2015年5月31日日曜日

行列式としてのアレクサンダー多項式

結び目のアレクサンダー多項式は、ある状態和として得られることを
以前のblogでやりました.

この不変量は結び目のある状態の足し合わせとして得られていました.

しかし、この不変量はある行列の行列式としての解釈もあります.


行列式としてのアレクサンダー多項式

ちなみに、以下のように、状態和としての不変量であるアレクサンダー多項式が
何かの行列式になっているという事実は、カウフマンをして「ミラクル」だと言っています.

これから、アレクサンダーコンウェイ多項式(正確にいえば、$z=W-B$ を代入する前の式)
はある行列の行列式の展開式だということを例を使って説明します.

ちなみに前回紹介したのはアレクサンダー-コンウェイ多項式と言いましたが、
アレクサンダー多項式とアレクサンダー-コンウェイ多項式は下に示すように変数を
取り換えただけですから本質的には同じものです.

以下の構成はカウフマン(Kauffman)の以下の著書(1)もしくは論文(2)にそのまま
載っています.


どのような行列かというと....

結び目の図式の各交点において、その4ツ角に



のような式をおきます.
このとき、この点において、
$$xA-xB+C-D=0$$
なる関係式をおきます。
このような交点の周りのラベリングをアレクサンダーラベリングといいます.
上を通るアークの方向が付いていませんが、どちらに向かっていてもラベリングの付け方は
かわりません.

そうすると、各交点の数が列数 $n$ 、領域の数が行数 $n+2$ となる $n\times (n+2)$ 行列
$M$ を作ることができます.

例えば、三葉結び目の場合、アレクサンダーラベリングは、領域を
図のように $A,B,C,D,E$ として、表示しておけば、




となります.この交点に従って作られた3つの関係式からくる行列 $M$ は
$$M=\begin{pmatrix}x&-1&0&-x&1\\x&-x&-1&0&1\\x&0&-x&-1&1\end{pmatrix}$$
となります.さらに、隣り合う領域をひと組、例えば、$A,D$ としておきます.
この選び方は、blogで行ったものと同じですが、実際、どこの隣り合った領域でも
構いません.そして、その領域に関係する縦ベクトルを除いてやって
得られる$n\times n$ 行列を $M[A,D]$ としておけば、
$$M[A,D]=\begin{pmatrix}-1&0&1\\-x&-1&1\\0&-x&1\end{pmatrix}$$
となります.つまり、行列 $M[A,D]$ は、$B,C,E$ からなる列つまり、$2,3,5$列目だけから
なる正方行列です.

こうして、この行列の行列式を計算することで、

$$\det(M[A,D])=1-x+x^2$$
が得られます.

この式は実は、アレクサンダー-コンウェイ多項式を計算する前の式 $\langle K\rangle$
つまり、$WB=1$ かつ $z=W-B$ とする前の式において、
$W=x^{\frac12}$, $B=x^{-\frac12}$ としてえられる $x$ のローラン多項式と、
全体に $\pm x^m$ をかけることを除いて等しくなります.
($m$ は何かの整数.)

つまり、$\langle K\rangle=W^2-WB+B^2=x-1+x^{-1}$ ですが、
この式は、$x-1+x^{-1}=x(1-x+x^2)$ となっています.

他のを計算してみると、 $\det(M[A,B])=1-x+x^2$ や $\det(M[D,E])=x-x^2+x^3$
$\det(M[A,C])=-1+x-x^2$ となり、$\pm x^m$ をかけてやれば、みな、$x-1+x^{-1}$ と
等しくなります.

この、$\pm x^m$ をかけることを除いて $1-x+x^2$ と一致することを
$$\det(M[A,D])\doteq 1-x+x^2$$
と書きます.
そうしてでてきた $x$ の多項式をアレクサンダー多項式と言います.
アレクサンダー多項式の指数は $x^m$ を掛ければどんどん変わっていってしまうので、
対称化しておいて、$x^{-1}-1+x$ と書くこともあります.
ちなみに、アレクサンダー多項式の性質として、必ず、上のように対称になります.
つまり、$\pm x^m$ を掛けてやることで必ず、
$$a_kx^k+a_{k-1}x^{k-1}+\cdots+a_{k-1}x^{-k+1}+a_kx^{-k}$$
の形に置くことができます.

