えませんが、
その等高面 $F(x,y,z)=c$ は3次元の中の曲面として見ることができます.
それは等高面なのでそれと垂直な方向に勾配ベクトルが向いています.

例えば、$F(x,y,z)=x^2+y^2+z^2$ のときは、等高面 $x^2+y^2+z^2=c$ は同心球
のことで、勾配ベクトル場は $\text{grad}(F)(x,y,z)=(2x,2y,2z)$ ですので、
上と同様一点から矢印が湧き出しています.


一般の関数 $z=F(x,y)$ や $w=F(x,y,z)$ は臨界点が複数入り乱れ、その周りで
$\text{grad}(F)$ が動き回っていることになります.


$z=F(x,y)$ において、非退化な(ヘッシアンが消えてない)臨界点の周りでの
$\text{grad}(F)$ の"様子"は上の、 $x^2+y^2$(湧き出し)もしくは、
$xy$ (馬の鞍)もしくは、$-x^2-y^2$ (吸い込み) のどれかに実はなっています.

退化した臨界点に関する臨界点では、状況は複雑で、ベクトル場を自分で
描いてみるとよくわかると思います.


以下、実際の具体例について、授業で取り上げた関数についての話です.


関数 $F(x,y)=x^3+y^3-3xy$ の話

例題6-1(1)
$F(x,y)=x^3+y^3-3xy=0$
は、デカルトの正葉線と呼ばれます.

のような集合ですが、$F_x(x,y)=3x^2-3y=0$ かつ $F_y(x,y)=3y^2-3x=0$
は、$(x,y)=(0,0)$ のみです.この点において接線が存在しないことになります.
これは、$z=F(x,y)$ の関数の $z=0$ での等高線とも考えられます.

前回の陰関数定理を用いれば $F_y=3y^2-3x\neq 0$ のとき、
つまり、$(x,y)=(0,0)$ もしくは $(\sqrt[3]{4},\sqrt[3]{2})$
以外では、各点は、その点の十分小さい周りにおいて、$x$-軸から関数の形をしている
ことがわかりました.
これは、$y$ に関する3次方程式 $y^3-3xy+x^3=0$ の解として、
この集合をみると分かるように、$x<0$ もしくは $x>\sqrt[3]{4}$ のとき、
この3次方程式は1つの実数解があり、$0<x<\sqrt[3]{4}$ のとき
3つの異なる実数解があります.
これは $x,y$ の変数を入れ替えてもおなじことです.

また、例題6-5(1) でも同じ式からなる集合
の陰関数を $y=\varphi(x)$ とし、$b=\varphi(a)$ において、
$\varphi'(a)=-\frac{F_x(a,b)}{F_y(a,b)}=-\frac{a^2-b}{b^2-a}$
であり、$\varphi'(a)=0$ となるような点は $a^2-b=0$ となり、
そのような点は $(a,b)=(0,0)$ もしくは $(\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4})$
となる.

例題6-4から
陰関数の臨界点での2階微分は以下のようになります.
授業では最後の方の計算を間違えていました.
$\varphi''(a)=-\frac{F_{xx}(a,b)}{F_y(a,b)}$ であるから、
$F_{xx}(x,y)=6x$より
$\varphi''(\sqrt[3]{2})=-\frac{6\sqrt[3]{2}}{3\sqrt[3]{4^2}-\sqrt[3]{2}}=-\frac{6\sqrt[3]{2}}{5\sqrt[3]{2}}=-\frac{6}{5}<0$

となりますので、$(\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4})$ では $x$-軸から見て極大になっている
ことがわかります.

また、この関数を $z=F(x,y)$ なる関数として、グラフを作ってみると下のようになります.

なんとなく人間工学に基づいて設計された椅子のような形をしていますね.
この椅子、この絵からはよくわかりませんが、臨界点は $(0,0)$ と $(1,1)$ あります.
$(1,1)$ では極小値ですが、 $(0,0)$ ではいわゆる馬の鞍になっています.
座り心地がよさそうですね.3Dプリンターで作ってみたいくらいです.
もし家具屋でこのような曲面に出会ったら触って臨界点の位置を実感してください.


馬の鞍というのは、授業でもやりましたが、局所的に$z=xy$ となっている点です.
$z=x^2-y^2$としても定義域の座標変換で同じ形の臨界点が表れます.
そのような関数のグラフの $z=0$ での切り口は$x=0$ もしくは$y=0$ となる2つの直線です.

$F(x,y)=x^3+y^3-3xy$ の例では、$(0,0)$ の付近ではこの関数の高次の項 $x^3+y^3$ を
無視して考えます.
すると、主要項は $-3xy$ であり、大体馬の鞍だというわけです.
それが、$F(x,y)=0$ が原点で周りでクルンとなっている理由なわけです.

いまは $z=-3xy$ とは違い、3次の項のせいで、原点から遠くの方で2つの線はつながっています.


ちなみに $F(x,y)=x^3+y^3-3xy$ の勾配ベクトル場を描いて、矢印を
滑らかに繋いでやると下のようになります.


$(1,1)$ において、矢印がわき水のように湧き出していますね.
原点では局所的にさっきの $xy$ ベクトル場と同じような状況になっています.

デカルトの正葉線は関数 $z=F(x,y)$ の $z=0$ での等高線なわけですが、
この、ボールペンの試し書きのような曲線は、
他の高さではどうなっているでしょうか?
($z$ 座標は高さととらえることもできますが、時間と考えても面白いです.)
$V_c=\{(x,y)\in{\Bbb R}^2|F(x,y)=c\}$ として、$V_c$ の絵を
追いかけていきましょう.

$V_0$ は上のボールペンの試し書きでした.

$V_1$ は下のような曲線です.

交差が外れていますね.

$V_{-0.5}$ のときは下のようになります.

卵が出てきましたね.
そして $z$ をさらに下げていくと、この卵は $(1,1)$ に向かって小さくなって、
$z=-1$のときに一点になります.$F(1,1)=-1$なので、丁度極小値の時なわけです.
これは、$x^3+y^3-3xy+1=(x+y+1)(x^2+y^2-xy-y-x+1)$ のように因数分解されて、
もう一つの等高線の成分は直線になります.
$x^2+y^2-xy-y-x+1=0$ の方は、$(2x-y-1)^2+3(y-1)^2=0$ と書き直せるので、
実数の範囲では$(x,y)=(1,1)$ しかありません.

しかし、複素数まで範囲を広げるとその実態が明らかになります.
下に書きましたが微積の範囲を超えるので読みたい人だけ読んでください.

この、卵が生まれる瞬間($z=0$) ではその前後でどのようなことが起こっているでしょうか?
これは前々回の授業の中でコメントしました.
$V_c$ は $c<-1$ や、$c>0$ では、一筋の曲線だけになります.


楕円曲線(wikipedia)
も参考にしてください. 横の絵の $y^2=x^3-x+b$ の絵と対応しています.

この曲線のムーヴィーを頭の中で動かしてみてください.
そして関数の形がイメージ出来たでしょうか?

ここまでが微積の内容です.
少し書きすぎたので陰関数定理はまたどこかで書きます.


複素数に拡張する話と代数幾何の入り口
 $x^2+y^2-3xy=c$ なる曲線を複素数上の方程式と思うこともできます.
つまり、$x,y\in{\Bbb C}$ として、$V^{{\Bbb C}}_c=\{(x,y)\in{\Bbb C}^2|F(x,y)=c\}$
を考えるのです.
この集合 $V^{\Bbb C}_c$ は、${\Bbb C}^2$ の中の2次元の物体
(多項式の零点集合、広くは代数多様体)です.
4次元の中の2次元ですから、よくわからないですが、実は、
この物体は4次元の中でドーナツの"表面"のような形をしています.



正確には、無限遠点に伸びていますので、ドーナツの表面の一点を
抜いたような形状をしています.

ドーナツとはこのようなリング状の甘いお菓子の総称ですから、
ドーナツではまずくって、このような形状のことを数学ではトーラスといいます.

このとき、 さっきと比較すると、 $V_c\subset V^{\Bbb C}_c$ となり、あのデカルトの正葉線は
このトーラスの一部に描かれていることになります.
つまり、トーラスを ${\Bbb R}^2\subset {\Bbb C}^2$ なる部分空間で切った切り口と
考えてもいいでしょう.

