2016年2月18日木曜日

線形代数II演習(第15回)後半

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

後半の問題です.

問題15-4
この問題は比較的できていたのではないかと思います.
ただ、

固有多項式が重解をもつので、対角化できるための十分条件を満たさないので、対角化不可能と書いている人がおり、十分条件の意味が分かっていないのか?対角化のための条件は何か分かっていないのでしょうか?

つまり、正しいのは、

固有多項式の根が重解を持たない、つまり、行列のサイズが $n$ とすれば、固有値として $n$ この相異なるものが取れるとき、

行列は対角化可能

です.


また、一般にこの逆は成り立ちません.固有多項式に重根があるからといって対角化不可能とは限りません.

もっとも単純な例が単位行列です.単位行列 $E$ の固有多項式は、$(t-1)^n$ ですが、単位行列なわけなので、自明に対角化されています.どんな正則行列 $P$ を持ってきても、$P^{-1}EP=E$ となり、対角化されます.
これは、固有値 $1$ の固有空間 $W_1$ が ${\mathbb R}^n$ 全体となるからです.
つまり、$\dim W_1=n$ となり対角化可能条件を満たします.
また、最小多項式は当然のことながら $t-1$ となります.

また、答案の中には、$\dim A$ というものを書いている人がおり、行列に次元は意味はありません.それに、行列 $A$ をなぜか簡約化して、ランクを計算している人もいましたが、これも対角化とは関係ありません.$E$ はフルランクで、対角化可能であるのに対して、零行列 $O$ はランクゼロなのに対角化可能です.

問題はヒントに出したように、 サイズが $2$ の行列で示せば十分であり、例えば、$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ としておけば、$\Phi_A(t)=(t-1)^2$ であり、
固有空間を求めると、$\langle \begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}\rangle$ となり、
$\dim W_1=1<2$ となり対角化可能条件に合いません.
よって対角化不可能となるのです.



問題15-5
この問題もかなりできが悪かったです.フィボナッチ数列を使えばよいというところまで合っている人ががいましたが、最後、一次独立性が示せないで終わってしまった人も多かったです.

問題文が少し変だと気づいた人がいたかもしれませんが、本当はもう少し誘導があったのですが、そうすると余りにこの問題に配点が高くなってしまうことを恐れて、ノーヒントでさらりと挑ませました.

ごちゃごちゃ言わず、ひとまず答えを書いてみます.

$a_n$ を初項が $a_0=1,a_1=0,a_2=1$ となるフィボナッチ数列とする.
つまり、漸化式 $a_i=a_{i-1}+a_{i-2}$ を満たす数列である.
$${\bf v}_i=a_{i-1}{\bf v}_1+a_{i}{\bf v}_2\ \ \ \ (*)$$
であることを数学的帰納法により証明する.
${\bf v}_1=1\cdot {\bf v}_1+0\cdot{\bf v}_2$
${\bf v}_2=0\cdot {\bf v}_1+1\cdot{\bf v}_2$ となり正しい.
ここで、${\bf v}_i$ ($i=1,2,\cdots,n$) まで(*)が正しいとする.
このとき、${\bf v}_{n+1}={\bf v}_n+{\bf v}_{n-1}=a_{n-1}{\bf v}_1+a_n{\bf v}_2+a_{n-2}{\bf v}_1+a_{n-1}{\bf v}_2=(a_{n-1}+a_{n-2}){\bf v}_1+(a_n+a_{n-1}){\bf v}_2=a_n{\bf v}_1+a_{n+1}{\bf v}_2$
となり、$i=n+1$ のときも成り立つ.

ゆえに、一般に、${\bf v}_i=a_{i-1}{\bf v}_1+a_{i}{\bf v}_2$ が成り立つ.
よって、$V$ の元は全て ${\bf v}_1,{\bf v}_2$ の元の一次結合でかけ、${\bf v}_1,{\bf v}_2$ は一次独立なので、 $\dim V=2$ となる.
よって、${\bf v}_i$ を数ベクトルで表示すると、
$${\bf v}_i=({\bf v}_1,{\bf v}_2)\begin{pmatrix}a_{i-1}\\a_i\end{pmatrix}$$
となる.

