2015年4月3日金曜日

乗法的関数とゼータ関数

ひとつ前のblogで乗法的関数とメビウスの反転公式について説明しましたのでディリクレ級数やゼータ関数の関係させて書きます.

ディリクレ級数

$f(n)$ を関数とします.
このとき、
$$F(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{f(n)}{n^s}$$
と定義します.これをディリクレ級数と言います.これは関数 $f(n)$ のある意味数論的母関数と呼ぶべきものです.$f(n)$ の全ての値を含んでいるからです.このような級数として最も簡単なものとしてゼータ関数 $\zeta(s)$
$$\zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^s}$$
がありますが、これは定数関数 $\text{id}(n)=1$ に対するディリクレ級数です.
ディリクレ級数は複素平面上の関数であり、その収束域が気になります.
収束域は、 $\text{Re}(s)=:\sigma$ が $\sigma\ge \sigma_0$ なるところで考えることが多く、べき級数での収束半径ならぬ、収束軸 $\{\sigma_0+it|t\in {\Bbb R}\}$ が存在します.その軸より右の領域 $\text{Re}(s)>\sigma$ では、絶対収束や広義一様収束が成り立ちます.
収束域の中では正則な関数となり、解析接続を行えば複素平面上において極以外で正則な関数として振舞うことは普通のべき級数と同じです.
これらは解析的な側面ですが、ここでは数論的な側面について解説します.

オイラー積展開
 よく知られているゼータ関数のオイラー積展開は
$$\zeta(s)=\prod_{p}\left(1+\frac{1}{p^s}+\frac{1}{p^{2s}}+\cdots\right)=\prod_p\left(1-\frac{1}{p^s}\right)^{-1}$$
ですが、関数 $f(n)$ として、数論的な乗法的関数 $f(n)$ の母関数 $F(s)$ を考えると、
$$F(s)=\prod_p\left(1+\frac{f(p)}{p^s}+\frac{f(p^2)}{p^{2s}}+\cdots\right)$$
のように素数の積の形に直すことができます.$f(n)$ が完全乗法的(つまり、$n,m$ が 互いに素でなくても $f(nm)=f(n)f(m)$ が成り立つ乗法的関数)であれば$\prod_p\left(1-\frac{f(p)}{p^s}\right)^{-1}$ と素数 $p$ の値 $f(p)$ にしか依らない形にまで直すことができます.完全乗法的でない乗法的関数であれば $f(p^n)$ が $n$ によって指数的とは限りませんので、その振舞い方の情報もいるというわけです.例えばメビウス関数 $\mu(n)$ は任意の素数に対して $f(p)=-1$ ですが $f(p^2)$ 以降は消えてしまいます.
大事なことは、乗法的関数は母関数を素数によったなんらかの関数の積の形に直すことができるということです.乗法的でなければ一般には素数によった積に直すこともできません.

母関数の積の母関数
 
 $f(n),g(n)$ に対する母関数を $F(s),G(s)$ とします.このとき、積 $F(s)G(s)$ は
$$F(s)G(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{f(n)}{n^s}\sum_{m=1}^\infty\frac{g(m)}{m^s}=\sum_{n,m=1}^\infty \frac{f(n)g(m)}{(nm)^s}=\sum_{k=1}^\infty\frac{1}{k^s}\sum_{n|k}f(n)g(\frac{k}{n})$$
となります.つまり、$F(s)G(s)$ は
$$F(s)G(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{f\ast g(n)}{n^s}$$
となります.つまり、畳みこみ $f\ast g(n)=\sum_{d|n}f(d)g(\frac{n}{d})$ の母関数になるのです.
このとき、これらの関数は $f(n),g(n)$ が乗法的かどうかは関係ありません.

どうして数論においてディリクレ級数を使うのか?

まず畳みこみの積と関数の積がどうして対応するのか考えます.例えばべき級数展開の場合、$z^n$ と $z^m$ をかけた時には指数法則で $z^{n+m}$ となります.つまり2つのべき級数を掛けてまとめた時には各項は $\sum_{n+m=k}$ となる和が現れます.しかし、ディリクレ級数の場合は、$n^{-s}$ と$m^{-s}$ をかけた時には指数法則は使わず単に $(nm)^{-s}$ とまとめられます.つまり、2つのディリクレ級数をかけると、各項には、$\sum_{nm=k}$ なる和が現れるのです.つまり、$k$ を固定したときに $k$ の約数にわたる和を求めることになるのです.約数倍数に関する話はやはり数論にかかわるはずです.これがディリクレ級数が数論で多く登場する理由です.

話を元に戻します.$f(n)$ のメビウス変換を $g(n)$ とします.つまり、$g(n)=\sum_{d|n}f(d)$ です.
このとき、$f(n), g(n)$ の母関数を $F(s),G(s)$ とすると、上の式を用いれば、$\zeta(s)$ は定数関数 $1$ に関する母関数でしたから、
$$G(s)=F(s)\zeta(s)$$
となります.また、メビウスの反転公式が意味するところは
$$F(s)=G(s)M(s)$$
が言えるのです.ここで、$M(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$ とおきました.
つまり、$\zeta(s)M(s)=1$ となります.
これは、前回の等式
$$\sum_{d|n}1\cdot\mu(\frac{n}{d})=\Delta(n)=\begin{cases}1&n=1\\0&n\neq 1\end{cases}$$
を母関数のレベルでみたものです.$\Delta(n)$ の母関数は $1$ です. よって、
$$\frac{1}{\zeta(s)}=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$
成り立ちます.つまりメビウス関数 $\mu(n)$ はゼータ関数の逆数をディリクレ級数展開したときにあらわれる係数だったのです.

少し遊んでみると、

恒等関数 id の母関数は
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{n}{n^s}=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^{s-1}}=\zeta(s-1)$$
となります.

$$\zeta(2s)=\prod_{p}\left(1-\frac{1}{p^{2s}}\right)^{-1}$$
ですから、$\zeta(2s)$ は
$$f(n)=\begin{cases}1&n\text{が平方数}\\0&n\text{が平方数ではない}\end{cases}$$
なる完全乗法的関数の母関数となります.よって、
$$\frac{\zeta(s)}{\zeta(2s)}=\frac{\prod_{p}\left(1-\frac{1}{p^{2s}}\right)}{\prod_{p}\left(1-\frac{1}{p^{s}}\right)}=\prod_{p}\left(1+\frac{1}{p^s}\right)=\sum_{n=1}^\infty\frac{|\mu(n)|}{n^s}$$
となり、関数 $|\mu(n)|$ の母関数は$\frac{\zeta(s)}{\zeta(2s)}$ となります.

また、畳みこみの積 $1\ast 1=d$ からただちに
$$\zeta(s)^2=\sum_{n=1}^\infty \frac{d(n)}{n^s}$$
が成り立ちます.

ゼータ関数を微分してやると
$$\zeta(s)'=-\sum_{n=1}^\infty\frac{\log(n)}{n^s}$$
となりますが、$\log(n)$ はフォン-マンゴルト関数 $\Lambda(n)$ のメビウス変換でしたので、逆変換をしてやって
$$\zeta(s)'M(s)=-\sum_{n=1}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s}$$
が成り立ちます.よって、
$$\log(\zeta(s))'=\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}=-\sum_{n=1}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s}$$
となります.
よって、数論的関数の母関数の微分は再び数論的関数の母関数にはなりません.

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