複素数で考える利点は、実数の時は特異点としてぐちゃぐちゃしていたものが
複素数で考えるとすっきりすることがあります.

ただし、今回は、複素数として拡張してトーラスとした時も、
$c=0,-1$ のときに特異点を持っています.

$c=-1$ のときは、$x^3+y^3-3xy+1$ を複素の範囲で1次の積に分解して、
トーラスが3つの平面に分解されます.
なんとなくしたのような絵でしょうか


$c=-1$ に近づいたときにトーラスが変形して3つの成分に分かれる図


3つの平面なのに、3つの球面のように書かれているのは、さきほど無限遠点のために一点
除いたのと同じ理由で、3つの球面にそれぞれ3つ穴を開けてみれば、球面はそれぞれ
平面と同じようなもので出来ています.

$c=0$ では、一点で特異点(トーラスのどこかでとんがっている)です.
詳しくはどう見るんでしょうか?($c=0$で1点でつぶれるようなサイクルを
見つかるのだと思いますが、よくわかりません.
これは専門家にとってはそれほど難しいことではないはずですが深入りは避けます.)

さて、
$z=1,0,-0.5,1 $はトーラス、もしくは3つの球面、特異点のあるトーラスのどこを切ったのでしょうか?

$V_c$ は平面上の曲線でたまに変な特異点が表れていましたが、

また、この切り口 ${\Bbb R}^2$ は固定されているので、、$c$ が移り変わると、
このトーラスが ${\Bbb C}^2$ の中で動いていることにもなります.
つまり、$V_c^{{\Bbb C}}$ のムーヴィーです.


最後に、このような代数多様体は、普通はコンパクトな複素射影平面
${\Bbb C}P^2$ のような ${\Bbb C}^2$ を拡張した空間に埋め込んで見るのが
自然です.そうすると、上のような点を抜いて考えなくてもよくなる.
実特異点を単なる切り口として理解できる(場合がある)、
空間はコンパクトになるなどさまざまな利点があります.

そのような空間でさっきのトーラスを動かして見る(Lefschetz pencil)など、
このあたりで盛んに研究している人たちもいます.

このあたりのこと、複素射影平面などにについては、代数の先生に聞くか、
授業で学んでください.
これは微積分のブログですので、この辺にとどめておきます.

2014年11月16日日曜日

線形代数II演習(第6回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

HPに行く.

今日は来週行われる講義の方の試験の試験対策でした.
なので演習の方で進めた内容は有りませんでした.
下に解説を書いておきますので、分かっている問題でも、
自分で、なっとくのいく答案を作成してみてください.
答案では、相手に分かってもらえるような、良識のある文章を書いてくさい.
また、ポイント(その問題で重要なところ)が押さえていないと、
なんとなく合っていそうな答えを書いてもバツがつくことがあります.

採点者(数学者)が一番嫌うのは、
答えの値が多少違ったりすることではなく、

論理展開が無茶苦茶だったり(例えば示すべき結果が仮定されていたり)、
用語の意味がわかっていない、意味不明な文章、
示してほしいところが明らかとして書いており、視点がずれているもの
また、最終的に何が示されたのかはっきりしないものです.


授業では、ブログで答えを書くと言いましたが、もしものことに備えて、
どんなことを書けば丸がつくのか解説を書くことにしました.

C-5-2

(1) 要するに奇関数全体と偶関数全体が部分空間であるかという問題ですが、
示すべきことは、$f,g\in X$ かつ、$\alpha \in{\Bbb R}$ なら、
$f+g\in W$ かつ、$\alpha\cdot f\in W$ となることを示すわけですが、
それは、$f(x)=f(-x)$ かつ、$g(x)=g(-x)$ ならば、$f(x)+g(x)=f(-x)+g(-x)$
を示すわけですが、これは辺同士を足せばできますね.
スカラー倍の方も同じようにやってください.
$Y$の方も同じように行います.

(2) 直和であることの条件は $W=X+Y$ かつ $X\cap Y=\{{\bf 0}\}$
を示す必要があります.
ここで、${\bf 0}$ は全ての値が $0$ となる関数です.
前者は$W$ の定義から当たり前すが、後者は示す必要があります.
$X\cap Y$ なる関数 $f(x)$ は任意の$x$ に対して、
$f(x)=f(-x)=-f(x)$ を満たしますが、この式から、任意の $x$ に対して
$f(x)=0$ が成り立つか示して下さい.

(3) 任意の $f\in C({\Bbb R})$ に対して、$f=h_0+h_1$
$h_0\in X,\ h_1\in Y$ を満たすか示して下さい.
つまり、任意の連続関数が奇関数と偶関数の和として書くことができるかということです.
これがわからなければ、多項式で考えてみれば、
$f(-x)=-f(x)$ となる奇関数は、$x,x^3,x^5$ などですが、部分空間ですから、
それらの和も入っています.
つまり、$a_1x+a_3x^3+\cdots+a_{2n+1}x^{2n+1}$
なども奇関数です.ならば、偶関数は、偶数べきの関数の和となり、
$a_0+a_2x^2+\cdots+a_{2n}x^{2n}$となります.
なので、$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_nx^n$
とすれば、
$f(x)=(a_0+a_2x^2+\cdots a_{2m}x^{2m})+(a_1x+a_3x^3+\cdots+a_{2k+1}x^{2k+
1})$
と分解出来ることになります.
これは、感覚をつかむためにやっていることなので、多項式でやればよい
というわけではありません.
和で分解できるか示すためには、$f(x)$から偶関数の部分だけ、もしくは奇関数の部分
だけをどのように取りだせばよいかいうことです.

そこで、
$f(-x)=(a_0+a_2x^2+\cdots a_{2m}x^{2m})-(a_1x+a_3x^3+\cdots+a_{2k+1}x^{2k+
1})$
となります.
一般に、$f(x)=h_0(x)+h_1(x)$ ($h_0$は偶関数、$h_1$ は奇関数)
と書けるとすると、
やはり、$f(-x)=h_0(x)-h_1(x)$ となります.
この2つの式から $h_0(x)$ と $h_1(x)$ を求めればよいことになります.
関数の中から偶数べきの多項式、もしくは奇数べきの多項式だけ
消すことを考えればよいでしょう.

何度もいいますがここまでの操作は頭の中でやるか、答案の片隅で行うべきでしょう.

一般に、$f(x)=h_0(x)+h_1(x)$ ($h_0$は偶関数、$h_1$ は奇関数)
と書けるとすると...
などと書くと、書けることを最初から仮定していると思われて採点者の
格好の餌食になってしまいます.こういうところではバツにしたくなります.
そう思っていなくても、採点者はそのように受け取ります.

なので、$f(x)=h_0(x)+h_1(x)$と$f(-x)=h_0(x)-h_1(x)$とから
$h_0(x), h_1(x)$ を求めると書くのではなく、$f(x)$ から偶関数、奇関数に
あたる式を$f$ を使っていきなり書いてしまって、それらが偶関数、奇関数で
あることを証明する流れです.
その偶関数と奇関数が何か分からない人はいつでもメールをください.

C-5-3
(1) $\dim({\Bbb C}^2)$ の中から実ベクトル空間としての4つの基底を探してください.
${\Bbb C}^2$ は $(a+ib,c+id)$ ですから、4次元ありそうですね.
基底にあたるものはすぐ見つかると思いますが、それらが基底であることを示す必要があります.

(2) ${\Bbb R}^2\subset {\Bbb C}^2$ は$(a,c)$ からなる集合ということですが、
その補空間に当たる部分$W$ はそれ以外の部分ですね.

D-5-1
${\bf x}=\sum_{i=1}^4a_i{\bf x}_i=({\bf x}_1,{\bf x}_2,{\bf x}_3,{\bf x}_4)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\\a_4\end{pmatrix}$
となりますから、アバターとは、基底を定めたときの行列表示のことと思えばよいでしょう.
物理1クラスの学生も言っていましたが、「座標」というのも間違いではないでしょう.