${\bf v}_i,{\bf v}_j$ が一次独立かどうかは、
$$({\bf v}_i,{\bf v}_j)=({\bf v}_1,{\bf v}_2)\begin{pmatrix}a_{i-1}&a_{j-1}\\a_i&a_j\end{pmatrix}$$
と書いたとき、
$\begin{pmatrix}a_{i-1}&a_{j-1}\\a_i&a_j\end{pmatrix}$ が正則かどうかに帰着する.

$i<j$ としておくと、この行列は、
$\begin{pmatrix}a_{i-1}&a_{j-1}\\a_i&a_j\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_{i-1}&a_{j-1}\\a_{i-1}+a_{i-2}&a_{j-1}+a_{j-2}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a_{i-2}&a_{j-2}\\a_{i-1}&a_{j-1}\end{pmatrix}$
$=\cdots=\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}^{i-1}\begin{pmatrix}a_{0}&a_{j-i}\\a_{1}&a_{j-i+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}^{i-1}\begin{pmatrix}1&a_{j-i}\\0&a_{j-i+1}\end{pmatrix}$
となり、この行列の行列式をとると、
$$\det\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}^{i-1}\begin{pmatrix}1&a_{j-i}\\0&a_{j-i+1}\end{pmatrix}=(-1)^{i-1}\det\begin{pmatrix}1&a_{j-i}\\0&a_{j-i+1}\end{pmatrix}=(-1)^{i-1}a_{j-i+1}$$
となる.ここで、$j-i+1> 1$ なので、フィボナッチ数列 $a_n$ は、$n>1$ のとき正の整数であることから、特に、$\det\begin{pmatrix}a_{i-1}&a_{j-1}\\a_i&a_j\end{pmatrix}\neq 0$ が成り立つ.

ゆえに、${\bf v}_i,{\bf v}_j$ は一次独立である.
よって、$\{{\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots\}$ の中でどの2つをとっても一次独立であることがわかる.


おまけ問題15-6

この問題は、15-5を考えているときにとっさに思いついたものですので、難易度は適当でした.気づいた人はできたという感じです.ボーナスポイントといったところでしょうか?

${\bf v}_3={\bf v}_1+{\bf v}_2$
${\bf v}_4={\bf v}_1+{\bf v}_2+{\bf v}_3=2{\bf v}_1+2{\bf v}_2$
ですので、${\bf v}_4=2{\bf v}_3$ となり、${\bf v}_3$ と ${\bf v}_4$ の間には一次関係が存在し、一次独立ではない.

この場合は15-5と同じ主張は成り立たない.


総括

試験を終えてみて、分かることは、ベクトル空間の扱いに不慣れな人がまだ多いということです.試験は、少し応用という点を念頭に作りました.授業で扱った部分をどれほど自分の中で納得して習得されているかを確認するつもりで出したのです.
なので、少し言い回しを変えたりして、問題で何を問われているのか自分で考えるようなところもあったと思います.
「どのようなベクトル空間か?」とは何を言っているのか?など.


例えば、${\mathbb R}[x]$ など多項式をベクトル空間と思うときに、ベクトル空間のイコールがその多項式の恒等式であることが十分理解されていなかったという点があります.このことは授業中に積極的には述べなかったかもしれません.

例えば、
多項式をベクトル空間としたときに $ax^2+bx+c=0$ を満たすベクトルはどのようなベクトルか?

という問題を出したとすると、普通に $a=b=c=0$ となる多項式という答えなのに、
この2次方程式を解いてしまうという誤解答を作ってしまうかもしれないということです.

その2つの区別ははっきりついていますか?


