2016年1月31日日曜日

微積分II演習(第14回) 前半

[場所1E103(金曜日5限)]


今日は
  • 級数の収束について
  • べき級数展開、収束半径
について行いました.
これは、前半です.後半は次のblog(←リンク)です.

級数の収束について


絶対収束と条件収束について

級数の収束については、結構微妙なことが多く難しいのですが、
ここでは一般的によく使う方法についてまとめておきます.
級数とは、ある数列 $a_n$ の全ての総和のことであり、つまり
レポートなどを見ているとよく分かっていない人のために少し書きます.
$$\sum_{n=1}^\infty a_n=\lim_{N\to \infty}\sum_{n=1}^Na_n$$
のことです.この極限が収束するかということが問題となります.

また、出てくる数列は全て正のものが多いです.
というのも、数列が、正負のものがどちらも無限個出てくるとすると、事態は難しくなります.
正負どちらも無限個出るとしても、絶対収束するもの、
つまり、絶対値を取った級数 $\sum_{n=1}^\infty|a_n|$ が収束するような級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ だけ考えます.

絶対収束しないような収束のことを条件収束といいます.
よくある条件収束は、$\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{n}$ です.
これは、$\log (1+x)$ のテイラー展開に 1 を代入したものなので、値も分かり、$\log 2$ です.

条件収束のよくないところは、和のとり方の順番を替えると値が変わることです.

例えば、上の例で、和の順番を替えてやると次のように計算されます.

$$\sum_{n=1}^\infty \left(\frac{(-1)^{4n-2}}{4n-1}+\frac{(-1)^{4n}}{4n+1}+\frac{(-1)^{2n-1}}{2n}\right)=1-\frac{3}{2}\log 2$$

このようなことは、少々議論が大変なので、これ以降級数の項は全て正の数としておきます.

コーシーの方法

級数$\sum_{n=1}^\infty a_n$ が正項級数であり、$\sqrt[n]{a_n}\le r<1$ となるなら、
$\sum_{n=1}^\infty a_n$ は収束する.


この方法は級数が収束するための十分条件を与えており、決して必要条件ではありません.
また、$r$ に収束するか、または有限個の $n$ を除いてこの条件が成り立つとしても収束性は変わりません.


また、この $r$ のことを全く無視して $\sqrt[n]{a_n}<1$ だからといって収束するとは限りません.

証明は $\sum_{n=1}^\infty a_n\le \sum_{n=1}^\infty r^n=\frac{r}{1-r}$ となり、右辺は有界だから、
$\sum_{n=1}^N a_n$ の増大もどこかでとまる.つまりこの級数が収束するということになります.


ダランベールの方法

級数$\sum_{n=1}^\infty a_n$ が正項級数であり、$\frac{a_{n+1}}{a_n}\le r<1$ となるなら、
$\sum_{n=1}^\infty a_n$ は収束する.

この方法もコーシーの方法と同じで、収束するための十分条件であり、$r$ がきちんと $1$ より下でとれなければ意味がありません.
また、$r$ に収束するか、または有限個の $n$ を除いてこの条件が成り立つとしても収束性は変わりません.

また、$\frac{a_{n+1}}{a_n}<1$ となるような状況だけだと、収束することも発散することも分かりません.しかし、それが $1$ より少しでも小さい値で抑えられる場合は、収束が言えます.

今回の宿題にあったように $\sum_{n=1}^\infty n\sin(\frac{\pi}{2^n})$ なる級数だと、ダランベールの方法を用いて
$\frac{(n+1)\sin\frac{\pi}{2^{n+1}}}{n\sin\frac{\pi}{2^n}}=\frac{n+1}{n}\frac{\sin\frac{\pi}{2^{n+1}}}{2\sin\frac{\pi}{2^{n+1}}\cos\frac{\pi}{2^{n+1}}}=\frac{n+1}{n}\frac{1}{2\cos\frac{\pi}{2^{n+1}}}
\to \frac{1}{2}$

であり、ダランベールの条件が成り立ちます.条件を満たす $r$ は$\frac{1}{2}$より少しでも大きい数であれば、必ず有限個の $n$ を除いて $\frac{a_{n+1}}{a_n}\le r$ が成り立ちます.


優級数法

優級数法というのもあり、これは収束性の証明の中で一番よく使われるものです.

数列が $a_n\le M_n$ を満たし、$\sum_{n=1}^\infty M_n$ が収束するなら、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ も収束します.

また、

数列が $a_n\ge M_n>0$ を満たし、$\sum_{n=1}^\infty M_n$ が発散するなら、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ も発散します.


例えば、優級数法を使えば、
問題
$\sum_{n=1}^\infty \frac{n!}{n^n}$ の収束については、以下のように行います.

$2^{n}n^2(n-1)^2\cdots 2^2\cdot 1^2\le n^{2n} $
を数学的帰納法で証明します.

$n=1$ のとき、$2^1\cdot 1=2\le 1^{2\cdot1}=1$ となり成り立ちます.

$2^{n}n^2(n-1)^2\cdots 2^2\cdot 1^2\le n^{2n}$
が成り立つとすると、

$2^{n+1}(n+1)^2n^2\cdots 2^2\cdot 1^2\le 2(n+1)^2n^{2n}$
となり、
$\frac{2(n+1)^2n^{2n}}{(n+1)^{2(n+1)}}=\frac{2n^{2n}}{(n+1)^{2n}}\le 1$
を示します.2項定理から、
$(n+1)^{2n}\ge n^{2n}+2nn^{2n-1}=n^{2n}+2n^{2n}=3n^{2n}\ge 2n^{2n}$
となり、
$\frac{2n^{2n}}{(n+1)^{2n}}\le 1$ が成り立ちます.

よって、
$2^{n+1}(n+1)^2n^2\cdots 2^2\cdot 1^2\le (n+1)^{2(n+1)}$

が成り立ちます.
よって、任意の $n$ に対して、
$2^{n}n^2(n-1)^2\cdots 2^2\cdot 1^2\le n^{2n}$ が成り立ちます.

よって、$\frac{n!}{n^n}\le \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{n}{2}}=\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)^n$ が成り立ちます.

ゆえに、
$\sum_{n=1}^{\infty }\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)^n$ が収束すれば、優級数法から
$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{n!}{n^n}$ も収束します.

$\sum_{n=1}^{\infty }\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)^n=\frac{1}{\sqrt{2}-1}=\sqrt{2}+1$
ですので、収束します.
よって、
$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{n!}{n^n}$
も収束します.ただ、どのような値になるかはよく分かりません.計算ソフトを用いると、大体1.87985....
くらいです.

また、ダランベールの方法を使ったとしても、
$\frac{\frac{(n+1)!}{(n+1)^{n+1}}}{\frac{n!}{n^n}}=\frac{n^n}{(n+1)^n}=\left(1-\frac{1}{n+1}\right)^n$ となり
$1/e<1$ に収束します.
ゆえに、この級数も収束するということになります.
こちらの方がいくらか簡単でしょうか.


問題
$\sum_{n=1}^{\infty }\frac{1}{\sqrt{n!}}$ が収束するかどうか判定せよ.

も、授業中で途中でやめた問題です.

ダランベールの方法を用いれば、$\sqrt{\frac{\frac{1}{(n+1)!}}{\frac{1}{n!}}}=\sqrt{\frac{1}{n+1}}\to 0$
なので、収束します.また、

問題
$\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{\sqrt[n]{n!}}$ が収束するかどうか判定せよ.

は、優級数法を用いれば、

$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{\sqrt[n]{n!}}\ge \sum_{n=1}^\infty\frac{1}{\sqrt[n]{n^n}}=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}=\infty $ となり、この右辺が発散するので、$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{\sqrt[n]{n!}}$ も発散することになります.