このとき、基底を ${\bf x}_3,{\bf x}_1,{\bf x}_2,{\bf x}_4$ としておくと
行列表示(アバター、座標)が実数ベクトルとして異なるもの ${\bf z}$ になります.
この ${\bf y}$ と ${\bf z}$ の間にある関係を行列 $A$ を使って表せばよいことになります.
$A$ は ${\bf z}=A{\bf y}$ なるものです.
この行列 $A$ はいわゆる基底の変換行列です.

基底が ${\bf x}_1,{\bf x}_2,{\bf x}_3,{\bf x}_4$ から ${\bf x}_3,{\bf x}_1,{\bf x}_2,{\bf x}_4$
に置換されているのでこのような行列 $A$ は置換行列と呼ばれることもあります.
もし分からなければ置換行列でネットで検索すれば出てきます.

D-5-2
授業でやりましたので省略します.

D-5-3
基底の延長の問題ですが、これは授業で基底の延長の仕方を教えましたので
それを応用するだけで証明できます。
この問題は授業でも大分教えましたね.

基底の延長とは、一次独立なベクトル ${\bf y}_1,\cdots,{\bf y}_k$ にいくつかベクトルを
付け加えて基底にするのですが、
そのために、そもそも基底 ${\bf x}_1,{\bf x}_2,\cdots,{\bf x}_n$ が分かっている
とします.

以前やったときは数ベクトル空間において、一次独立なベクトル
${\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_k$ があったときに基底を拡張する問題を解いていたと思います.
そのとき、$A=({\bf v}_1\cdots{\bf v}_k)$ として、後ろに標準基底を付け加えて
$(AE)$ のように $n\times(n+k)$ 行列を使って一次独立なベクトルを最大数
見つけることになります.
この場合は rank$(AE)=n$ なので $n$ 個見つけることができます.
この行列を簡約化すると、その簡約行列の列の中に、$n$ 個の標準基底
が見つかりますが、最初の $k$ 個目までは一次独立なのでそれらが全て標準基底となります.
残りの $n-k$ 個の標準基底は後ろの $n\times n$ 行列の中から見つかることに
なります.
つまり、${\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n$ の中から $\langle {\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_k\rangle$
の補空間の基底を $n-k$ 個探すことができます.

基底 ${\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_n$ を使って ${\bf y}_1,\cdots,{\bf y}_k$ を行列表示し、
それを $A$ とすると ${\bf y}_1,\cdots,{\bf y}_k$ を $A$ の縦ベクトルと思って
上の数ベクトルの時の方法と同じように行います.

つまり、この行列 $(AE)$ を簡約化します.
ちなみに $E$ の縦ベクトルは、基底 ${\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_n$ に対応します.

2014年11月10日月曜日

線形代数II演習第5回プリント補足

第5回のプリントについて補足しておきます.

C-5-1
$V_1,V_2\subset V$ が直和であるための次の2つの条件を満たすかどうかをチェックすること.
$V=V_1+V_2$
かつ
$V_1\cap V_2=\{{\bf 0}\}$
であれば、直和です.

C-5-2
$C({\Bbb R})$ は実数上の連続関数全体を指します.

1. は $X,Y$ がそれぞれ、 $C({\Bbb R})$ 内の実部分ベクトル空間であることを示してください.

2. は $X,Y$ のベクトル空間の和 $X+Y$ を $W$ とかくとき、それが直和になるかということです.
つまり、$X\cap Y=\{{\bf 0}\}$ になるかどうかを証明すればよいことになります.
$X,Y$ は変数ではなく、$C({\Bbb R})$ の内の部分空間であることに注意してください.

3. は $W=X+Y\subset C({\Bbb R})$ は部分空間であるが、任意の連続関数 $f\in C({\Bbb R})$
が $X+Y$ の元として書けるか、証明してください.もし書けないならどのような関数がその
2つの和として書けないかを示してください.

C-5-3  (これは塩谷先生の試験対策問題です.)
${\Bbb C}^2$ はもちろん $\{(x,y)|x,y\in {\Bbb C}\}$ を示しています.

1. この次元は実ベクトルとしての次元です.

2. この直和で書かれている部分ベクトル空間 ${\Bbb R}^2\subset {\Bbb C}^2$ は、
$\{(x,y)\in {\Bbb C}^2|x,y\in {\Bbb R}\}$ を表しています.
つまり、複素数ベクトル空間 ${\Bbb C}^2$ の中の成分がどちらも実数となるもの全体です.

D-5-1
続きの問題としているのは、C-3-3ではなく、C-5-3の続きの問題です.誤植です.
アバター(wkipedia)というのは大体分身とか化身という意味らしいですね.
一般的にどういうふうに用いられるんでしょうか.
もちろんこれは数学用語ではなく、この問題だけの用語です.

D-5-2
来週授業において皆さんに解いてもらうか、発表してもらおうと思います.


5回のプリントの補足はこれ以外にあればこのページに書き足していきます.

微積分II演習(第5回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

今日は、以下の演習を行いました.
  • テイラー展開
  • 陰関数定理
  • 陰関数の微分法

テイラー展開
 前回のページにも書きましたので省略です.

今回の宿題では3次の項まで計算するので、3次の項までのテイラー展開を書いておきます.

$d^3=\sum_{r=0}^3\binom{3}{r}h^rk^{3-r}\frac{\partial^3}{\partial x^r\partial y^{r-3}}=h^3\frac{\partial^3}{\partial x^3}+3h^3k\frac{\partial^3}{\partial x^2\partial y}+3hk^2\frac{\partial^3}{\partial x\partial y^2}+k^3\frac{\partial^3}{\partial y^3}$

ちなみに $f(x,y)$ が $C^3$ であるなら、$f_{xxy}=f_{xyx}=f_{yxx}$ など
3回までの微分において微分の順番に依りません.

$f(x,y)=f(a,b)+f_x(a,b)h+f_y(a,b)k+\frac{1}{2!}(f_x(a,b)h^2+2f_x(a,b)hk+f_{yy}(a,b)k^2)+\frac{1}{3!}(f_{xxx}(a,b)h^3+f_{xxy}(a,b)h^2k+3f_{xyy}(a,b)hk^2+f_{yyy}(a,b)k^3)+o(r^3)$
と展開できる.

授業中やっていた計算の続きをします.

$f(x,y)=\frac{1}{1-x^2y}$ とすると、
$f_{xxx}(x,y)=\frac{24xy^2(1+x^2y)}{(1-x^2y)^4},\ \ f_{xxy}(x,y)=\frac{2(1+8x^2y+3x^4y^2)}{(1-x^2y)^4}$
$f_{xyy}(x,y)=\frac{4x^3(2+x^2y)}{(1-x^2y)^4},\ f_{yyy}(x,y)=\frac{6x^6}{(1-x^2y)^4}$
よって、$f_{xxx}(0,0)=f_{xyy}(0,0)=f_{yyy}(0,0)=0, f_{xxy}(0,0)=2$

よって、3次までのテイラー展開は、
$\frac{1}{1-x^2y}=1+\frac{1}{6}(3\cdot 2x^2y)+o(r^3)\ \ (r\to 0)$
$=1+x^2y+o(r^3)$
となる.

陰関数定理
 これは、多様体論の基礎になる定理であり、解析や幾何などにとっては重要な定理です.
また、大域解析学においても、非線形微分方程式など無限次元の状況でもこのような考え方は
重要です.

陰関数定理はいろいろな形がありますが、授業では2変数で行いました.
ここではとりあえず $n$ 変数で書いておきます.

式 $F(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ に対して
$V=\{(x_1,x_2, \cdots,x_n)|F(x_1,x_2,\cdots,x_n)=0\}$ とします.


$F(x_1,\cdots,x_n)$ を $C^1$級関数とする. $(a_1,a_2,\cdots,a_n)$ を $F(a_1,\cdots,a_n)=0$ なる点とする.もし、$F_{x_n}(a_1,\cdots,a_n)\neq 0$ であるなら、この点の十分近くにおいて、 $V$ は、ある$C^1$ 級関数$\varphi$ を使って $x_n=\varphi(x_1,\cdots x_{n-1})$ なるグラフとして解くことができる.


この定理は $V$ がどのような構造をもつか知りたいときに用いられます.
つまり、集合を定めている関数 $F$ の偏微分を計算すれば
点 $(a_1,\cdots,a_n)\in V$ がその近くでどのような構造をもつ集合であるかを
理解することができます.