アレクサンダー多項式は結び目のイソトピー不変量になります.


状態和不変量がどうして行列式で書けたのか?

この不変量の各項は意味があります.
三葉結び目の状態は3つであったことを思い出しましょう.

つまり、もう一度振り返りますと、

$$M[A,D]=\begin{pmatrix}-1&0&1\\-x&-1&1\\0&-x&1\end{pmatrix}$$

となっています.この行列式がどうしてアレクサンダー多項式と一致するのでしょうか.

$M[A,D]=(a_{ij})$ としておき、この行列を行列式の定義に基づいて考えます.
つまり、残った、$B,C,E$ を順に $1,2,3$ とし、
交点のうち左上のものを 1 として時計回りに $1, 2, 3$ としています.

ところで、行列式は定義式で書いておけば、
$$\det=\sum_{\sigma\in S_n}sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$
となっています.
ここで $sgn$ は置換 $\sigma$ の符号数です.

結び目の図式のある状態とは、
$$\tau:\{\text{交点全体}\}\to \{\text{●のない領域全体\}}$$
であり、それぞれは、同数ずつあり、(例えば上のように $\{1,2,3\}$ と同一視しましたが)
状態の条件(各領域には▲は一つだけおく)はこの $\tau$ が一対一写像であることを
意味します.

つまり、この行列の各項は、結び目の図式のある状態と一致すること
とりわけ今の場合は $S_3$ の元との一致があります.

上の行列で、係数が $0$ でない項を見ると、

$$a_{11}a_{22}a_{33}-a_{11}a_{32}a_{23}+a_{13}a_{21}a_{32}$$

となります.それぞれの状態では、置換
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\1&2&3\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}1&2&3\\1&3&2\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}1&2&3\\3&1&2\end{pmatrix}$$

に対応しています.次にそれぞれの項を見ていきます.


それぞれの項はどうなっているのか.

前回の $S_1,S_2,S_3$ のそれぞれの ▲ があった場所にだけ
アレクサンダーラべリングを置きます.

対角成分の積は、
$$a_{11}a_{22}a_{33}=(-1)\cdot (-1)\cdot 1$$
は状態

に対応し、

$$a_{11}a_{32}a_{23}=(-1)\cdot 1\cdot (-x)$$
は状態

に対応し、

$$a_{13}a_{21}a_{32}=1\cdot (-x)\cdot (-x)$$
は状態

に対応しています.



さらに、状態 $S$ に対して $\sigma(S)$ ですが、これは状態が $B$ を指している数の偶奇、
今の場合は、ちょうど$-x$ に当たるのが $B$ (もちろんいつもそうなっているわけではない)
ですから、指している角が $B$ となる数が奇数であるのは、2つ目の
状態であるときのみであり、このとき $\sigma(S)=-1$ となり、それ以外は $\sigma(S)=1$ です.

そのとき、
$$\sigma(S)=sgn(\tau)$$

がきれいに成り立っているのです.
もちろん、この関係式は証明が必要です.


状態和を行列式で書くこと.

状態和の不変量を考えるとき、
その量をある行列の行列式で書くということは、他の場面でもよく現れます.

今の例では、「状態全体」を「結び目の図式のなす交点と領域の間の一対一対応全体」
と読み替えた時、その状態にそって考えられた量は何かの行列の行列式として
書けていることが期待されます.

もちろん、符号の問題もありますからミラクルが起こるかどうかは
その時次第かもしれません.


「ある状態が、何かの一対一対応写像と一致するものとします.
さらに、その状態の量がその一対一写像に付随して決まり、その状態和がある不変量を
与えているとすると、その値は何かの行列の行列式としてまとめることができる.」

ことを意味し、

「何かの不変量が行列式で与えられるとすると、その各項は、ある状態全体の和とした不変量
として解釈することができる」

も意味するでしょう.

前者の方の見方の方が、状態和不変量が行列式としてまとまって、
きれいな公式が作れそうですが、
後者の方の見方には実は深みがあります.

つまり、なんとなく定義した行列式不変量の展開項一つ一つには何か幾何学的な
意味が潜んでいるかもしれないということを示唆しているからです.


実際、アレクサンダー多項式の展開式の項はある状態を表しますが、
これは単なる項ではなく、さらに結び目のフレアホモロジーというものの生成元としての意味が
れっきとしてあったのです.(参考文献(3)をみよ.)