宿題にも一問級数の判定についての問題を出しました.
おそらく、コーシーの判定法やダランベールの判定法など使えないと思いますので、
がんばって優級数法により示してください.

2016年1月30日土曜日

線形代数II演習(第13回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は
  • 対角化可能
  • 最小多項式
  • 直交行列
  • 実対称行列の直交行列による対角化
についてやりました.

行列の対角化可能性

行列が対角化可能とは、ある正則行列 $P$ が存在して、
$P^{-1}AP$ が対角行列になるようにできることです.

定理
$n\times n$ 行列 $A$ が対角化可能であることと、${\mathbb C}^n$ の基底として、$A$ の固有ベクトルからなるものが存在することは同値である.

この定理は、前回の宿題を解くと、自然にわかります.
というのも、もし、$A$ が対角化可能とすると、対角行列 $D$ と、正則行列 $P$ を使って
$P^{-1}AP=D$ となります.

この式に左から $P$ を掛けることによって、$AP=PD$ となります.
$P$ を列ベクトルによる分解をしておくと、$A{\bf p}_i=\alpha_i{\bf p}_i$ となります.

ここで、${\bf p}_i$ は $P$ の第 $i$ 列であり、 $\alpha_i$ は $D$ の $(i,i)$-成分です.

つまり、 ${\bf p}_i$ が固有値 $\alpha_i$ の固有ベクトルであることになります. $P$ は正則行列ですので、$\{{\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\}$ は ${\mathbb C}^n$ の基底ということになります.よって、全て $A$ の固有ベクトルからなる ${\mathbb C}^n$ が作られました.

逆に、 ${\mathbb C}^n$ に $A$ の固有ベクトルからなる基底が存在したとするとします. それを $\{{\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\}$ とすると、それらを列ベクトルとする正方行列を $P$ とすると、$P$ は明らかに正則行列で、 ${\bf p}_i$ たちは固有ベクトルであることから、$A{\bf p}_i=\alpha_i{\bf p}_i$ となります.これらをまとめて、$AP=PD$ となることがわかります.$D$ は $\alpha_i$ を $(i,i)$-成分にもつ対角行列になります.

$\{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\}$ を同じ固有値毎にまとめておけば、固有値の集合 $\{\lambda_1,\cdots,\lambda_r\}$ から、固有空間 $W_{\lambda_i}$ の次元の和は、
$\sum_{n=1}\dim W_{\lambda_i}=n$ となります.
任意の固有値 $\lambda_i\neq \lambda_j$ ならば、$W_{\lambda_i}+W_{\lambda_j}=W_{\lambda_i}\oplus W_{\lambda_j}$ となり、
$${\mathbb C}^n=\langle {\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\rangle \subset W_{\lambda_1}+\cdots+W_{\lambda_r}= W_{\lambda_1}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}\subset {\mathbb C}^n$$
となるので、$W_{\lambda_1}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}= {\mathbb C}^n$
がいえ、特に次元を数えると、
$$\sum_{n=1}^r\dim(W_{\lambda_i})=n$$
となります.これは、$A$ が対角化可能の必要十分条件になります.

つまり、

定理
$n\times n$ 行列 $A$ が対角化可能であることと、$\sum_{i=1}^r\dim W_{\lambda_i}=n$ となることは同値である.


なので、$A$ が対角化可能かどうかはその固有空間の次元をチェックすれば済みます.

他の判定条件もあります.

定理
$n\times n$ 行列 $A$ の固有値が丁度 $n$ 個あれば、行列 $A$ は対角化可能.

というのも、$W_{\lambda_i}$ を固有値 $\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ の固有値とすると、
$\dim W_{\lambda_i}\ge 1$ であるので、$\sum_{i=1}^n\dim W_{\lambda_i}\le n$ と組み合わせれば、必ず $\sum_{i=1}^n\dim W_{\lambda_i}=n$ が成り立ちます.


ですので、$A$ が対角化可能かどうかは、まずは固有多項式を計算して、それが、相異なる $n$ 個の解を持つかどうかを確かめなければなりません.

丁度 $n$ 個の固有値を持つということは、固有多項式 $\Phi_A(t)$ には2次の因子を含まないということです.つまり、$\Phi_A(t)$ を因数分解をしたときに、その因子として $(t-\alpha)^m\ (m>1)$ となるようなものが現れないということと同じです.


例えば、$\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ とすると、
固有多項式 $\Phi_A(t)$ は $t^2-1$ となり、固有値は $\pm1$ となります.
ゆえに、この行列は対角化可能となります.

実際、固有ベクトルは、$\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ となり、
$P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ とすると、
$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ となります.


最小多項式

正方行列 $A$ に対して、その最小多項式 $M_A(t)$ とは、
$f(A)=O$ となる多項式のうち、最小次数であり、最高次の係数が 1 となるものを言います.そのような多項式は一意に定めることができます.

また、そのような多項式は、$\Phi_A(t)$ の約多項式になっており、$\Phi_A(t)$ の根をその根として含みます.極端なことを言えば、$\Phi_A(t)$ の約多項式だからと言って、$f(x)=1$ のような多項式はあり得ません.どんな行列を入れても $O$ にはならないからです.

ここで、対角化に関して以下のことが知られています.


定理
$A$ が対角化されるための必要十分条件は、$M_A(t)$ が2次以上の因子を含まないことである.

つまり、$M_A(t)=(t-\lambda_1)(t-\lambda_2)\cdots (t-\lambda_r)$ となることです.
ここで、$\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_r$ は固有値の集合です.

例えば、$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ とすると、$\Phi_A(t)=(t-1)^2$ となります.
上に書いたことから、$M_A(t)$ は $1$ はありえなくて、$t-1$ か $(t-1)^2$ ですが、
最小性のために代入してみると、$M_A(A)=A-E$ は $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}\neq O$ となり、成り立ちません.よって、$M_A(t)=(t-1)^2$ の方が最小多項式ということになります.

つまり、$A$ は対角化できないということになります.

よって、固有値が一つしかないような行列を $A$ とすると、
$A$ が対角化できるための必要十分条件は $A$ がスカラー行列 $\lambda E$ となることです.

(証明)固有値が一つしかないとすると、$\Phi_A(t)=(t-\lambda)^n$ となり、$A$ が対角化できるためには、$M_A(t)=t-\lambda$ であることが必要十分.$t-\lambda$ が最小多項式であるためには、$M_A(A)=A-\lambda E=O$ でなければならないから、$A=\lambda E$ となります.逆に$\lambda E$ は明らかに対角化できます.

実対称行列の対角化

実対称行列 $A$ は実固有値を持ちます.
これは授業中にはコメントしなかったような気がするのでここで書いておきます.

${\mathbb C}^n$ 上の標準内積を、$({\bf x},{\bf y})={}^t{\bf x}\cdot\overline{\bf y}$ とします.
$\lambda$ を$A$ の固有値とします.その固有ベクトルを ${\bf v}$ とします.
このとき、
$\bar{\lambda}({\bf v},{\bf v})=({\bf v},\lambda{\bf v})=({\bf v},A{\bf v})={}^t{\bf v}\cdot\overline{A{\bf v}}={}^t{\bf v}\bar{A}\cdot\bar{\bf v}=({}^t\bar{A}{\bf v},{\bf v})=(A{\bf v},{\bf v})=(\lambda{\bf v},{\bf v})=\lambda({\bf v},{\bf v})$
$({\bf v},{\bf v})$ は $0$ ではないので、両辺をこれで割って、$\lambda=\bar{\lambda}$ となります.つまり $\lambda$ は実数となります.

また、

定理
実対称行列は実固有値をもち、直交行列によって対角化可能.

が成り立ちます.この対称行列の主張は、${\mathbb R}^n$ の正規直交基底として $A$ の固有ベクトルが選べるということです.

直交行列とは、$P{}^tP=E$ となる実行列 $P$のことです.