もし陰関数定理の仮定が成り立てば、$F(x_1,x_2,\cdots, x_n)=0$ なる集合 $V$ は
$(a_1,a_2,\cdots,a_n)$ の周辺において、 $(x_1,x_2,\cdots,x_{n-1})$
からのグラフのようになっていることになります.その定義域は $\epsilon$ 
を十分小さくとることで、 $(a_1,a_2,\cdots,a_{n-1})$ の $\epsilon$ 近傍とすることができます.
さらにその関数 $\varphi(x_1,\cdots,x_{n-1})$ は、$C^1$ 級関数になります.

その関数の傾き(偏微分)は、
$\frac{\partial \varphi}{\partial x_i}=-\frac{F_{x_i}(x_1,\cdots,x_n)}{F_{x_n}(x_1,\cdots,x_n)}$
と計算できます.

なので、接線や、接平面の方程式がすぐに導かれます.

例1
たとえば、授業中にやった例 $F(x,y)=x^2+y^2-1$ は $y= 0$ では
円の接線が傾きが無限大になって、$V$ は $x$ からの関数を作ることができません.
それ以外の場所では例えば点 $(a,\sqrt{1-a^2})$ の小さい近傍において円の一部を
$x$ からの関数として、数直線の一部 $\epsilon$-近傍です
開区間 $(a-\epsilon,a+\epsilon)$ と同一視することができます.

ただし、区間の幅を決めている $\epsilon$ は点 $a$ に応じて十分小さく取らなければ
なりません.

少なくとも $(a,\sqrt{1-a^2})$ の周辺の $V$ の集合の様子はユークリッド空間の
区間と同じものと言えます.
一般に、陰関数定理の仮定が満たされれば、$V$ が局所的に、$(x_1,x_2,\cdots,x_{n-1})$
と座標付けられたユークリッド空間の$\epsilon$ 近傍の関数のグラフとみなすできるのです.
さらにいえば、そのような関数は $C^1$ 級関数とすることができます

局所的な構造でいえば、$y=0$ の付近においても、上の例では、$F_x(x,y)\neq 0$ ですから、
$y$ を変数としてはグラフの形をしています.
このように変数を変えれば局所的に $\epsilon$ 近傍と同じとみなすことができます.

例2
$F(x,y)=x^3-y^2$ とするとき、$F(x,y)=0$ なる集合 $V$ は、下のようになります.



関数としては、$F_x(x,y)=3x^2, F_y(x,y)=-2y$



ですから、$(x,y)=(0,0)$ ではその近傍では、$x,y$ のどちらの変数としても
陰関数の定理は成り立ちません.つまり、$x$軸からも $y$ 軸からも関数の
グラフのような形をしていないことになります.
この集合は $y$ 軸の方からグラフのようになっているように見えますが、
連続的にはグラフですが、原点の付近で傾きが$y$ 軸の方からみて無限大に
なってしまっています. $x=y^{\frac{2}{3}}$ を $y$ で微分してみてください.
$y=0$ での微係数は無限大です.


つまり、この集合は原点の近くで $C^1$級関数を介してユークリッド空間の区間とは
同じとはみなせないことになります.
このようなヘンな点のことを特異点といい、このような点をどのように
理解すればよいか、難しい問題です.

このような理論は特異点論と呼ばれ、昔から、さらに今でも、
さまざまな分野において研究がなされている話題です.

結局、陰関数定理は、集合 $V=\{(x_1,\cdots,x_n)\in {\Bbb R}^n|F(x_1,\cdots,x_n)=0\}$
が局所的にどのような集合(局所的にユークリッド空間の$\epsilon$近傍であるような集合)
かを保証してくれることになります.

一点の近傍があるユークリッド空間の開集合のグラフになっていることは重要な性質で
そのような集合を多様体といわれています.


例題5-2-3
練習問題が途中になりましたので最後まで書いておくと、
$f(x,y)=x^3+2xy^2+2x^2y^2$
$f_x(x,y)=3x^2+2y^2+4xy^2$
$f_y(x,y)=4xy+4x^2y$
$f_{xx}(x,y)=6x+4y^2$
$f_{xy}(x,y)=4y+8xy$
$f_{yy}(x,y)=4x+4x^2$
$\begin{cases}3x^2+2y^2+4xy^2=0\\4xy+4x^2y=0\end{cases}$
をとくと、$(x,y)=(0,0),(-1,\pm\sqrt{\frac{3}{2}})$ ですが、

授業でやったとおり、
$(-1,\pm\sqrt{\frac{3}{2}})$ のときは $\det(H)<0$ となってしまい、
極値ではありません.

$(0,0)$ の場合は、$\det(H)=0$ となってしまし、ヘッセ行列からは判定ができません.
$f(x,y)$ の $(0,0)$ でのテイラー展開はたしかに、もっとも小さい次数は $x^3+2xy^2$ ですから
3次から始まっています.それ以外の項は4次の項 $2x^2y^2$ です

この3次というのが重要で、これが、偶数次から始まっていれば、極値になります.
3次で始まっていれば極値でないかどうか確かめるには、
$y=0$ として、$f(x,y)$ を原点に近づいてみると、
$f(x,0)=x^3$ となり、$x>0$ では、正の数であり、
$x<0$ であれば、負の数です.
よって、原点(臨界点)のいくらでも近くに、 $f(x,y)$ の値として正の数も負の数も現れ、
極値とは言えなくなります.

2014年11月8日土曜日

線形代数II演習(第5回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]


来週の授業は、19に塩谷先生の試験が有りますので、その試験対策の予定です.
今日配ったD問題あたりを解いていきます.
予習してきてください.
また、来週は発表する時間や質問を積極的に受け付ける時間を作ろうと思います.

ちなみに21は休講する予定です.


今日やったことは直和でした.
と言っても、二つのベクトル空間の和であることを確かめることと、
部分ベクトル空間の共通部分のベクトル空間の求め方に終始しました.

ちなみに、プリントは

A:前回の復習
B:授業中で行うもの
C:今回の宿題(一部塩谷先生の練習問題)
D:塩谷先生の問題と試験対策
E:前回の宿題の答え

で構成されています.
直和であることを確認するために、
ベクトル空間 $V$ が
  • $V=V_1+V_2$ とかけていることを確かめるための方法.
  • ベクトル空間 $V_1\cap V_2$ を求める方法.
をそれぞれやりました.

授業でやった計算をまとめておきます.

$V=V_1+V_2$ であること.
 $V_1,V_2$ が連立一次方程式で書かれている場合.

B-5-1をもう一度やります.
$V_1=\{{\bf v}\in{\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}2&3&1\\1&1&1\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
$V_2=\{{\bf v}\in{\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}1&0&1\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
とすると、${}^t(a_1,a_2,a_3)\in V_1$ かつ、${}^t(b_1,b_2,b_3)\in V_2$
として、任意のベクトルがこの和になっているかどうかを示す方針でもできると
思いますが、変数が6個もあって大変です.

なので、授業では、一度方程式を解くことで変数を減らしたのです.
ここで、連立一次方程式の解き方も兼ねて(授業中に質問が出たのもありましたし)
やっておきます.

$\begin{pmatrix}2&3&1\\1&1&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&1&1\\0&1&-1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&2\\0&1&-1\end{pmatrix}$
と簡約化できます.
このとき、変数は全て先頭列である$x_1,x_2$ と非先頭列である $x_3$ にわけられます.
先頭列を左辺に、非先頭列を右辺に持っていけば、
この方程式は、$x_1=-2x_3,\ x_2=x_3$ とかけます.
ここで、非先頭列の $x_3=c$ と任意定数を置けば、全ての変数は、
$\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-2c\\c\\c\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}-2\\1\\1\end{pmatrix}$ と書けることになります.
つまり、$V_1=\langle{}^t(-2,1,1)\rangle$

同じように $V_2$ の連立一次方程式の係数行列は $(1,0,1)$ であり、すでに簡約化されており、
$x_1$ が先頭列であり、 $x_2,x_3$ が非先頭列である.$x_2=c,x_3=d$ とおくと、
$x_1=-d,x_2=c,x_3=d$ より、
$\begin{pmatrix}-d\\c\\d\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}+d\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}$
つまり、$V_2=\langle {}^t(0,1,0),\ {}^t(-1,0,1)\rangle$ となる.