このフレアホモロジーというのはさらに、サイバーグウィッテン不変量など、
現代を代表する、物理学のある理論から出てくる不変量と同型の理論であることがわかっています.


参考文献

  1. Kauffman, Louis H. Formal knot theory. Mathematical Notes, 30. Princeton University Press, Princeton, NJ, 1983. ii+168 pp. ISBN: 0-691-08336-3
  2. Kauffman, Louis H. Remarks on Formal Knot Theory, arXiv:math/0605622v1
  3. 丹下基生 ヒーゴールフレアホモロジー-Heegaard Floer homology, 数理科学47(通号556)2009年10月48-53

2015年5月26日火曜日

連続と一様連続

今日も手習い塾に行きました。

そこで質問している人がいて、
「連続と一様連続のちがい」が分からず悩んでおられました.

微積ではなく数学基礎の方の授業のようでした.

確かに微積で最初につまづくとすると、

「$\epsilon-\delta$-論法」
「連続と一様連続」
「収束と一様収束」

でしょう.

どれも$\epsilon$ やら $\delta$ やらの論理式で書かれていますのでそのような
式に慣れていない大学一年生は面食らうわけです.

受験では答えが出るような計算や、お決まりのパターン暗記ばかり
やっていたわけですから、論理がうまくつながるように数式を処理するとか、
任意の何とかに対して成立を示せとか、ある実数が存在することの証明とか、
不等式をうまく処理するとか慣れていないわけですね.

もちろん高校までの数学を否定しているわけではなくてそれはそれで
できないと大学の数学では話にならないわけです.


さて、本題は連続と一様連続の違いでした.
近くにいた大学院生はなかなかとうまく答えられていませんでしたね.
理解していることと上手く説明することのギャップも
またあるわけです.

連続

実数上の実数値関数 $f(x)$ が連続とは、定義を書いてしまうと、

「任意の $x$ に対して、任意の正の実数 $\epsilon>0$ に対してある $\delta$ が存在して
$$|y-x|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(y)|<\epsilon$$
が成り立つ.」

ということです.
読み解くにはまず、「任意の」の攻略です.

意味は「あらゆる」とか、「全ての」ということです.

  • なんでもいいから自由に数をとってきなさい.
    そしてそれ以降はその数は固定して考えてよいということです.

次に、「が存在して」の攻略です.

意味は、「探しなさい」、「作りなさい」ということです.
  • 以下を満たすように自分で何か作ってください.
    その為の条件(材料)はそれ以前に書かれています.


最初から定義を読んでいくと、

「任意の $x$ に対して、」といった時点で実数 $x$ をなんでもいいから一つ選んで固定して
考えるが、この先、どの $x$ に対しても以下のことが成り立たなければならない
ということを言っています.

さらに、

「任意の $\epsilon>0$ に対して」と続きますが、これも正の実数をなんでもいいから
一つ選んで選び方によらずにそのあとのことが成り立つということです.
要するに、読みながら正の実数 $\epsilon$ もなんでもいいから一つ決めて進めばいい
のだなと思えばよいです.

問題は次です.「ある$\delta$が存在して、」となります。
これはなんでもいいから取ってこれるというわけではなくて
何か(あなたで)工夫して$\delta$ をもってきなさい
(というかもってこれます)ということです。どうやって工夫するかはその都度違いますが、
その材料となるのはその前の文章で任意に取ってきた
$x, \epsilon$ です.
つまり、どんなふうに $x,\epsilon$ を
取ってきても後ろの命題が成り立つように工夫して $\delta$ を持ってこれるという
ことです.

後ろの命題は何だったかというと、
$$|y-x|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(y)|<\epsilon$$
です.

どういうことかというと

$f(x)$ を中心とした前後 $\epsilon>0$ の幅を $y$ 軸上で考えます.
このとき、$x$ を含む前後 $\delta$ の幅をうまく取ってこれば、
$x$の近くの $\delta$ 以内の全ての実数は $f$ で $f(x)$ を中心とした幅の中に入れられる.
$|x-y|<\delta$ $\Rightarrow$  $|f(x)-f(y)|<\epsilon$

ということです.
この「前後$\delta$ の幅」のことを数学用語で、$\delta$-近傍といいます.
一般に、ある点の近くの点全部のことをその点の近傍と言います.