つまり、$P$ の縦ベクトルもしくは横ベクトルは、${\mathbb R}^n$ の標準内積による正規直交基底になっているものです.

また、直交行列の性質として、$(P{\bf v},P{\bf w})=({\bf v},{\bf w})$ が成り立ちます.
つまり $P$ は長さや角度を変えない線形変換です.
例えば、どこかの軸周りの回転や、ある超平面での折り返し(対象変換)などがこれに相当します.
これらは線形変換です.

${\bf v},{\bf w}$ が相異なる固有値 $\lambda,\mu$ に属する固有ベクトルとします.
$\lambda({\bf v},{\bf w})=(\lambda {\bf v},{\bf w})=(A{\bf v},{\bf w})={}^t(A{\bf v})\cdot {\bf w}={}^t{\bf v}\cdot A{\bf w}=({\bf v},A{\bf w})=({\bf v},\mu{\bf w})=\mu({\bf v},{\bf w})$
となります.

$\lambda-\mu\neq 0$ なので、$({\bf v},{\bf w})=0$ となります.
よって、固有空間同士は直交します.
固有空間から正規直交基底を作ることはグラムシュミットの方法から簡単です.

上の対称行列の主張を説明するには不十分ですが、これ以上はここではやめておきます.


上記の $A=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ は対称行列ですから、固有ベクトルとして、正規直交基底が作れて、直交行列によって対角化されます.

$P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ でしたが、この縦ベクトルをシュミットの直交化をして正規直交化をすることで、
$P'=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\\\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{2}}\end{pmatrix}$
とすれば、$P'$ は直交行列であり、この $P'$ によって
$(P')^{-1}AP'=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ となります.

ユニタリー行列による対角化

$A^\ast={}^t\bar{A}$ とします.つまり $\ast$ は転置と共役をとる操作です.
このとき、行列 $U$ がユニタリー行列とは
$U^\ast U=UU^\ast=E$ となるような行列のことです.

また、行列 $A$ がエルミート行列とは、$A^ast=A$ となる行列です.
実は、この行列に関して以下の定理が成り立ちます.

定理
エルミート行列は実数を固有値としてもち、ユニタリー行列によって対角化できる.


ユニタリー行列による対角化についての条件として、
次の定理が成り立ちます.

$AA^\ast=A^\ast A$ となる行列を正規行列といいます.

定理
行列 $A$ がユニタリー行列によって対角化できるための必要十分条件は、$A$ が正規行列であることである.


この定理の証明も普通の線形代数の教科書には載っているので標準的な内容です.
上のように実対称行列やエルミート行列のユニタリー行列による対角化についての主張はこの定理に集約されます.実対称行列やエルミート行列は全て正規行列になっています.

2016年1月29日金曜日

微積分II演習(第13回)

[場所1E103(金曜日5限)]


今日は

  • 曲面の表面積
  • 回転体の体積
  • 回転体の表面積
について行いました.最後に宿題の級数についてのコメントをかきます.

曲面の表面積

関数 $z=f(x,y)$としたときに、そのグラフ $\{(x,y,f(x,y))|x,y\in D\}$ の表面積は

$$\int\int_{D}\sqrt{1+f_x^2+f_y^2}dxdy$$
として計算できます.

一般に、パラメータ表示 $S(u,v)=(p(u,v),q(u,v),r(u,v))$ が与えられたときは、その表面積は、
$$\int\int_D||S_u\times S_v||dvdv$$
と計算できます.この積分の中身は、二つのベクトルの外積を表します.
外積の長さは、二つのベクトルが張る平行四辺形ですから、それを集めてこれば、丁度曲面の面積を与えることになるわけです.

ここで、$E=S_u\cdot S_u$ $F=S_u\cdot S_v$ $G=S_v\cdot S_v$ としてこの積分を変形すると、


$$\int\int_D\sqrt{EG-F^2}dvdv$$
のような形にまとまります.
この $E,F,G$ は曲面の第一基本量といいます.
ここまでの変形は、以前のブログの記事(←去年の微積分の授業のブログです)にかきました.
きになる人は自分で証明をやってみるとよいです.$S(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v))$ としておくと、
$$S_u\times S_v=\left(\det\begin{pmatrix}y_u&y_v\\z_u&z_v\end{pmatrix},\det\begin{pmatrix}z_u&z_v\\x_u&x_v\end{pmatrix},\det\begin{pmatrix}x_u&x_v\\y_u&y_v\end{pmatrix}\right)$$

となります.この左辺の長さの2乗を計算してそれが、$EG-F^2$ となることを確かめて下さい.

授業中では、$x^2+y^2+z^2=1$ のうち $z>0$ の部分のうち、$x^2+y^2\le x$ にょって切り取られる部分の面積を求める問題でした.
この面積の計算は、
$z=\sqrt{1-x^2-y^2}$ として、
$z_x=\frac{-x}{\sqrt{1-x^2-y^2}}$
$z_y=\frac{-y}{\sqrt{1-x^2-y^2}}$
としたときに、


$$\int\int_{x^2+y^2\le x}\sqrt{1+(z_x)^2+(z_y)^2}dxdy$$
$$=\int\int_{x^2+y^2\le x}\sqrt{1+\frac{x^2}{1-x^2-y^2}+\frac{y^2}{1-x^2-y^2}}dxdy$$
$$=\int\int_{x^2+y^2\le x}\frac{1}{\sqrt{1-x^2-y^2}}dxdy$$
となります.
ここで、$x=r\cos\theta$ $y=r\sin\theta$ のようにおけば、最後の式は、
$$\int_{\pi/2}^{\pi/2}\int_0^{\cos\theta}\frac{1}{\sqrt{1-r^2}}rdrd\theta$$
と変換されます.
よって、式変形から、
$$=-\frac{1}{2}\int_{\pi/2}^{\pi/2}\int_0^{\cos\theta}\frac{-2r}{\sqrt{1-r^2}}drd\theta$$
よって $s=1-r^2$ とおくと、
$$=-\frac{1}{2}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\int_1^{1-\cos^2\theta}s^{-\frac{1}{2}}dsd\theta$$
$$=-\frac{1}{2}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}[2s^{\frac{1}{2}}]_1^{1-\cos^2\theta}d\theta$$
$$=-\frac{1}{2}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(2(1-\cos^2\theta)^{\frac{1}{2}}-2)d\theta$$
$$=-\frac{1}{2}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(2|\sin\theta|-2)d\theta$$
ここで、この被積分関数は、$\theta=0$ を境に対称だから、積分は $0$ から $\pi/2$ のものの2倍となり、以下のようになります.
$$=-\int_{0}^{\pi/2}(2\sin\theta-2)d\theta$$
$$=2[\cos\theta +\theta]_{0}^{\pi/2}=2(\frac{\pi}{2}-1)=\pi-2$$
となります.

曲面 $\sqrt{1-x^2-y^2}$ は上に凸(いわゆる凸曲面)ですから、底面の面積より、この曲面の面積の方が大きくなるはずです.つまり、底面の面積は、半径が 1/2 の円ですから、$\pi/4$ の面積を持ちます.

また、この上の曲面の面積は、$\pi-2$ となりますから、必然的に、

$$\pi-2>\pi/4$$

が成り立つことになります.この式を整理して、$\pi>\frac{8}{3}=2.666....$ なる評価式を得ることができます.

注意すべき点は、2乗の平方根を取るときに、絶対値をつけることです.
提出してもらった解答30枚のうち、できていたのは9枚だけでした.
他、多くは絶対値を取らずに $\pi$ と書いたもの、または、見当違いのものばかりでした.