$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}\in V_1+V_2$ は、
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=c_1\begin{pmatrix}-2\\1\\1\end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}+c_3\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-2&0&-1\\1&1&0\\1&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}$
となるスカラー$c_1,c_2,c_3$ が存在するような元です.

任意の $\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}$ に対して、解 $\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}$ を持つかどうかの条件は、
$\begin{pmatrix}-2&0&-1\\1&1&0\\1&0&1\end{pmatrix}$ の rank が $3$ であること
が必要十分である.
今の場合、正方行列であるから、行列式が $0$ でないことが必要十分であるが、
$\det=-1\neq 0$ であるから、この方程式には解が存在する.

つまり、$V=V_1+V_2$ と2つの和に分けられることがわかる.

B-5-1(3)
次に、$V_1,V_2$ がベクトルで生成する形で書かれている場合.
$V_1=\langle{}^t(1,2,-1),{}^t(0,1,1) \rangle,\ V_2=\langle{}^t(1,1,-2)\rangle$
同じように縦ベクトルとして、行列を作れば、任意の${}^t(a_1,a_2,a_3)$ において、
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0&1\\2&1&1\\-1&1&-2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}$
とできるための必要十分条件は、$\det\neq 0$ であるが、実際、
$\det\begin{pmatrix}1&0&1\\2&1&1\\-1&1&-2\end{pmatrix}=0$ となってしまい、
任意の ${}^t(a_1,.a_2,a_3)$ が $V_1+V_2$ に属するとは限らない.

$V_1+V_2$ に属さないベクトルを求めるには、補空間の基底を求めればよい.

表せないベクトルを探すのは授業中ではやりませんでしたのでここで
書いておきます.
補空間の基底を求める方法と同じです.

3つの縦ベクトルは一次従属で、前の2つのベクトルは明らかに平行では
ありませんのでこの2つは$V_1+V_2$ の基底となります.

つまり、以下のような基本変形をすることで、
$\begin{pmatrix}1&0&1&1&0&0\\2&1&1&0&1&0\\-1&1&-2&0&0&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&1&1&0&0\\0&1&-1&-2&1&0\\0&1&-1&1&0&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&1&1&0&0\\0&1&-1&-2&1&0\\0&0&0&3&-1&1\end{pmatrix}$

ここまでやれば、1番目、2番目、4番目が一次独立であることが分かるはずです.

でも、これはやりすぎで、(単なる、基底の延長の復習ですが。)
平行でない2つ目までの縦ベクトと、適当に標準ベクトル
${}^t(1,0,0)$ を並べて$\begin{pmatrix}1&0&1\\2&1&0\\-1&1&0\end{pmatrix}$ の行列式が
非ゼロであること示すことで、補空間の基底として ${}^t(1,0,0)$ があると主張することができますので
やることはこれで十分です.

つまり、$\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}$ は
$\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\1\end{pmatrix}$ の一次結合つまり、$V_1+V_2$ として書けません.

一般のベクトル空間の場合は
ベクトル $\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ を基底を使っていつものように
$({\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_n)=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A$
と行列表示してから上のことを行いましょう.(B-5-1(2))
B-5-1(2) は授業でもやりましたね.

$V_1\cap V_2$ を求めること.
 
 B-5-2(1) は授業でやりました.

$V_1=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}0&-1&-1\\2&3&1\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
$V_2=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}-1&-1&0\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
とすると、
$V_1\cap V_2=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}0&-1&-1\\2&3&1\\-1&-1&0\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
ですので、上の連立一次方程式の解き方に習って解きましょう.
もし、 $V_1\cap V_2=\{{\bf 0\}}$ でなければ直和になりません.

$V_1=\langle\begin{pmatrix}1\\-1\\1\end{pmatrix}\rangle$
$V_2=\langle\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\rangle$
です.これは授業でやったとおり $V_1\cap V_2\neq\{{\bf 0}\}$
だったはずですので、$V_1+V_2$は直和にはなりません.

最後に、 $V_1,V_2$ がベクトルで生成される形で書かれている場合ですが、

B-5-2(2)
$V_1=\langle{}^t(1,2,-1),{}^t(0,1,1)\rangle, V_2=\langle{}^t(1,1,-2)\rangle$
ですが、$V_1\cap V_2\ni \begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}$ とおいて
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=c_1\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix}0\\1\\1\end{pmatrix}=c_3\begin{pmatrix}1\\1\\-2\end{pmatrix}$
となるような$c_1,c_2,c_3$が存在するかどうかを考えます.
移項してまとめると
$\begin{pmatrix}1&0&-1\\2&1&-1\\-1&1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}$
となる解$(c_1,c_2,c_3)$ が$V_1\cap V_2$ を定めています.
結局ここでも連立一次方程式を解くことに帰着します.

この解 $\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\-1\\1\end{pmatrix}$
が存在して、$c$ は任意定数ですから、
$V_1\cap V_2=\langle\begin{pmatrix}1\\1\\-2\end{pmatrix}\rangle$
となります.
この場合、$V_1\cap V_2\subset V_2$ となっていもいますね.

よって、$V_1+V_2=V_1$ ですからこの2つでも直和になりません.

B-5-3(1) 以降は授業ではやりませんでしたが、
今の手法を使って $V=V_1+V_2$ かつ $V_1\cap V_2=\{{\bf 0}\}$
となるかどうか確かめればよいことになります.


また、授業中にやっていた定理は次のようなものです.
この定理の意味は抽象ベクトル空間の議論を
数ベクトル空間の議論に落とすときに用いられます.

$\{{\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n\}$ が一次独立であるなら、行列表示
$({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A=(0,\cdots,0)$
が成り立つなら、$A=O$つまり、$A$ はゼロ行列です.
つまり、
行列表示が一意、つまり
$({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)B$
ならば $A=B$ であることと同じです.
後者は移項して、前者を示すことができます.
前者は後者から明らかです.

((証明をしておきます.
$({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)({\bf a}_1\cdots{\bf a}_n)$
と$A$ を縦ベクトルでおけば、
任意の $i$ に対して、
$a_{i1}{\bf v}_1+\cdots+a_{in}{\bf v}_n={\bf 0}$
となります. $A=(a_{ij})$ で、各 $a_{ij}$ はスカラーです.
今、${\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n$ は一次独立ですので、 このスカラーは
$a_{i1}=a_{i2}=\cdots =0$ でなければなりません.
ゆえに、$A=O$ がいえます.
))

そういうわけで、抽象ベクトル空間の関係式があれば、
数ベクトル空間の関係式に落として考えることができます.
また、数ベクトル空間で議論した結果は
再び同じ基底を使って抽象ベクトル空間の言葉に直す必要があります.


プリントの他の問題について、もし、やってほしい要望がありましたらここでも書きます.
知らせてください.
宿題も分からないところがありましたらメールで知らせてください.

来週は塩谷先生の試験対策をする予定で、授業自体は進みませんが

塩谷先生からもらった問題をやる.
今までの残っている問題の発表.
質問うけつけなどしようと思います.

線形代数II演習(第5回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

19に塩谷先生の試験が有りますので、来週はその試験対策です.
今日配ったD問題あたりを解いていきます.
予習してきてください.
また、来週は発表する時間や質問を積極的に受け付ける時間を作ろうと思います.

ちなみに21は休講する予定です.


今日やったことは直和でした.
と言っても、二つのベクトル空間の和であることを確かめることと、
部分ベクトル空間の共通部分のベクトル空間の求め方に終始しました.

ちなみに、プリントは

A:前回の復習
B:授業中で行うもの
C:今回の宿題(一部塩谷先生の練習問題)
D:塩谷先生の問題と試験対策
E:前回の宿題の答え

で構成されています.
直和であることを確認するために、
ベクトル空間 $V$ が
  • $V=V_1+V_2$ とかけていることを確かめるための方法.
  • ベクトル空間 $V_1\cap V_2$ を求める方法.
をそれぞれやりました.

授業でやった計算をまとめておきます.

$V=V_1+V_2$ であること.
 $V_1,V_2$ が連立一次方程式で書かれている場合.