今までのことを絵であらわせば、



となります.

この関数は最初から連続っぽく書かれていますが、イメージです.
最初に任意に $x,\epsilon$ を決めておけば、図が示すように、$f(x)$ の $\epsilon$-近傍に
すっぽりと入ってくる$x$ の $\delta$-近傍の像
($x$ からのビーム照射の影(上図))が作れています.

$\epsilon$-近傍は勝手に取ってきているので場合によっては $\epsilon$-近傍に
入る為の$\delta$ を工夫して小さくしておかなければならない
ということが見込まれます.


連続でないこと

連続でないときとは、どんなに $\delta$ を小さく工夫しても、
その $\epsilon$-近傍に $f$ の像がおさまらないということです.

ちゃんと否定命題を作っておけば

「ある $x$ に対して、ある正の実数 $\epsilon>0$ が存在して、任意の $\delta>0$ に対して

ある $y$ が存在して
$$|x-y|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(y)|>\epsilon$$
が成り立つ.



例えば、下を見てください.



関数が途中で途切れています.切れたところで $x$ を取ることにし、
$f(x)$ の$\epsilon$-近傍を持ってきます.
ただし、$\epsilon$ をこの切れている隙間より大分小さく取っておきます.
(連続の否定命題の場合は $\epsilon$ は何か自分で探してもってこればよいのです.)

そうすると、
$x$ の $\delta$-近傍をどんなに小さくしても、グラフにおいて $f(x)$ で切り離されている
部分($x$ の右側の部分)は $f(x)$ の $\epsilon$-近傍に収めることができません.
(そのために $\epsilon$ を小さく取っておく必要があったわけです.)

つまり、どんな $\delta$ に対しても $x<y<x+\delta$ なる$y$ をとってくることができて、
$f(y)$ は$f(x)$ の $\epsilon$-近傍に入れることができません.


一様連続

このように連続について分かれば、一様連続は大したことではありません.
一様連続の定義を見てみると、

「任意の $\epsilon>0$ に対して、ある正の実数 $\delta>0$ が存在して、
$|x-y|<\delta$ ならば、$|f(x)-f(y)|<\epsilon$ がなりたつ.」

何が違うかといえば、最初に $x$ を決めていないことです.
要するに、一様連続は $x$ によらない性質だということです.
なので、実数全体で押し並べて(一様に)何かが成り立っています.

何かというと、$\epsilon$ を任意に取ってこれば、定義域において、区間 $[x,y]$ でその
幅が $\delta$ となるもの(ここでは $\delta$ 幅と呼びましょう)が存在して、
その $\delta$ 幅の任意の $f$ の像が値域の方で $\epsilon$ 幅に収めることが
できるということです.
もう一度注意すると、この幅 $\delta$ は $x$ の場所によらずに決めることができます.

単なる連続であれば、$\delta$ は $x$ に依って決めてよかったのですが、
一様連続の場合は $\delta$ として $x$ のどこでも同じ $\delta $にしなければならないのです.
ただし、$\delta$ は $\epsilon$ によって決めてもよいです.
下に絵を載せておきます.


ただ、関数の「傾き」が小さいと、$\delta$ 幅の像が
小さくて済みますが、「傾き」が大きくなると、$\delta$ 幅の像は大きくなってしまいjます.
「傾き」が大きいところでも $\epsilon$ の幅に入ってくるようにするには最初から $\delta$ を
小さくしておかなければなりません.

(ここで「傾き」という言葉を使いましたが、傾きが定義できない例もあるかもしれないので
要するに、変化量と思えばよいでしょう。)


しかし、そのような工夫がいつまでも続けられるか?ということがあります.
「傾き」が限りなく大きくなるような関数であるとすると、どんなに小さく$\delta$
小さく取っておいても、いつかは最初に決めた $\epsilon$ を超えるような像になってしまうかもしれません.
そのようなとき、関数は一様連続とは言いません.

手習い塾に来ていたみなさんには $y=x^2$ が一様連続でないことの問題をあげました.
$y=x^2$ は無限大において傾きが発散してしまいますので今言った$\delta$ 幅を
取ることができません.