回転体の表面積

回転体の表面積は、

回転体は $S(x,\theta)=(x,f(x)\cos\theta,f(x)\sin\theta)$ とパラメータ表示できます.
よって、$S_x=(1,f'(x)\cos\theta,f'(x)\sin\theta)$ かつ $S_\theta=(0,-f(x)\sin\theta,f(x)\cos\theta)$ となります.
上の第一基本量を計算すると、
$E=S_x\cdot S_x=1+f'(x)^2$, $F=S_x\cdot S_\theta=0$ $G=f(x)^2$ となります.
$\sqrt{EG-F^2}=\sqrt{(1+f'(x)^2)f(x)^2}=|f(x)|\sqrt{1+f'(x)^2}$
となります.

これにより、回転面の面積は、
$$\int_a^b\int_0^{2\pi}|f(x)|\sqrt{1+f'(x)^2}d\theta dx=2\pi\int_a^b|f(x)|\sqrt{1+f'(x)^2}dx$$
となります.

例えば、$y=f(x)=\cosh(x)\ (-1\le x\le 1)$ の回転面の面積を求めると、
$f'(x)=\sinh(x)$ となり、公式から、
$$2\pi\int_{-1}^1|\cosh(x)|\sqrt{1+\sinh^2(x)}dx=2\pi\int_{-1}^1\cosh^2(x)dx$$
$$=\pi\int_{-1}^1(\cosh(2x)+1)dx$$
$$=\pi\left[\frac{\sinh(2x)}{2}+x\right]_{-1}^1=\pi\left(\frac{\sinh(2)-\sinh(-2)}{2}+2\right)$$
$$=\pi(\sinh(2)+2)$$
となります.

級数の収束

級数の収束については授業中にはやりませんでしたが、宿題には出しました.

級数が収束するための条件として、優級数法があります.

優級数法1
$\sum_{n=1}^\infty a_n$ が正項級数とします.
$a_n\le M_n$ なる級数 $\sum_{n=1}^\infty M_n$ が存在して、この級数 $\sum_{n=1}^\infty M_n$ が収束するなら、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ も収束する.

また、発散についても、

優級数法2
$\sum_{n=1}^\infty a_n$ が正項級数とします.
$a_n\ge M_n$ なる正項級数 $\sum_{n=1}^\infty M_n$ が存在して、この級数 $\sum_{n=1}^\infty M_n$ が発散するなら、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ も発散する.


が成り立ちます.
より大きい級数を持ってきて、それが収束することを示すか、
より、小さい級数を持ってきて、それが発散することを示すか
です.

これにより、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ の収束発散を示すことができます.

ただ、不等式をうまく処理しないと、
大きすぎるものを持ってきて、
$\sum_{n=1}^\infty a_n<\sum_{n=1}^\infty M_n=\infty$ 
となってしまっては意味がありませんし、

小さすぎるものを持ってきて、
$\sum_{n=1}^\infty a_n>\sum_{n=1}^\infty M_n=C$ (有限の値)
などとなっても、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ が発散するのか、収束するのか全くわかりません.収束すると、少なくとも $C$ より大きいということがわかるのみです.

また、宿題となっているものは、ダランベールの方法や、コーシーの方法では判別不可能ですので気をつけて下さい.

また、$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}$ の値はすでに分かっているものですが、その値が求まっているので収束するというのはなしです.

微積分II演習(第12回)

[場所1E103(金曜日5限)]


今日は
  • 広義重積分
  • 積分表示された関数の微分
  • 級数の判定条件
についてやりました.

広義重積分

広義重積分とは、積分をする領域が非有界であること、また、被積分関数が領域において非有界であることの2つがあります.

積分 $\int\int_Df(x,y)dxdy$ が広義積分可能であるとは、$D$ を覆うような任意の増大列
$$D_0\subset D_1\subset D_2\subset \cdots\subset D$$
で、$D=\cup_{n=0}^\infty D_n$ かつ、任意の有界閉集合が$D_n$ のどれかに含まれるような
ものを取り、その領域上の積分の極限
$$\lim_{n\to \infty}\int\int_{D_n}f(x,y)dxdy$$
が同じ値に収束するときにいいます.

広義重積分が収束するかどうかを判定するのは、かなり難しい問題ですが、
被積分関数が $f(x,y)\ge 0$ を満たし、上のような条件を満たすある特定の増大列が収束することがわかれば、広義重積分は収束することが知られています.

問題として出すには、この仮定がすべて満たされているものに限ります.

今日やってもらった問題は、
$$\int\int_D\frac{dxdy}{\sqrt{x^2+y^2}}$$
とその類題
$$\int\int_{D}\frac{xydxdy}{(x^2+y^2)^3}$$
です.

ここで、最初の $D$ は$[0,1]\times [0,1]$ なる有限領域で、2個目の $D$ は $x\ge 1,y\ge 1$ となる無限領域です.

最初の積分だけやってみます.
$(0,0)$ の近くで、被積分関数は発散します.また、被積分関数はいつでも正の関数なので、ある領域の増大列について収束することがわかれば、大丈夫です.

積分区間の形から、$\int_0^1\int_0^1$ と積分すれば良いような気がしますが、ここで、は極座標表示を用います.$D_n=D\cap \{(x,y)|x^2+y^2\ge 1/n^2\}$ として求めてみます.

また、$y\ge x$ と $y\le x$ では関数は対称的ですから、
$$\int\int_{D_n}\frac{dxdy}{\sqrt{x^2+y^2}}=2\int_{0}^{\pi/4}\int_{1/n}^{1/\cos\theta}\frac{rdrd\theta}{r}=2\int_0^{\pi/4}[r]_{1/n}^{1/\cos\theta}d\theta$$
$$=2\int_{0}^{\pi/4}\left(\frac{1}{\cos\theta}-\frac{1}{n}\right)d\theta=2\int_{0}^{\pi/4}\frac{\cos\theta}{1-\sin^2\theta}d\theta-\frac{\pi}{2n}$$
$$=2\int_{0}^{1/\sqrt{2}}\frac{dt}{1-t^2}-\frac{\pi}{2n}=2\left[\log\frac{1+t}{1-t}\right]_{0}^{1/\sqrt{2}}-\frac{\pi}{2n}$$
$$=\log(3+2\sqrt{2})-\frac{\pi}{2n}$$
ここで、$\lim_{n\to \infty}$ をとると、この極限は $\log(3+2\sqrt{2})$ に収束します.

よって、この広義積分は収束することになります.
また、この値は、$\log(3+2\sqrt{2})=2\log(1+\sqrt{2})=2\text{Arcsinh}(1)$ となります.

同じように2つめの方の積分(提出してもらった方)は$\frac{1}{16}$ となります.

積分表示された関数の微分

積分において、$F(y)=\int_{a}^bf(x,y)dx$ は $y$ の関数ですが、この積分の $y$ による微分は、ある条件の元、微分作用素は、内部に偏微分としてはいります.つまり、
$$\frac{d}{dy}\int_a^bf(x,y)dy=\int_a^b\frac{\partial f(x,y)}{\partial y}dx$$
となります.

しかし、この微分は、$a,b$ が $y$ によらない定数である場合に成り立ちます.
$a,b$ が $y$ による関数である場合はこの微分は異なります.

その場合、$a,b$ を変数として、$\int_{u}^vf(x,y)dx=Z(u,v,y)$ のような独立な3変数関数と考えればよいです.

この場合、$Z(u,v,y)$ の $u,v$ に $y$ に依存する関数として $Z(a(y),b(y),y)$ として考えれば、$a,b$ が $y$ の関数としたときの元の関数 $F(y)$ が得られます.

$F(y)$ での $y$ での微分は、$Z(a(y),b(y),y)$ の $y$ の微分となるわけで、合成関数の微分法を使うことで、
$$\frac{d}{dy}F(y)=\frac{d}{dy}Z(a(y),b(y),y)=Z_u(a(y),b(y),y)a'(y)+Z_v(a(y),b(y),y)b'(y)+Z_y(a(y),b(b),y)$$
となります.
ここで、$Z_u(u,v,y)$ と $Z_v(u,v,y)$ を求めておくと、これらは、$v,y$ を$u$ とは違う定数と見ていることに注意します.