B-5-1をもう一度やります.
$V_1=\{{\bf v}\in{\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}2&3&1\\1&1&1\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
$V_2=\{{\bf v}\in{\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}1&0&1\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
とすると、${}^t(a_1,a_2,a_3)\in V_1$ かつ、${}^t(b_1,b_2,b_3)\in V_2$
として、任意のベクトルがこの和になっているかどうかを示す方針でもできると
思いますが、変数が6個もあって大変です.

なので、授業では、一度方程式を解くことで変数を減らしたのです.
ここで、連立一次方程式の解き方も兼ねて(授業中に質問が出たのもありましたし)
やっておきます.

$\begin{pmatrix}2&3&1\\1&1&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&1&1\\0&1&-1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&2\\0&1&-1\end{pmatrix}$
と簡約化できます.
このとき、変数は全て先頭列である$x_1,x_2$ と非先頭列である $x_3$ にわけられます.
先頭列を左辺に、非先頭列を右辺に持っていけば、
この方程式は、$x_1=-2x_3,\ x_2=x_3$ とかけます.
ここで、非先頭列の $x_3=c$ と任意定数を置けば、全ての変数は、
$\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-2c\\c\\c\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}-2\\1\\1\end{pmatrix}$ と書けることになります.
つまり、$V_1=\langle{}^t(-2,1,1)\rangle$

同じように $V_2$ の連立一次方程式の係数行列は $(1,0,1)$ であり、すでに簡約化されており、
$x_1$ が先頭列であり、 $x_2,x_3$ が非先頭列である.$x_2=c,x_3=d$ とおくと、
$x_1=-d,x_2=c,x_3=d$ より、
$\begin{pmatrix}-d\\c\\d\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}+d\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}$
つまり、$V_2=\langle {}^t(0,1,0),\ {}^t(-1,0,1)\rangle$ となる.

任意の$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}\in V_1+V_2$ は、
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=c_1\begin{pmatrix}-2\\1\\1\end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}+c_3\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-2&0&-1\\1&1&0\\1&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}$
となるスカラー$c_1,c_2,c_3$ が存在するような元です.

任意の $\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}$ に対して、解 $\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}$ を持つ必要があるから、
つまり、$\begin{pmatrix}-2&0&-1\\1&1&0\\1&0&1\end{pmatrix}$ の rank が $3$ であること
が必要十分である.
今の場合、正方行列であるから、行列式が $0$ でないことが必要十分であるが、
$\det=-1\neq 0$ であるから、この方程式には解が存在する.

つまり、$V=V_1+V_2$ と2つの和に分けられることがわかる.

B-5-1(3)
次に、$V_1,V_2$ がベクトルで生成する形で書かれている場合.
$V_1=\langle{}^t(1,2,-1),{}^t(0,1,1) \rangle,\ V_2=\langle{}^t(1,1,-2)\rangle$
同じように縦ベクトルとして、行列を作れば、任意の${}^t(a_1,a_2,a_3)$ において、
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0&1\\2&1&1\\-1&1&-2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}$
とできるための必要十分条件は、$\det\neq 0$ であるが、実際、
$\det\begin{pmatrix}1&0&1\\2&1&1\\-1&1&-2\end{pmatrix}=0$ となってしまい、
任意の ${}^t(a_1,.a_2,a_3)$ が $V_1+V_2$ に属するとは限らない.

$V_1+V_2$ に属さないベクトルを求めるには、補空間の基底を求めればよい.

表せないベクトルを探すのは授業中ではやりませんでしたのでここで
書いておきます.
補空間の基底を求める方法と同じです.

3つの縦ベクトルは一次従属で、前の2つのベクトルは明らかに平行では
ありませんのでこの2つは$V_1+V_2$ の基底となります.

つまり、以下のような基本変形をすることで、
$\begin{pmatrix}1&0&1&1&0&0\\2&1&1&0&1&0\\-1&1&-2&0&0&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&1&1&0&0\\0&1&-1&-2&1&0\\0&1&-1&1&0&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&1&1&0&0\\0&1&-1&-2&1&0\\0&0&0&3&-1&1\end{pmatrix}$

ここまでやれば、1番目、2番目、4番目が一次独立であることが分かるはずです.

でも、これはやりすぎで、(単なる、基底の延長の復習ですが。)
平行でない2つ目までの縦ベクトと、適当に標準ベクトル
${}^t(1,0,0)$ を並べて$\begin{pmatrix}1&0&1\\2&1&0\\-1&1&0\end{pmatrix}$ の行列式が
非ゼロであること示すことで、補空間の基底として ${}^t(1,0,0)$ があると主張することができますので
やることはこれで十分です.

つまり、$\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}$ は
$\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\1\end{pmatrix}$ の一次結合つまり、$V_1+V_2$ として書けません.

一般のベクトル空間の場合は
ベクトル $\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ を基底を使っていつものように
$({\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_n)=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A$
と行列表示してから上のことを行いましょう.(B-5-1(2))
B-5-1(2) は授業でもやりましたね.

$V_1\cap V_2$ を求めること.
 
 B-5-2(1) は授業でやりました.

$V_1=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}0&-1&-1\\2&3&1\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
$V_2=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}-1&-1&0\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
とすると、
$V_1\cap V_2=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}0&-1&-1\\2&3&1\\-1&-1&0\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
ですので、上の連立一次方程式の解き方に習って解きましょう.
もし、 $V_1\cap V_2=\{{\bf 0\}}$ でなければ直和になりません.

 B-5-2(1)

$V_1=\langle\begin{pmatrix}\end{pmatrix}\rangle$
$V_2=\{{\bf v}_1\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}-1&-1&0\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\}$
です.これは授業でやったとおり $V_1\cap V_2\neq\{{\bf 0}\}$
だったはずですので、$V_1+V_2$は直和にはなりません.

最後に、 $V_1,V_2$ がベクトルで生成される形で書かれている場合ですが、

B-5-2(2)
$V_1=\langle{}^t(1,2,-1),{}^t(0,1,1)\rangle, V_2=\langle{}^t(1,1,-2)\rangle$
ですが、$V_1\cap V_2\ni \begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}$ とおいて
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=c_1\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix}0\\1\\1\end{pmatrix}=c_3\begin{pmatrix}1\\1\\-2\end{pmatrix}$
となるような$c_1,c_2,c_3$が存在するかどうかを考えます.
移項してまとめると
$\begin{pmatrix}1&0&-1\\2&1&-1\\-1&1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}$
となる解$(c_1,c_2,c_3)$ が$V_1\cap V_2$ を定めています.
結局ここでも連立一次方程式を解くことに帰着します.

この解 $\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\-1\\1\end{pmatrix}$
が存在して、$c$ は任意定数ですから、
$V_1\cap V_2=\langle\begin{pmatrix}1\\1\\-2\end{pmatrix}\rangle$
となります.
この場合、$V_1\cap V_2\subset V_2$ となっていもいますね.

よって、$V_1+V_2=V_1$ ですからこの2つでも直和になりません.

B-5-3(1) 以降は授業ではやりませんでしたが、
今の手法を使って $V=V_1+V_2$ かつ $V_1\cap V_2=\{{\bf 0}\}$
となるかどうか確かめればよいことになります.


また、授業中にやっていた定理は次のようなものです.
この定理の意味は抽象ベクトル空間の議論を
数ベクトル空間の議論に落とすときに用いられます.

$\{{\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n\}$ が一次独立であるなら、行列表示
$({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A=(0,\cdots,0)$
が成り立つなら、$A=O$つまり、$A$ はゼロ行列です.
つまり、
行列表示が一意、つまり
$({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)B$
ならば $A=B$ であることと同じです.
後者は移項して、前者を示すことができます.
前者は後者から明らかです.

そういうわけで、抽象ベクトル空間の関係式があれば、
数ベクトル空間の関係式に落として考えることができます.
また、数ベクトル空間で議論した結果は
再び同じ基底を使って抽象ベクトル空間の言葉に直す必要があります.


プリントの他の問題について、もし、やってほしい要望がありましたらここでも書きます.
知らせてください.
宿題も分からないところがありましたらメールで知らせてください.

来週は塩谷先生の試験対策をする予定で、授業自体は進みませんが

塩谷先生からもらった問題をやる.
今までの残っている問題の発表.
質問うけつけなどしようと思います.