また、2次以下の多項式において、$f(x)=f(1-x)$ を満たすものを求めよ.という問題では、
これを線形写像と勘違いする人は、${\mathbb R}[x]_2$ の元と線形写像の区別がついていないようです.
できなった人は関係式 $f(x)=f(1-x)$ に属する線形性に気づけなかったということでしょうか?
これは、線形代数IIを習う前は5パーセント以下の理解率(クラスで理解している率)かもしれませんが、習ったあとは100パーセントの理解率であって欲しいところです.

線形性とは、和とスカラー倍が保たれる.ということです.
この問題の場合、$f(x)=f(1-x)$ かつ $g(x)=g(1-x)$ なる多項式があったときに、$(f+g)(x)=(f+g)(1-x)$ のような式が成り立つということです.このようなところに線形性があるとは中々気づかないわけです.それをこの学期を通して身につけて欲しいというわけなのです.
商空間や双対空間などもやりましたが、どれもベクトル空間の例なわけですが、こんなところにも線形性が、あんなところにも線形性があると、いろんなところに線形性が落ちてますよということが言いたかったわけです.


この線形代数の目的は、まとめると、

さまざまな場所に潜む線形性



その計算方法

となります.

つまり、線形性が見つけ、それを抽出して、どのような式で書けるのか?またその式を解いたときに現れるベクトル空間はどのようなベクトルで生成されているのか?

ということを半期通じてやっていたわけです.
ベクトル空間に親しめたでしょうか?


私も反省点はあり、宿題として、少し凝ったものが多かったかなというところです.
もう少し基本的な、線形写像を構成することや、線形写像や、線形関係式をといていくつかのベクトルで表示するなどの基本的な問題が少なかったと思われます.
宿題や発表を通して線形性とは何かについて考えて欲しかったというところがあります.


線形代数で行う計算問題は以下のような形が基本的です.

線形写像 $F:V\to W$ がある.
線形関係式 $F({\bf v})=0$ (数ベクトル空間で言えば、連立一次方程式)がある.

この方程式の解全体を解け(表せ).

つまり、$\text{Ker}(F)$ を求めなさいということです.
抽象的ですが、計算自体は連立一次方程式を求めなさいというわけだから中学生でも分かる内容です.


線形代数は数学の中ではどこでも登場します.以上の点をおさえておくことが今後数学の勉強をしていく上で大変重要です.もし、自分の中で線形代数において引っかかっているところがあれば、本やインターネットなどで理解を進めておくとよいです.授業から少し離れた視点に立ってみると、すっきりと腑に落ちるということがあると思います.今は、図書館に行かなくても、ネット環境があればどこでも勉強ができてしまう手軽さがあります.このような環境を使わない手はありません.

しかもこの授業はブログにも対応していますので、授業内容のおさらいとしてブログを使っていただくとよいと思います.また、ブログの内容は残しておきますので、活用してみてください.また、去年行った授業の内容も全てのこしてあります.

物事の理解というのは、誰かに強制されて無理やりというのものではなく、(意識的にも、無意識的にも)思考し続けて、ふと、何気ない場所で進む場合がありますので、最後まであきらめないで勉強を続けてください.

線形代数II演習(第15回)前半

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は試験を行い、採点を行いました.
各問題における得点率は下のようになりました.

80点満点+10
受験者:19人
平均点:51.5点
最高得点:79点
60点以上:4人
問題ごとの得点率です.

問題123456
得点率(%)49.188.756.391.529.210.5



以下問題の解説と解答です.