よって、

$Z_u(u,v,y)=\frac{d}{du}\int_{u}^vf(x,y)dx=-f(u,y)$
$Z_v(u,v,y)=\frac{d}{dv}\int_{u}^vf(x,y)dx=f(v,y)$
となります.

これらは例えば $\frac{\partial G(x,y)}{\partial x}=f(x,y)$ とすると、
$Z_u(u,v,y)=\frac{d}{du}[G(x,y)]_u^v=\frac{d}{du}(G(v,y)-G(u,y))=-\frac{\partial }{\partial u}G(u,y)=-f(u,y)$ となります.
$Z_v(u,v,y)$ についても同じです.

よって、
$$\frac{d}{dy}\int_a^bf(x,y)dx=-f(a,y)a'(y)+f(b,y)b'(y)+\int_{a}^b\frac{\partial f}{\partial y}dx$$
となります.

級数の収束

級数とは、数列 $a_n\ \ n=1,2,\cdots$ の全ての和
$$\sum_{n=0}^\infty a_n$$
のことです.この無限和がいつ収束するかという問題を考えます.

この和がいつ収束するかというのは一般的には結構難しいです.
しかし、よく知られている方法で、簡単にわかる場合もあります.

コーシーの方法と
ダランベールの方法

また、発展形として、

ガウスの方法があります.

授業では前2つについてやりました.

これらの判定法ついては、去年の授業のブログ(←こちら)
をみてください。

判定法だけ書いておきます.
まず、全ての項が正の級数だけです.


ダランベールの方法
正項級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ に対してある $r<1$ が存在して有限個の $n$ を除いて $\frac{a_{n+1}}{a_n}\le r<1$ を満たす.


コーシーの方法
正項級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ に対してある $r<1$ が存在して有限個の $n$ を除いて $\sqrt[n]{a_n}\le r<1$ を満たす.


これらが満たされれば、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ は収束する.

これらの判定法が使える級数として、

$\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n!}$ や $\sum_{n=1}^\infty\left(\frac{n-1}{n}\right)^{n^2}$ 
があります.


また、ダランベールの方法やコーシーの方法に当てはまらないからといって収束しないとも限りません.

第13回の宿題に出したように
$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}$ はダランベールの方法やコーシーの方法において、
$r=1$ のパターンですが、発散します.

一方

$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}$ はダランベールの方法やコーシーの方法において、
$r=1$ のパターンですが、収束します.

$r<1$ の場合は確実にこの正項級数は収束し、$r=1$ の場合は、収束することもあるし、発散することもあります.
なので、収束するかどうかは別の議論をする必要があります.

また、コーシー方法やダランベールの方法で、隣同士の商や、$n$乗根の極限が $r>1$ になる場合は、級数は発散します.


次にガウスの判定法です.
正項級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ がある正の数 $\alpha$ が存在して、
$\frac{a_n}{a_{n+1}}=1+\frac{\alpha}{n}+O(\frac{1}{n^2})$
が成り立つとき、$\alpha>1$ なら収束し、$\alpha\le 1$ なら発散する.


これはあまり使わないかもしれませんが、覚えていて、使う局面に出くわしてうまく使えるといいですね.超幾何級数などの収束をいうのにこの判定法を使うことがあります.ガウスもそのためにこの判定法を考え出したのです.

2016年1月27日水曜日

線形代数II演習(第12回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は
  • 固有値、固有ベクトル
  • 固有空間
についてやりました。

固有値、固有ベクトル

固有値、固有ベクトルというのは、初めての登場でしょうか.
ここでは、数ベクトル空間の場合にまずやります.

数ベクトル空間の固有、固有ベクトル

$A$を $n\times n$ 行列とします.
${\mathbb C}^n$ のゼロではないベクトル ${\bf v}$ と複素数(一般にスカラー)$\lambda$ が存在して、$A{\bf v}=\lambda{\bf v}$ となるとき、
$\lambda$ を固有値といい、${\bf v}$ を $A$ の($\lambda$ に付随する)固有ベクトルといいます.

移項して考えれば、連立一次方程式
$$(\lambda E-A){\bf v}=0$$
を使って、$\lambda$ ${\bf v}$ を探すという問題になります.

ここまでの最重要ポイントは、${\bf v}\neq 0$ ということです.
このことをお忘れなく.

$\lambda,{\bf v}$ を探すのですが、$(\lambda E-A){\bf v}=0$ であることから、$\lambda E-A$ は正則ではないことが分かります.

もし正則なら、$\lambda E-A$ の逆行列を左からかけて、${\bf v}=0$ となってしまうからです.

行列が正則ではないことの必要十分条件から、 $\det(\lambda E-A)=0$ がなりたちます.
この式の $\lambda$ を $t$ に変えて $\lambda$ を求める式を書いたものを
$\Phi_A(t)=\det(t E-A)$ とかき、$A$ の固有多項式といいます.

つまり固有値は固有多項式の根になり、逆に固有多項式の根は、行列 $A$ の固有値になります.

逆の方は $\lambda$ が根とすれば、$\det(\lambda E-A)=0$ となるので、正則ではない行列から作られる連立一次方程式には、非自明解 (つまり ${\bf v}\neq 0$ となるベクトル) が存在します.
最後の主張は、線形代数をもうすぐ卒業となる人たちならもう証明できますね?

よって、$\lambda$ は $\Phi_A(t)=0$ をとくことで求められます.$\Phi_A(t)$ は $n$ 次多項式です.
そして、$\lambda$ に付随する固有ベクトル ${\bf v}\neq 0$ は連立一次方程式 $(\lambda E-A){\bf v}=0$ を解いて得られます.

固有空間

$\lambda$ を行列 $A$ の固有値とします.つまり、$\det(\lambda E-A)=0$ となる複素数です.
このとき、
$$W_\lambda=\{{\bf v}\in {\mathbb C}^n|(\lambda E-A){\bf v}={\bf 0}\}$$
なる空間を固有空間といいます.
この空間には、ゼロではないベクトルを含みますので、必ず次元は1以上あります.
つまり、$\dim W_{\lambda}\ge 1$ です.

授業中にも言いましたが、$\lambda$ が固有値でなくても、$W_\lambda$ が定義できますが、その場合 $W_{\lambda}$ はゼロベクトルからなるゼロ次元ベクトル空間となります.

計算中 $W_\lambda$ がゼロベクトルからなるものができるとすると、$\lambda$ は固有値ではないか、$W_\lambda$ を求めるところで計算間違いしたかどちらであり、このことは非常に分かりやすい検算方法といえるでしょう.

大抵の場合、一箇所計算ミスをすると $\lambda E-A$ は正則になってしまいますから、たちまち $W_\lambda$ はゼロベクトル空間になってしまいます.

固有値と固有空間が求まりましたので、数ベクトル空間での話は終わりです.

一般の線形変換の固有値、固有ベクトル

一般のベクトル空間 $V$ の間の線形変換 $F:V\to V$ に対しても固有値、固有ベクトルが定義できます.これは授業中でやったものです.

$F({\bf w})=\lambda {\bf w}$ となる非ゼロベクトル ${\bf v}$ を固有ベクトル、$\lambda$ を固有値といいます.

同じように移項して、$(\lambda I-F)({\bf w})=0$ なる $\lambda, {\bf w}$ を求めればよいです.
$I$ は ${\bf u}\mapsto {\bf u}$ となる恒等変換です.
このことから、${\bf w}\in \text{Ker}(\lambda I-F)$ となります.
一般のベクトル空間の核 (Ker) を求めるには、一度基底を使って
$\lambda I-F$ を表現しておく必要があります.