2014年11月5日水曜日

2変数関数のグラフの凹凸

2変数関数の臨界点 ( $f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ なる点 $(a,b)$ )において、
グラフの局所的な振る舞いを描いておきます.
授業では適当にしか描けませんでしたので.
この図でイメージを膨らませてください.

解説は
微積分II演習第4回
を見てください.

$f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ となる臨界点 $(a,b)$ での近くの $f(x,y)$ の様子です.

まず、関数は2階微分くらいはしますので、少なくとも $C^2$ 級くらい仮定しましょう.
そのとき、臨界点 $(a,b)$ の近くで、関数 $f(x,y)$ は以下のようにテイラー展開できます.

$$f(x,y)=f(a,b)+\frac{f_{xx}(a,b)}{2}h^2+f_{xy}(a,b)hk+\frac{f_{yy}(a,b)}{2}k^2+o(r^2)$$
$h=x-a,\ k=y-b$
$r=\sqrt{h^2+k^2}$


テイラー展開とは、関数のその点での主要な項を順番にならべたもので、
人は、その項を、0次、1次、2次と順番に理解していくことになりますが、
前の項が消えていなければ、その項で理解出来ますので、次の項の役目はありません.
つまり、2次が消えていなければ、3次の項が関数に理解に役立つことはありません.
ただし、2次の項が消えているときは、3次の項が一時的にむき出しになり、その役目を
問うことになるのです.


0次の項はその点での値を意味しますから、曲がり方には関係ありません.

曲がり方における主要項は2次の項で、それが消えていなければ、
その項をみます.
ここで、ヘッセ行列を $H$ とします.(微積分II演習第4回 参照)


まずは、$\det(H)\neq 0$ となる状況(非退化といい、そうでないとき、退化といいます)を仮定します.
非退化のとき、臨界点が極値であるか、そうでないかはっきりとわかるようになります.
非退化であるということは、関数が定義域の $(x,y)$ 平面においてあらゆる方向において
2次の項が消えていないということです.なので、どの方向にも
3次の項は2次の項に隠れて見えなくなります.
行列そのものではなく、行列式を見るのは、全ての方向で
2次の項が消えていないようにしたいからです.


$H$ が正定値 $\Leftrightarrow\det(H(a,b))>0,\ f_{xx}(a,b)>0 \Leftrightarrow H$の固有値が両方正
このとき $(a,b)$ は極小点になります




$H$ が負定値 $\Leftrightarrow\det(H(a,b))>0,\ f_{xx}(a,b)<0\Leftrightarrow H$の固有値が両方負
このとき、$(a,b)$ は極大点になります

 

$H$ が不定値 $\Leftrightarrow\det(H(a,b))<0\Leftrightarrow H$の固有値が正と負
このとき、$(a,b)$ は極点ではありません
 
 
馬の鞍(背中)と言っているのはこのような形状のことです.

$H$ は実固有値を2つ持ちますが、その2つの固有値は何を意味しているかというと、
曲面の曲がり方(曲率)です.
正確に言えば、ある直線に沿った曲面の曲がり具合です.
その2つの固有値は、あらゆる方向を向いたときに、その方向(固有ベクトル)において
最大の曲率と最小の曲率を与えているのです.

最後の絵ではこの矢印のA方向が最大の正の方向、Bの方向が最小の負の方向です.


曲率の定義は2年生の授業で習いますが、曲率(の絶対値)が大きいと曲がり方が急になり、
小さいと、曲がり方が緩やかになります.ここでは、その方向での関数の
2階偏微分と思っても問題ありません.
上の馬の鞍においては、A 方向と B 方向での2階偏微分です.
それぞれ、正の数、負の数なので、
(正の固有値)$\times$ (負の固有値)=(負のヘッシアン)
となるわけです.


次に退化している状況を考えます.
要するに $\det(H(a,b))=0$ となる状況です.
ヘッセ行列の固有値でいえば、最大、または最小に曲がっている曲率が $0$ のときです.
これは、極値かどうか判定するのは微妙な問題です.

例えば、
$\det(H)=0$ かつ、$\text{rank}(H)=1$ のときを考えます.
これは、或る方向は2次近似は消えていないが、他の方向において、2次近似が消えてしまって、
3次の項が見えている状況です.

関数を2次近似してみていくと
局所的には(2次近似までは)下のようになりますが....


(ちなみに、このグラフ上の真ん中の点を中心にぐるっと一周してみると、2方向においてフラットで、
それ以外では曲がり方は全て正の方向です.)

これは、$f(x,y)=f(a,b)+c(ax+by)^2+o(r^2)$ のような関数なわけですが、凸として曲がっている
成分が一方向あり、その補空間の方向では2次近似においては曲がっていません.
一定です.
上の式で言えば$ax+by=0$ の方向で、2次近似がきえています.

このとき $f(x,y)$ がどう曲がっているかは
3次近似以降にゆだねられます.
ここでは、上向きに曲がっているのか、下向きに曲がっているのか分かりません.
もしかしたら極値ではないかもしれません.

例えば、
$f(x,y)=x^2+y^4$ 極小値.
$f(x,y)=x^2-y^4$ 馬の鞍状態.(極値ではありません.)
$f(x,y)=x^2+y^3$ 極値ではない.(馬の鞍でもない.)

な感じです.もちろんこれはもっとも分かりやすい状況で臨界点の様子はもっと複雑になります.

$\text{rank}(H)=0$ の場合では、曲がり方全ての方向で、3次以降に全て委ねられます.
これは1年生の微積分の範囲を大幅に超えてしまいますのでストップです.
まずは、3次形式を学ぶ必要があります.
そのとき、標準形がどのような関数になるのか私は知りません.

しかし、一般に、ヘッセ行列が退化している場合の極値問題は、
ニュートン図形など用いると判定が出来る場合があります.

もし、ニュートン図形について知りたければ、下のレファレンスにある岩崎克則先生の
「極値問題とニュートン図形」
(2変数多項式関数を使って極値なるための必要条件、および十分条件を例を使って分かりやすく解説している.)
もしくは、1. の文献が引用しているヴァシリエフの論文がよいようです.

このような話題は微積分の発展問題として勉強したり、問題を見つけるのは面白いと思います.

  1. 岩崎克則、極値問題とニュートン図形、50回OR学会シンポジウム2003年9月31-55
  2. Vassiliev,Asymptotoic exponential integrals, Newton's diagram and classification of minimal points, Funct. Anal. Appl. 11(3) 1977,163-172

2014年11月4日火曜日

微積分II演習(第4回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

今日の授業は、
  • 合成関数の微分法II
  • テイラー展開
  • 極値を求める問題
です.

合成関数の微分法II
 先週やった合成関数の微分法は、$f(\varphi(t),\psi(t))$ と
$x,y$ に入る関数が一変数でしたが、今回は、$f(\varphi(s,t),\psi(s,t))$ と
二変数ありました.

$F(s,t)=f(\varphi(s,t),\psi(s,t))$ とおくと、
$$\left(\frac{\partial F}{\partial s},\frac{\partial F}{\partial t}\right)=\left(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y}\right)\begin{pmatrix}\frac{\partial \varphi}{\partial s}&\frac{\partial \varphi}{\partial t}\\\frac{\partial \psi}{\partial s}&\frac{\partial \psi}{\partial t}\end{pmatrix}$$
となります.

前回の合成関数の微分法を $s$ と $t$ で行ってから横ベクトルとして並べれば
この形になります.

最後の行列はヤコビ行列といい、その行列式はヤコビアンといいます.

 テイラーの定理
 多変数関数のテイラーの定理は一変数の定理を応用すればでます.
書いておきます.
$h=x-a,\ k=y-b$ とし、$d=h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial }{\partial y}$ とおくと、
$$f(x,y)=f(a,b)+(df)(a,b)+\frac{df}{2!}(a,b)+\frac{d^2f}{3!}(a,b)+\cdots+\frac{d^{n-1}f}{(n-1)!}(a,b)+\frac{d^nf}{n!}(a+\theta h,b+\theta k)\ \ 0<\theta<1$$
のように展開できます.