 幅が$\delta$ の $x,y$ を無限の方向に近づけてやると、
その $y=x^2$ の像は限りなく広がってしまいますよね?

今言ったことが分かるまで紙に書いて確かめてみるとよいでしょう.

この関数 $y=x^2$ が一様連続でないことの証明は一様連続を習った後なら出来て欲しいですね.
ここまで、連続と一様連続の感覚だけを述べました.


(注意)
ここでは、連続と一様連像の感覚を述べただけなので証明の書き方は一切述べていません.
なので、ここに書いてあることをそのまま証明としてレポートに書いてしまっても
点数はもらえませんのでご注意ください.
しかし、教科書に書いてあることが理解できるようには説明をしたつもりです
ので、後は、証明が書けるように教科書を読みながら
その証明を真似すればよいと思います.

証明を書く場合には数式や論理を使ってちゃんと書いてください.


まとめ

連続とは、任意の$\epsilon,x$に対して成り立つ性質である.
どんなに 像の $f(x)$ の$\epsilon$-近傍を指定しておいても、その近傍に、まるまる
ぞの像が入るような $x$ の $\delta$-近傍が存在するということ.


一様連続とは、任意の $\epsilon$ に対して成り立つ性質である.
$\epsilon$ を決めておけば、$\delta$ 幅を十分小さくとっておけば、
$\delta$ 幅の実数の像はいつでも、$\epsilon$ 以内に収めることができる.

2015年5月19日火曜日

ネイピア数 e に上から近づく数列

この前手習い塾に顔を出した時、学生たちがやっていた演習問題について書きます.
とても些細なことです.

大学一年生?と思しき人が悩んでいた問題は、

数列 $\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n+1}$ が単調減少であることを示しなさい.

というものでした.
私も大学の数学の一教職員ということで、こんなもの何も見ずにできるだろうと
思っていたところ2,3分ほど悩んだ挙句、思わず $n$ を $x$ に変えて微分したら?
と言ってしまいました.
やはり、あると思ってもないのが教養ということでしょうか?

そんな答えではとても思考力は養われませんね.
というわけで、何も見ずに素朴に不等式だけで答えました.
解答は出来てしまえばとても簡単です.
このページをみて演習に答える人がいるかどうかわかりませんが.

 
$$\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n+1}<\left(1+\frac{1}{n-1}\right)^{n}$$
を示せればいいわけで、$\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n}$ で両辺を割ってやって、
$$1+\frac{1}{n}<\left(1+\frac{1}{n^2-1}\right)^n$$
となります.この不等式は、2項定理を使って、
$$\left(1+\frac{1}{n^2-1}\right)^n>1+\frac{n}{n^2-1}>1+\frac{n}{n^2}=1+\frac{1}{n}$$
となるから成り立ちます.

2015年5月5日火曜日

ラマヌジャン和と約数関数

ラマヌジャン和について書きます.

まずラマヌジャン和 $c_n(m)$ を定義しておきます.$n,m$ はどちらも正の整数を動きます.
$$c_n(m)=\sum_{1\le k\le n,\gcd(k,n)=1}\exp\left(2\pi\sqrt{-1}\frac{km}{n}\right)$$
とします.ちなみにガウス和は
$$S(m,n)=\sum_{k=0}^{n-1}\exp\left(2\pi\sqrt{-1}\frac{k^2m}{n}\right)$$
です.

次に、ラマヌジャンによる等式
$$\sigma_\alpha(n)=\zeta(1-\alpha)\sum_{k=1}^\infty \frac{c_k(n)}{k^{1-\alpha}}$$
を示しましょう.前回に引き続きラマヌジャンによる等式です.