$F({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)A$
と表現しておきます.授業中指摘されましたが、この左辺は
$F({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)=(F({\bf w}_1),\cdots,F({\bf w}_n))$ の意味です。

よって、$\lambda I-F$ の表現行列は、
$\lambda E-A$ となります.つまり、
$$(\lambda I-F)({\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n)=({\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n)(\lambda E-A)$$
です.

${\bf w}\in V$ を上の基底を使って表示したものを
${\bf w}=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$ とします.
ここで、${\bf v}=\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$ とします.

$$(\lambda I-F)({\bf w})=0 \Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}=0$$
を以下証明します.

$(\lambda I-F)({\bf w})=0$ ならば、$\sum_{i=1}^na_i(\lambda I-F)({\bf w}_i)=0$ となり、$(\lambda I-F)({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)(\lambda E-A)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=0$ となります.
今、${\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n$ は基底ですので、$(\lambda E-A)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=0$
がいえるわけです.この議論を逆に辿ることで、上の同値関係
$$(\lambda I-F)({\bf w})=0 \Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}=0$$
がわかります.

よって、
$$\lambda\text{ が }F\text{ の固有値}\Leftrightarrow \lambda\text{ が }A\text{ の固有値}$$
もいえます.

つまり、$F$ の固有値を計算するには、まず線形変換を行列で表現しておいてその行列を使って固有値、固有ベクトルを求め、もう一度基底をつかって戻すということになります.

基底をとったことによる不定性

基底はこちらで適当に選びました.そのことによる不定性はないのか?
という疑問がわくかもしれません.
このことは授業中にも述べたように大丈夫です.

意味としては、基底を別なものに取り替えたときに、固有値や固有ベクトルも別なものに取り替えられないのか?ということです.

基底を正則行列 $P$ を使って $({\bf w}_1',\cdots, {\bf w}_n')=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)P$
のように変換したとき、$F$ の表現行列は、$P^{-1}AP$ となります.
あたらしく ${\bf w}_1',\cdots, {\bf w}_n'$ を基底として $F$ の固有値を求めるとすると、
$\Phi_{P^{-1}AP}(t)$ を求めることになりますが、この多項式は $\Phi_A(t)$ と一致することが
下のようにして直接分かります.
$\Phi_{P^{-1}AP}(t)=\det(t I-P^{-1}AP)=\det(P^{-1}(tI-A)P)$$
$$=\det(P^{-1})\det(tI-A)\det(P)=\det(P)\det(P^{-1})\det(tI-A)$$
$$=\det(P^{-1}P)\det(tI-A)=\det(tI-A)=\Phi_A(t)$

さらに、固有空間も一致することが証明できますが、ここでは省略します.
また、具体例は授業中に述べたのでここでは省略します.

宿題の健闘を祈ります.


訂正

前回の宿題において、B-11-2 がヒントと書きましたが、B-11-2 は間違っておりました.
手習い塾で指摘されました.

正確には $(y_1,\cdots,y_n)=(w_1,\cdots, w_n)P^{-1}$ であることを示せということです.

2016年1月19日火曜日

トポロジー入門演習(第10回) (ヒント集5)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

$A$ を ${\mathbb R}$ の部分集合のとき、$A\times (0,1]$ の辞書式順序によって定義される順序位相によって得られる位相空間についての問題がありました.

Lynn Arthur Steen & J. Arthur Seebach, Jr のCounterexamples in Topology には

$[0,1]\times [0,1]$ に辞書式順序(lexicographic ordering)を入れたもの
の順序位相について書いて有りますのでそちらを参考にしてください.

順序位相について

集合 $X$ 上の順序位相とは
任意の点 $x$ の近傍を $x\in (a,b)$ となる $a,b\in X$ をとります.
ここで、 $(a,b)=\{y\in X|a<y<b\}$ なる部分集合のこととします.
ここで、$a,b$ は $X$ に入らない理想元 $\infty$ もしくは $-\infty$ をとってもよいです.
ただし、$\infty $ は $X$ の任意の元よい大きい元とし、$-\infty$ は $X$ の任意の元より小さい元とする.

例えば、${\mathbb R}$ に普通の実数の順序を入れた位相は、通常の ${\mathbb R}$ 上の距離位相と同値になります.



第8回で残っている問題

問題79
つぎの条件は同値であることを示せ.
(1) $X\to Y$ は連続である.
(2) 任意の $B\subset Y$ に対して $f^{-1}(\text{Int}(B))\subset\text{Int}(f^{-1}(B))$.
(3) 任意の $B\subset Y$ に対して $f^{-1}(\text{Cl}(B))\supset\text{Cl}(f^{-1}(B))$.

(略解答)
(1)から(2)
$f^{-1}(\text{Int}(B))\subset(f^{-1}(B))$
は開集合であり、$\text{Int}(f^{-1}(B))$ は $f^{-1}(B)$ の中の最大の開集合であること.

(2)から(3) $f^{-1}(\text{Int}(Y-B))\subset\text{Int}(f^{-1}(Y-B))$ より、
$f^{-1}(X-\text{Cl}(B))\subset \text{Int}(X-f^{-1}(B))=X-\text{Cl}(B)$ となる.

(3)から(1) 閉集合の逆像が閉集合であることを示せ.

問題82

$f : X \to Y$ が連続ならば、$X$ の任意の収束点列 $\{x_n\}$ に対し、$\{f(x_n)\}$ は $Y$ の収束点列となることを証 明せよ. 

問題83
$X$を非可算集合とする.
$x_0\in  X$に対して、$x_0$の近傍を$x_0\in U$となる$U\subset X$であり、
$X-U$が可算集合となるものだけを考える.
また、$x\neq x_0$なる$x\in X$においては、$\{x\}$だけを近傍とする.

このような近傍系をとると、$X$上に位相を定義できることを示せ.

(ヒント)
位相の条件を満足することを示せ.


問題84
上のような位相空間$X$において、$A=X-\{x_0\}$は$x_0$の集積点であるが、

$x_0$とは異なる点よりなる点列$\{a_n\}$は決して$x_0$に収束しないことを示せ.

(ヒント)
点列 $\{a_n\}$ が $a$ に収束すると は、$a$ の任意の近傍に対して、ある $N$ が存在して、点列 $\{a_n\}$ の $\{a_n|n>n\}$ がすべて含まれることをいう.
$x_0$ の近傍で、$x_0$ とは違う点列 $\{a_n\}$ が一つも含まれないものを構成することで示される.

問題85
$X$を上のように定義された位相空間とする.$Y$を$X$上に離散位相を与えた位相空間とする.$f:X\to Y$を恒等写像とする.

この$f$は、この3つ前の問題の逆は成り立っているといえるか?


(略解答)
$X$ 上のすべての収束点列は、離散位相の収束点列と同じであることを証明せよ.また、恒等写像が連続でないことを示せ.

問題87
$f:X\to Y$ が閉写像であるためには、$X$ の任意の開集合$U$に対し、$\{y\in Y|f^{-1}(y)\subset U\}$ が $Y$ の開集合となることが必要十分であることを証明せよ.

(ヒント)
$\{y\in Y|f^{-1}(y)\subset U\}$ は $f(X-U)$ と一致することを示せ.

問題88
$f:X\to Y$は全射、$\varphi:X\to I=[0,1]$ を連続写像とする.写像 $\psi:Y\to I$を$\psi(y)=\text{inf}\{\varphi(x)|x\in f^{-1}(y)\}$ で定めると、
$f$が開写像ならば、$\psi^{-1}([0,r))$は$Y$の開集合.

を示せ.

(ヒント)
$\psi^{-1}([0,r))$ は $f(\varphi^{-1}([0,r)))$ を示せ.


問題89
$f:X\to Y$は全射、$\varphi:X\to I=[0,1]$ を連続写像とする.写像$\psi:Y\to I$を$\psi(y)=\text{inf}\{\varphi(x)|x\in f^{-1}(y)\}$で定めると、
$f$が閉写像ならば、$\psi^{-1}((r,1])$は$Y$の開集合.
を示せ.


