2015年4月16日木曜日

結び目の科学

結び目という学問があります.筑波大でもその研究者はいますし、日本にも多くの結び目の研究者がいます.結び目というと日常生活でも電話のコードや電気の紐がからまったときに、「結び目ができてしまっているから解かないと....」 などと使ったりしてお馴染みの単語です.そんな日常的なものが数学になるのか?と思うかもしれません.それを研究するとはどういうことか?
お話します.

まずは、数学でいう結び目が何かを話します.
(結び目は数式で表すものでもないので、ちゃんと説明していると文章だらけになってしまいました.)

結び目の定義

まず、結び目とは、空間の中に埋め込まれた円周のことをいいます.埋め込まれたとは、円周自身が空間の中でぶつかったり、どこかでくっついたり、一点に縮んでしまったりしていないことを表します.また、2つの結び目が同じであるとは空間の中で、一方の結び目を、切ったり、切ったものを再びつないだりしないで空間の中で自由に動かしてやってもう一方に押しつけることができるとき、2つの結び目は同じであるといいます.この切ったり貼ったりしない空間の中の操作イソトピー(isotopy)といいます.丁度、絡まってしまったいくつかのアクセサリーを切らずに上手に解いて分離するような操作です.結び目の例として、よくある輪ゴムの形もありますが、一度輪を外して複雑に絡めておいてから再び繋いで出来るものでも構いません.普通、下のような絵がそのような結び目に対応します.


これは三葉結び目と呼ばれており、この結び目をこのように置いたときにちょうどクローバーの葉に似ているためそうよばれています.これは普通の輪ゴム(結ばれていない円周)とはちょっと違うことは直感としてわかると思います.上の言葉を使えば三葉結び目と結ばれていない円周はイソトピーでは移りあわないといいます.ではどのように違うのでしょうか?

ちなみにこのような結び目の絵を図式(diagram)といいます.結び目の線が途中で交わってもその線が上を通っているか、下を通っているかがちゃんとわかるように描かれています.下を通る線は線を一度切って表現するというのは誰が最初に考えたのでしょうか?かなり絵心のある人であることは間違いありません.

結ばれていない輪ゴムのような円周も結び目の仲間です.これは一般の感覚と違うかもしれませんが、 0 を数に含めるのと同じような理屈だと思えばきわめて自然です.結ばれていない結び目のことを自明結び目といいます.

結び目の不変量

次に、不変量を説明します、不変量全体の意味としては、ある操作で変形しても変わらない量のことです.結び目でいえば、イソトピーで変形しても変わらない量のことです.

回りくどく書けば、以下のようになります.ある量が、結び目を見たときに計算できたとします.そのとき、勝手なイソトピーで結び目を動かした後に再びその量を計算し直したとしても結局最初に計算した量と一致するとき、その量を結び目不変量といいます.

ある量が不変量であるかどうかは見極めは素朴には大変です.あらゆる動かし方を考えても変わらないことを保証する必要があるからです.結び目不変量は、結び目を動かして、見かけの様子が変わってしまっても、元の状態のことを覚えていなければならないという点で、結び目のいわく言い難い何かの性質を如実に捉えている必要があります.

見ため重視の結び目において、どれほど見かけにとらわれない量がそこから取り出せるかということが大事になのです.やはり大事なものは目に見えないという普遍的事実がここでも適用されるのです.

戻ります.結び目不変量は探すのは大変なので、不変量とならない簡単な例を最初に挙げておきます.

例えば、結び目からある図式を与えたときに、出来る平面上の区画の数を考えましょう.そうすると、上の三葉結び目の図式に対しては一番広い部分も含めて、平面は5個に分かれます.しかしこの5は結び目の不変量とはなりません.というのも、自明な結び目を




のように動かしてやると、左は平面を2個に分けていますが、右は5個に分けています.このくるくると回す操作は輪ゴムを切ったりしない操作(イソトピー)で実現できますので、やはりこの量は不変量とはならないという結論になるわけです.

もちろん結び目を文字通り「見てわかるもの」でなくても結び目から取り出したある性質(および量)がその結び目の空間の中での変形操作によらないものであればよいのです.要するに結び目全体において、イソトピーで移りあう結び目同士は同じ値に行くような関数のようなものだと捉える事ができます.

このように、結び目を不変量を通して見てやると、はっきりと真偽の結論がつけられる話題が提供できるという点で、結び目が科学の一部であることが得られました.

では、結び目不変量はどう作るのでしょうか?(次回)

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