最初に例を挙げます.正の整数 $q=12$ を一つ取ります、このとき、 12の約数を見ると、$d=1,2,3,4,6,12$ ですが、$\frac{h}{12}\ \ (h=1,\cdots q)$ を既約分数にしたときに分母が $d$ となるもので分類しておくと、
$$\frac{12}{12}\to \frac{1}{1}$$
$$\frac{6}{12}\to \frac{1}{2}$$
$$\frac{4}{12},\frac{8}{12}\to \frac{1}{3},\frac{2}{3}$$
$$\frac{3}{12},\frac{9}{12}\to \frac{1}{4},\frac{3}{4}$$
$$\frac{2}{12},\frac{10}{12}\to \frac{1}{6},\frac{5}{6}$$
$$\frac{1}{12},\frac{5}{12},\frac{7}{12},\frac{11}{12}$$
となります.
それぞれ、$d$ ごとに見てみると、分母が $d$ の分数の数は、$d$ と互いに素な数全てにわたっています.要するに個数だけ見れば、等式
$$q=\sum_{d|q}\varphi(d)$$
を意味しています.
このとき、$n$ を任意の整数として、この分数 $\frac{h}{q}$ を指数として、$\exp(2\pi\sqrt{-1}\frac{hn}{q})$ をの和を考えます.このとき、上の分類を使って1 から $q$ までの数を分けて足すことをしてやると、
$$\sum_{h=1}^{q}\exp\left(2\pi\sqrt{-1}\frac{hn}{q}\right)=\sum_{d|q}\sum_{(l,d)=1,1\le l\le d}\exp\left(2\pi\sqrt{-1}\frac{ln}{d}\right)=\sum_{d|q}c_d(n)$$
となります.また、左辺は等比数列の和だから、$\exp\left(2\pi\sqrt{-1}\frac{n}{q}\right)\neq 1|\leftrightarrow q\not|n$ なら、
$$\exp\left(2\pi\sqrt{-1}\frac{n}{q}\right)\frac{1-(\exp(2\pi\sqrt{-1}\frac{n}{q}))^q}{1-\exp(2\pi\sqrt{-1}\frac{n}{q})}=0$$
$q|n$ のとき、この和は $1$ の $q$ 個の和だから、$q$ となります.つまり、
$$\sum_{d|q}c_d(n)=\begin{cases}q&q|n\\0&q\not|n\end{cases}$$
これはラマヌジャン和のメビウス変換です.

だから、
$$\sum_{m=1}^\infty \frac{1}{m^{1-\alpha}}\sum_{d=1}^\infty \frac{c_d(n)}{d^{1-\alpha}}=\sum_{k=1}^\infty\frac{1}{k^{1-\alpha}}\sum_{d|k}c_d(n)$$
この右辺は、$k$ は $n$ の約数の時以外は$0$ になるから、
$$=\sum_{k|n}\frac{1}{k^{1-\alpha}}k=\sum_{k|n}k^\alpha=\sigma_\alpha(n)$$
となります.
つまり約数関数 $\sigma_\alpha(n)$ はラマヌジャン和を使って、
$$\sigma_\alpha(n)=\zeta(1-\alpha)\sum_{k=1}^\infty \frac{c_k(n)}{k^{1-\alpha}}$$
となります.

ラマヌジャンによる等式

前のblog で乗法的関数とその母関数についてやりました.
その続きです.

$\sigma_\alpha(n)$ を約数関数で、$\sum_{d|n}d^\alpha$ と定義します.
また、 $\varphi_\alpha(n)$ を
$$\varphi_\alpha(n)=n^\alpha\prod_{p|n}(1-\frac{1}{p^{\alpha}})$$
として定義します.
そうすると、この関数は明らかに乗法的関数であり、$\text{id}^\alpha=1\ast \varphi_\alpha$ が成り立ちます.$\text{id}^\alpha$ は $\alpha$ 乗関数です.つまり、$\text{id}^\alpha(n)=n^\alpha$ です.
この式を母関数のレベルで見れば、
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{n^\alpha}{n^s}=\zeta(s-\alpha)=\zeta(s)\sum_{n=1}^\infty \frac{\varphi_\alpha(n)}{n^s}$$
となるので、
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{\varphi_\alpha(n)}{n^s}=\frac{\zeta(s-\alpha)}{\zeta(s)}$$
となります.