問題90
$f:X\to Y$は全射、$\varphi:X\to I=[0,1]$は連続写像とする.写像$\psi:Y\to I$を$\psi(y)=\text{inf}\{\varphi(x)|x\in f^{-1}(y)\}$で定めると、
$f$が開写像かつ閉写像ならば、$\psi$は連続.
を示せ.

(略解答)
問題89と90と119を使え.

問題91
写像$f:(X,\rho)\to (Y,\rho')$が、$\rho'(f(x),f(x'))=\rho(x,x')$($x,x'\in X$)を満たすならば、$f$は埋蔵写像となることを示せ.

(略解答)
距離空間の連続性の定義を使って $f$ の連続性を示す.
この性質から単射であることはすぐに導かれる.
また、$X\to f(X)$ が連続かつ開写像であることを示す必要がある.


問題92
$a\in I$に対し、$f_a\in C(I)$を$f_a(t)=a\ (t\in I)$と定めたとき、$\varphi:I\to (C(I),d);\varphi:a\mapsto f_a$は埋蔵となることを示せ.

(ヒント)
定数関数全体が $C(I)$ において $I$ と同相であることを示す問題.
単射連続であることはすぐわかる.$I\to \varphi(I)$ が同相であることを示す.

2016年1月13日水曜日

線形代数II演習(第11回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は、

  • シュミットの直交化と
  • 双対空間
でした.

シュミットの直交化

シュミットの直交化とは、内積を持つ空間 $V,(\cdot,\cdot)$ に対して一次独立なベクトル ${\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n$ があったときに、それを変形して、そのベクトルが張るベクトル空間 $\langle {\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n\rangle$ は変えずに、正規直交ベクトル ${\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n$ を与える方法です.つまり、
${\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n$ は正規直交、つまり、$({\bf e}_i,{\bf e}_j)=\delta_{ij}$ であり、
$$\langle {\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n\rangle=\langle {\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n\rangle$$
が成り立ちます.ここで、$\delta_{ij}=\begin{cases}1&i=j\\0&i\neq j\end{cases}$
です.

まず、
$${\bf e}_1=\frac{{\bf v}_1}{||{\bf v}_1||}$$
とします.
次に、
${\bf v}_2-({\bf v}_2,{\bf e}_1){\bf e}_1$ を計算し、その長さで割ります.このとき、
$${\bf e}_2=\frac{{\bf v}_2-({\bf v}_2,{\bf e}_1){\bf e}_1}{||{\bf v}_2-({\bf v}_2,{\bf e}_1){\bf e}_1||}$$
とおきます.
このとき、${\bf e}_2$ は長さが 1 で、かつ ${\bf e}_1$ と内積が 0 つまり直交します.
$({\bf v}_2-({\bf v}_2,{\bf e}_1){\bf e}_1,{\bf e}_1)=({\bf v}_2,{\bf e}_1)-({\bf v}_2,{\bf e}_1)({\bf e}_1,{\bf e}_1)=0$
となります.

${\bf e}_2$ を作るときに何をしたかというと、${\bf v}_2$ から、${\bf e}_1$ の成分(つまり、${\bf v}_2$ の ${\bf e}$ の直交射影)を抜き出しているのです.${\bf v}_2$ から、${\bf e}_1$ の部分だか抜き出しているので、それらは直交するということになるのです.

次に、${\bf e}_3$ を作るときは、${\bf v}_3$ から、${\bf e}_1,{\bf e}_2$ の成分を抜き出すと、それらに直交するベクトルが得られます.

つまり、
${\bf v}_3-({\bf v}_3,{\bf e}_1){\bf e}_1-({\bf v}_3,{\bf e}_2){\bf e}_2$ とすると、このベクトルは、${\bf e}_1$ とも、${\bf e}_2$ とも直交するベクトルとなります.これを長さで割ることで、

$${\bf e}_3=\frac{{\bf v}_3-({\bf v}_3,{\bf e}_1){\bf e}_1-({\bf v}_3,{\bf e}_2){\bf e}_2}{||{\bf v}_3-({\bf v}_3,{\bf e}_1){\bf e}_1-({\bf v}_3,{\bf e}_2){\bf e}_2||}$$
とおきます.よって、${\bf e}_1,{\bf e}_2,{\bf e}_3$ はお互いに直交する、長さが $1$ のベクトルで、作り方から、$\langle {\bf e}_1,{\bf e}_2,{\bf e}_3\rangle =\langle {\bf v}_1,{\bf v}_2,{\bf v}_3\rangle$ となります.

これを帰納的に続けることで、正規直交ベクトル $\{{\bf e}_1,\cdots,{\bf e}_n\}$ が得られます.

この方法をシュミットの直交化といいます.
このようにすることで、任意の内積空間において、正規直交ベクトルを作ることができます.元の一次独立なベクトルが基底の場合には、シュミットの直交化によって、正規直交基底が得られます.

複素内積の場合も同じように構成することができます.

双対空間

線形写像全体は、ベクトル空間になリます.
最初に注意するべきこととして、写像 $f,g:V\to W$ が同じということは、 
任意の ${\bf v}\in V$ に対して、$f({\bf v})=g({\bf v})$ がなりたつということです.

線形写像全体がベクトル空間になるのは、行列全体がベクトル空間になるので当然です.
ベクトル空間 $V$ から $W$ への線形写像 $f:V\to W$ の全体の空間を $\text{Hom}(V,W)$ とかきます.

$W=\mathbb{C}$ のとき、線形写像の空間は $\text{Hom}(V,\mathbb{C})$ となり、$V^\ast$ とかきます.
このような線形写像を、$V^\ast$ とかき、双対空間といいます.

$V^\ast$ もベクトル空間となります.
$V^\ast$ は平たくいえば、ある特殊な関数の空間ということですが、足し算は、関数の足し算、スカラー倍は関数のスカラー倍ということになります.

${\bf v}_1,\cdots {\bf v}_n$ を基底とすると、$V^\ast$ において ${\bf f}_1,\cdots,{\bf f}_n$ を $f_i({\bf v}_j)=\delta_{ij}$ として基底が定義されます.このような基底のことを双対基底といいます.
双対基底は $V$ の基底を一つ選ぶと、一つ定まります.

宿題には、$V^\ast$ の幾つかの元が一次独立であることを示す問題を挙げておきました.
一次独立を示す方法は、基本的には普通のベクトル空間と同じで、
${\bf f}_1,\cdots,{\bf f}_n$ が一次独立であることを示すには、$c_1{\bf f}_1+c_2{\bf f}_2+\cdots+c_n{\bf f}_n={\bf 0}$ ならば、$c_1=\cdots=c_n=0$ を示せばよいです.

ただし、この右辺の ${\bf 0}$ は $V^\ast$ での $0$ ベクトルであり、つまり、$V$ 上の関数です.
言い換えれば、任意の ${\bf v}\in V$ において ${\bf 0}({\bf v})=0$ を満たす関数です.

数ベクトル空間上の双対空間は、ある横ベクトルと同一視することができます.

つまり、$\text{Hom}(\mathbb{C}^n,\mathbb{C})=\mathbb{C}^n$ です.
横ベクトルは、縦ベクトルと同一視できるので、それを通して再び、$\mathbb{C}^n$ となるのです.

どういうことかというと、双対空間の元 $f\in V^\ast$ は、
$f({}^t(x_1,x_2,\cdots,x_n))=a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n$ のように、あるスカラー $a_i\in\mathbb{C}$ を使ってその一次結合として書くことができます.
つまりこの右辺は、
$$(a_1,a_2,\cdots,a_n)\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\v_n\end{pmatrix}$$
となり、$f$ 自身は、あるベクトル $(a_1,a_2,\cdots,a_n)$ を左から掛ける写像ということになります.