多変数の関数を多変数の多項式で近似するための定理です.
授業中では、$d^nf$ の扱いに手間取って最後まで計算出来ませんでしたが、
$d^n$の計算を途中で勘違いしたためです.

ここで、もう一度やっておくと、展開式はやはり
$$d^n=\sum_{r=0}^\infty\binom{n}{r}h^rk^{n-r}\frac{\partial^n}{\partial x^r\partial y^{n-r}}$$
であっており、テイラー展開を定義通り計算するには高次偏微分を
計算出来ないといけませんでした.
ちなみに、この2項係数$\binom{n}{r}$ は
$\frac{n!}{r!(n-r)!}={}_rC_{n-r}$ のことです.

授業では $f(x,y)=\frac{y^3}{1-x^2y}$ を定義通りやってしまい挫折しました.

こんな簡単な関数でも高階の偏微分を計算するのは難しいですね.
そういうわけで、他の方法を試しましょう.

まず、多項式のテイラー展開(無限級数展開)をランダウの記号を使ってまとめておきます.
$C^n$級関数とすると、
$r=\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2}$ として
$$f(x,y)=f(a,b)+\frac{df}{1!}(a,b)+\cdots+\frac{d^nf}{n!}(a,b)+o(r^n)\ \ (r\to 0)$$
ちなみに、$\frac{d^nf}{n!}(a,b)$ は
$\sum_{r=0}^n\frac{h^r}{r!}\frac{k^{n-r}}{(n-r)!}\frac{\partial^nf}{\partial x^r\partial y^{n-r}}(a,b)$
を意味します.

一変数のテイラー展開を使いましょうか.
$|x^2y|<1$ であれば、
$f(x,y)=y^3(1+x^2y+(x^2y)^2+(x^2y)^3+\cdots+x^{2n}y^n+o((x^2y)^n)\ \ (x^2y\to 0)$
と展開できます.ランダウの記号を
$o(r^N)\ (r\to 0)$
の形にしましょう.

$u(x,y)=o((x^2y)^n)\ \ (x^2y\to 0)$ となる任意の関数 $u(x,y)$ を置きます.
このとき、極限を $(x,y)\to (0,0)$ に変えて、
$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{u(x,y)}{r^{3n}}=\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{u(x,y)}{(x^2y)^n}\frac{(x^2y)^n}{r^{3n}}$
$(x,y)\to (0,0)$ ならば、$x^2y\to 0$ ですから、
最初の項は定義とこの性質から $0$ に収束します.

任意の点列 $x_n=r_n\cos\theta_n,\ y_n=r_n\sin\theta_n$ をとります.
ただし $r_n\to 0\ \ (n\to  \infty)$ です.
$\limsup_{n\to\infty}|\frac{(x_n^2y_n)^n}{r_n^{3n}}|= \limsup_{n\to \infty}|\frac{r_n^{3n}\cos^{2n}\sin\theta_n\sin^n\theta_n}{r_n^{3n}}|$
$=\limsup_{n\to \infty}|\cos^{2n}\theta_n\sin^n\theta_n|\le 1$
つまり、後半の項は収束しないかもしれないが極限の近くで有界ではあります.

ゆえに、
$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{u(x,y)}{r^{3n}}=0$
つまり、$o((x^2y)^n)=o(r^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$ が成り立ちます.

テイラー展開は
$\frac{1}{1-x^2y}=1+x^2y+(x^2y)^2+\cdots+(x^2y)^n+o(r^n)$
となり、同じように、$y^3o(r^{3n})=o(r^{3n+3})\ \ (x,y)\to (0,0)$ ですから、
$f(x,y)=\frac{y^3}{1-x^2y}=y^3+x^2y^4+x^4y^5+\cdots+x^{2n}y^{n+3}+o(r^{3n+3})\ \ (x,y)\to (0,0)$
となります.

つまり、逆に言えば、$f_{xxxxyyy}(0,0)$ などまじめに計算しなくても、$0$ になる
ことがわかります.


極値問題
 多変数関数の極値を考えます.一変数の極値問題の流れと比較しましょう.

一変数
(1) 微分 $f'(a)=0$ となる点 $a$ を考える
(2) $a$ での2階微分 $f''(a)$ が正か負かを調べる
(3) $f''(a)>0$ であれば、極小、$f''(a)<0$ であれば、極大.($a$ の周りで$f'(x)$ が増えているか減っているかを調べている.)
(4) 微分が$0$ でない点において、関数は、$f''(x)>0$ なら下に凸、
$f''(x)<0$ なら上に凸に膨らませて書く.

(3)' $f''(a)=0$ でも、$a$ の前後で$f'(x)$ の符号の様子から極大、極小を判定する.

関数の振る舞いは増減表に集約されていました.
また、関数は上に凸か下に凸か、変曲点かのどれかでした.

多変数関数(ここでは2変数)の場合、一変数ほど正確なグラフは描けませんので、
調べ方は少し荒くなります.増減表も書けませんので極値の位置などを調べる
のみになります.また、関数は上に凸、下に凸以外にも形状が存在します.

まず、2階偏微分そのものの代わりに
$$H(a,b)=\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}$$
なる行列を考えます.ヘッセ行列といいます.またその行列式のことをヘッシアンといいます.
$$\begin{cases}
\det(H(a,b))>0,\ f_{xx}(a,b)>0&\text{正定値}\\
\det(H(a,b))>0,\ f_{xx}(a,b)<0&\text{負定値}\\
\det(H(a,b))<0&\text{不定値}
\end{cases}$$
といいます.

二変数
(1) 偏微分 $f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ なる点 $(a,b)$ を考える.(偏微分が両方消えている点を臨界点といいます.)
(2) $(a,b)$ でのヘッセ行列 $H$ が正定値か負定値かを調べる.
(3) $H(a,b)$ が正定値であれば、極小点、負定値であれば、極大点、不定値ならば、
鞍点(馬の背中(鞍)).
(4) 偏微分が$0$ でない点では、関数は $H$ が正定値なら下に凸、$H$ が負定値なら上に凸、不定値なら馬の背中.

(3)' ヘッシアンが $0$ の臨界点でも $a$ の近くの点で全て接平面より上側にあれば極大点、下側にあれば極小点になります.そうでなければ、極大でも極小でもありません.鞍点であるかどうかも
分かりません.

宿題ではヘッシアンが $0$ となる点を含む問題も出しましたので
授業でやった要領で答えてください.

まとめると以下のようになります.

上に凸$\hspace{1cm}\Leftrightarrow$ ヘッシアンが正定値
下に凸$\hspace{1cm}\Leftrightarrow$ ヘッシアンが負定値
馬の鞍(鞍点)$\hspace{1cm}\Leftrightarrow$ 不定値


実2次対称行列 (固有値、固有ベクトルをよく知っている人向け)
 
 $A=\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}$ を2次の対称行列といいます.
まず、実対称行列は固有値が実数であり、対角化できます.

実対称行列が正定値、負定値というのは、任意の $(h,k)\neq(0,0)$ に対して
$(h,\ k)H\begin{pmatrix}h\\k\end{pmatrix}$ がいつでも正の数かいつでも負の数かという
ことです.
不定値とは、$(h,k)\neq (0,0)$ の値によって正の数か負の数か変わるということです.
$n$ 次対称行列でも定義は同じことです.
実2次対称行列が
正定値であることは $\det(A)>0,a>0$ と同値であり、
負定値であることは $\det(A)>0,a<0$ と同値であり、
不定値であることは $\det(A)<0$ と同値なのです.

関数の状況に直せば、臨界点の位置に立って四方八方を見たときに、
いつでも関数が上向きになっている状況が正定値
いつでも関数が下向きになっている状況が負定値
関数が上向きになったり、下向きになったりしている状況が不定値

不定値の場合、上向きになったり、下向きになったりする方向は2か所あります.
その一番上向きになっているところが、 $A$ の正の固有値の固有ベクトルの方向で、
その一番下向きになっているところが、 $A$ の負の固有値の固有ベクトルの方向です.

つまり、山の峠において、頂上に向かうルートが固有値の正の方向で、
麓に直行する方向が固有値負の方向ということになります.
また、頂上に向かうルートと麓に直行ルートはいつでも直交しています.

この直交性は秋学期の線形代数でも習います.