また、メビウス変換をして、$1\ast 1\ast \varphi_\alpha=1\ast \text{id}^\alpha=\sigma_\alpha$
が成り立ちます.母関数にすれば、
$$\zeta(s)\sum_{n=1}^\infty\frac{n^\alpha}{n^s}=\zeta(s)\zeta(s-\alpha)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\sigma_\alpha(n)}{n^s}$$
が成り立ちます.もちろん $\alpha=0$ とおけば、こちらにある約数の個数の関数の母関数の等式になります.
この等式も興味深いですが、本橋洋一氏の「素数分布論」にもある次のラマヌジャンの等式
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{\sigma_\alpha(n)\sigma_\beta(n)}{n^s}=\frac{\zeta(s)\zeta(s-\alpha)\zeta(s-\beta)\zeta(s-\alpha-\beta)}{\zeta(2s-\alpha-\beta)}$$
です.
この証明は下の参考文献に全く同じものがありますが、素人にしてみれば寝転んで眺めただけでは分からなかったので、ここに書いてみます.
$$\sigma_{\alpha}(n)\sigma_\beta(n)=\sum_{d_1|n,d_2|n}d_1^\alpha d_2^\beta=\sum_{[d_1,d_2]|n}d_1^\alpha d_2^\beta$$
ここで、$[d_1,d_2]$ は $d_1,d_2$ の最小公倍数です.
ここで、$n^{-s}$ をかけて和をとる.
そうすると、
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{\sigma_\alpha(n)\sigma_\beta(n)}{n^s}=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^s}\sum_{[d_1,d_2]|n}d_1^\alpha d_2^\beta$$
$$=\sum_{d_1,d_2}\sum_{[d_1,d_2]|n}\frac{d_1^\alpha d_2^\beta}{n^s}=\sum_{d_1,d_2=1}^\infty \sum_{d=1}^\infty \frac{d_1^\alpha d_2^\beta}{d^s[d_1,d_2]^s}$$
となります.ここで、$[d_1,d_2]|n$ となる $n$ の和は $n=d[d_1,d_2]$ とおいて、 $d$ の和として取ることに同値です.
そうすると、$d$ の和と $d_1,d_2$ の和は独立に動くので、もう一度 $d$ と $d_1,d_2$ の和を入れ替えることで、
$$=\sum_{d=1}^\infty \frac{1}{d^s}\sum_{d_1,d_2=1}^\infty \frac{d_1^\alpha d_2^\beta}{[d_1,d_2]^s}=\zeta(s)\sum_{d_1,d_2=1}^\infty \frac{(d_1,d_2)^s}{d_1^{s-\alpha}d_2^{s-\beta}}$$
となります.ここで、$(d_1,d_2)$ は最大公約数です.
最後の等式は、$d_1d_2=[d_1,d_2](d_1,d_2)$ が成り立つからです.
また、メビウス変換から、 $n^s=\sum_{d|n}\varphi_s(d)$ となるので、
$$(d_1,d_2)^s=\sum_{d|(d_1,d_2)}\varphi_s(d)=\sum_{d|d_1,d|d_2}\varphi_s(d)$$
が成り立ち、
$$\sum_{d_1,d_2=1}^\infty \frac{(d_1,d_2)^s}{d_1^{s-\alpha}d_2^{s-\beta}}=\sum_{d_1,d_2=1}^\infty \frac{1}{d_1^{s-\alpha}d_2^{s-\beta}}\sum_{d|d_1,d|d_2}\varphi_s(d)$$
$$\sum_{d_1,d_2}\sum_{d_1|d,d_2|d}=\sum_{d,d_1,d_2=1,d|d_1,d|d_2}^\infty=\sum_{d,d_1',d_2'=1}^\infty $$
ここで、最後の等式は、$d_i=d_i'd$ とみなす.よって、2つ前の式は、
$$=\sum_{d,d_1',d_2'=1}^\infty \frac{\varphi_s(d)}{(d_1'd)^{s-\alpha}(d_2'd)^{s-\beta}}=\sum_{d_1'=1}^\infty \frac{1}{d_1'^{s-\alpha}}\sum_{d_2'=1}^\infty \frac{1}{d_2'^{s-\beta}}\sum_{d=1}^\infty\frac{\varphi_s(d)}{d^{2s-\alpha-\beta}}=\zeta(s-\alpha)\zeta(s-\beta)\sum_{d=1}\frac{\varphi_s(d)}{d^{2s-\alpha-\beta}}$$
となり、上の等式を使えば、
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{\sigma_\alpha(n)\sigma_\beta(n)}{n^s}=\zeta(s-\alpha)\zeta(s-\beta)\frac{\zeta(s-\alpha-\beta)}{\zeta(2s-\alpha-\beta)}$$
が成り立つのです.
参考文献
  1. 本橋洋一, 解析的数論 I ---素数分布論---, 朝倉数学体系(朝倉書店)