2016年1月12日火曜日

微積分II演習(第11回)

[場所1E103(金曜日5限)]

今日は、

  • n次元球体の体積
  • グリーンの公式
  • 平面上の領域の面積
についてやりました.

n次元球の体積
n次元球体の体積ですが、高木貞治の解析概論(P393)に基づいて一般化した、
$$V_{\alpha,n}(r)=\{(x_1,x_2,\cdots,x_n)\in {\mathbb R}^n||x_1|^{\alpha}+|x_2|^{\alpha}+\cdots+|x_n|^{\alpha}\le r^{\alpha}\}$$
なる領域の体積を求めました.$\alpha=2$ の場合が普通の球体の体積ということになります.

そのために、宿題の公式を使います.以下の条件を満たす $n$ 次元四面体領域 $\Delta_n$ 
を $x_1,x_2,\cdots,x_n\ge 0$ かつ $x_1+x_2+\cdots+x_n\le 1$ を満たす領域とすると、

公式
$\Delta_n$ において
$$\int\int_\cdots\int_{\Delta_n}x_1^{s_1-1}x_2^{s_2-1}\cdots x_{n}^{s_{n}-1}(1-x_1-x_2\cdots-x_{n})^{s_{n+1}-1}dx_1\cdots dx_{n}=\frac{\Gamma(s_1)\Gamma(s_2)\cdots \Gamma(s_{n+1})}{\Gamma(s_1+s_2+\cdots+s_{n+1})}$$
が成り立ちます.


この公式を用いて、上のように n次元球体を一般化した図形 $V_{\alpha,n}(r)$ の
体積を求めます.

$V_{\alpha,n}(r)$ の体積を $|V_{\alpha,n}(r)|$ とします.
$D$ を $V_{\alpha,n-1}(r)$ の $x_1,x_2\cdots x_{n-1}\ge 0$ の部分とすると、
$$|V_{\alpha,n}(r)|=2^n\int\int\cdots\int_D(r^\alpha-|x_1|^\alpha-|x_2|^\alpha-\cdots-|x_{n-1}|^\alpha)^{\frac{1}{\alpha}}dx_1dx_2\cdots dx_{n-1}$$
となり、$X_i=|\frac{x_i}{r}|^\alpha$ と変数変換すると、$X_1,X_2,\cdots,X_{n-1}\ge 0$ なる領域においてヤコビアンは、
$\frac{\partial (x_1,\cdots,x_{n-1})}{\partial(X_1,X_2,\cdots,X_{n-1})}=\det\begin{pmatrix}r\frac{1}{\alpha}X_1^{\frac{1}{\alpha}-1}&0&\cdots&0\\0&r\frac{1}{\alpha}X_2^{\frac{1}{\alpha}-1}&\cdots&0\\0&\cdots&\cdots&0\\0&\cdots&0&r\frac{1}{\alpha}X_{n-1}^{\frac{1}{\alpha}-1}\end{pmatrix}=(\frac{r}{\alpha})^{n-1}(X_1\cdots X_{n-1})^{\frac{1}{\alpha}-1}$
となり、$V_{\alpha,n}(r)$ の値は
$$|V_{\alpha,n}(r)|=2^n\int\int\cdots\int_D(r^\alpha-|x_1|^\alpha-|x_2|^\alpha-\cdots-|x_{n-1}|^\alpha)^{\frac{1}{\alpha}}dx_1dx_2\cdots dx_{n-1}$$
$$=2^n\int\int\cdots\int_{\Delta_{n-1}}r(1-X_1-X_2-\cdots X_{n-1})^{\frac{1}{\alpha}}(\frac{r}{\alpha})^{n-1}(X_1\cdots X_{n-1})^{\frac{1}{\alpha}-1}dX_1dX_2\cdots dX_{n-1}$$
$$=\frac{(2r)^n}{\alpha^{n-1}}\int\cdots\int_{\Delta_{n-1}}X_1^{\frac{1}{\alpha}-1}X_2^{\frac{1}{\alpha}-1}\cdots X_{n-1}^{\frac{1}{\alpha}-1}(1-X_1-\cdots-X_{n-1})^{\frac{1}{\alpha}}dX_1dX_2\cdots dX_{n-1}$$
$$=\frac{(2r)^{n}}{\alpha^{n-1}}\frac{\Gamma(\frac{1}{\alpha})\Gamma(\frac{1}{\alpha})\cdots\Gamma(\frac{1}{\alpha}+1)}{\Gamma(\frac{1}{\alpha}+\frac{1}{\alpha}+\cdots+\frac{1}{\alpha}+1)}=\frac{(2r)^{n}}{\alpha^{n}}\frac{\Gamma(\frac{1}{\alpha})^{n}}{\frac{n}{\alpha}\Gamma(\frac{n}{\alpha})}=\frac{(2r)^{n}}{n\alpha^{n-1}}\frac{\Gamma(\frac{1}{\alpha})^n}{\Gamma(\frac{n}{\alpha})}$$

よって、n次元球体の体積は、
$$|V_{2,n}(r)|=\frac{(2r)^n}{n2^{n-1}}\frac{\sqrt{\pi}^n}{\Gamma(\frac{n}{2})}=\frac{2r^n}{n}\frac{\pi^\frac{n}{2}}{\Gamma(\frac{n}{2})}=\begin{cases}\frac{\pi^{\frac{n}{2}}2^{\frac{n}{2}}}{2\cdot 4\cdot 6\cdots n}r^n&n\text{が偶数}\\\frac{\pi^{\frac{n-1}{2}}2^{\frac{n+1}{2}}}{1\cdot 3\cdot 5\cdots n}&n\text{が奇数}\end{cases}$$

となります.他にも、アステロイドの内部の面積は、$n=2$, $\alpha=\frac{2}{3}$ とすればよく、
$$V_{\frac{2}{3},2}(r)=\frac{(2r)^2}{\frac{4}{3}}\frac{\Gamma(\frac{3}{2})^2}{\Gamma(3)}=\frac{3\pi}{8}r^2$$
となります.

線積分とグリーンの定理

線積分とは、平面上の曲線 $C$ に沿って、$P(x,y)dx+Q(x,y)dy$ を積分することで、
$$\int_C(P(x,y)dx+Q(x,y)dy)$$
とかきます.計算の仕方は、曲線 $C$ のパラメータ表示 $C=C(t)\ \ (t_0\le t\le t_1)$ を用意して、
$C(t)=(x(t),y(t))$ とすると、
$$\int_{t_0}^{t_1}\left(P(x(t),y(t))\frac{dx(t)}{dt}+Q(x(t),y(t))\frac{dy(t)}{dt}\right)dt$$
として計算します.この計算結果は、パラメータ表示の取り方に依らないので、曲線 $C$ と $P(x,y)dx+Q(x,y)dy$ にしかよりません.
この、関数 $P,Q$ も $C$ において定義されていればよく、平面全体の関数である必要はありません.

グリーンの定理(公式)
$C$ を交わらない閉曲線とする(始点と終点が一致する).その内部を $D$ とする.
$P(x,y),Q(x,y)$ が $D$ 上で定義された関数だとすると、
$$\int_C(P(x,y)dx+Q(x,y)dy)=\int\int_{D}\left(\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}\right)dxdy$$
と計算される.

この定理により、平面上の閉曲線上の線積分は、その内部の重積分として計算することができることがわかります.

平面上の領域 $D$ においてその境界を $C$ とすると
$D$ の面積を $S(D)$ としてグリーンの定理を用いると
$$S(D)=\int_Ddxdy=\int_D(1-0)dxdy=\int_Cxdy$$
$$S(D)=\int_D\left(\frac{1}{2}-(-\frac{1}{2})\right)dxdy=\frac{1}{2}\int_C(xdy-ydx)$$
として線積分によって計算をすることができます.