問題15-1
商空間に対して説明します.$V$ をベクトル空間として $W$ を $V$ の部分ベクトル空間とする.このとき、$V$ の元 ${\bf v}$ と ${\bf v}'$ が ${\bf v}-{\bf v}'\in W$ を満たすとき、このベクトル ${\bf v}$ と ${\bf v}'$ を同一視することで、$V$ 全体を幾つかの同値類に分ける.
このとき、できるクラス全体を $V/W$ とかく.この $V/W$ は以下のようにしてベクトル空間となる.${\bf v}\in V$ に属するクラスを $[{\bf v}]$ と書くことにすれば、
$[{\bf v}]+[{\bf w}]=[{\bf v}+{\bf w}]$
$\lambda[{\bf v}]=[\lambda{\bf v}]$
として和とスカラー倍を定義する.
この定義は、一見、${\bf v}$ や ${\bf w}$ に依存して定義されるように見えるが、それらの代表元を取り替えて計算しても計算されるクラスは同じものになる.(Well-defined性)
(このWell-defined性についても確かめてもよいです)

また、$V/W$ の別の見方として、$[{\bf v}]\in V/W$ を ${\bf v}$ を通る $W$ に平行な空間としてみる見方である.このとき、上の和は、${\bf v}$ を通る $W$ と平行な空間と ${\bf w}$ を通る $W$ に平行な空間全体の足し算を ${\bf v}+{\bf w}$ を通る $W$ と平行な空間として定義したことになる.

(コメント)
商空間がどういうものかということをなんとなく書いている人が多かったです.
なかには、整数全体がベクトル空間になり、商空間として、${\mathbb Z}/n{\mathbb Z}$ をあげている人がいましたが、これはベクトル空間の商空間ではありません.
${\mathbb Z}$ がベクトル空間だと言っている人は、半期何を聞いていたのでしょうか?

商空間を構成したとき、それがベクトル空間になるということが重要ですので、
とりあえず、和とスカラー倍くらいは定義してください.


問題15-2
$$\{1+2x,-1+x-x^2,3+3x+x^2,1+x^2,-3+4x-4x^2\}$$

のうち一次独立なベクトルを最大数選べという問題でしたが、大部分の人は、基底をとって、
$$(1,x,x^2)\begin{pmatrix}1&-1&3&1&-3\\2&1&3&0&4\\0&-1&1&1&-4\end{pmatrix}$$
としていました.しかし、この簡約化が正しくできなかった人が多かったです.

簡約化すると、
\begin{pmatrix}1&0&2&0&1\\0&1&-1&0&2\\0&0&0&1&-2\end{pmatrix}
この簡約化に頼らずやっている人も多く、せっかく簡約化をしたのにその使い方がわかっていない人が多かったです.

この簡約化を見ることで、標準ベクトルになっている列が1列目、2列目、4列目とあります.よって、元のベクトルにおいても、一次独立なベクトルとして、1つ目、2つ目、4つ目となり、つまり多項式で言えば、それぞれ、$1+2x, -1+x-x^2, 1+x^2$ となります.
また、他の2つのベクトルがその一次独立なベクトルのどのような一次結合かも、この簡約化でわかります.つまり、3つ目、5つ目のベクトル$\begin{pmatrix}2\\-1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\2\\-2\end{pmatrix}$
の係数を読むことで、この係数通り、
$3+3x+x^2=2(1+2x)-(-1+x+x^2)$
$-3+4x-4x^2=1+2x+2(-1+x-x^2)-2(1+x^2)$
となることもわかります.


問題15-3
この3番の問題が意外にもできが悪かったです.

まず、問題の出し方を少し今までと変えてみました.
今までは、${\mathbb R}[x]_2$ のことをわざわざ言葉で、2次以下の多項式と言っている点です.これは同じことを言っていることがわからず、2次のもの、1次のもの、定数のものと分けて議論を始めている人がいました.これでは、結果はベクトル空間になりませんね。

どのようなベクトル空間か?という問いも初めてかもしれませんが、どのようなベクトルで生成されるベクトル空間か?という問いだと解釈しても構いません.

また、いつも通り、数ベクトルで答えを書いている人がおり、問題で言われているどのようなベクトル空間かという問いの答えになっていないのは明らかです.

また、$f(x)=f(1-x)$ という形も見慣れないのかもしれませんが、$f(x)=f(1-x)$ を満たす多項式全体ということは、線形写像 $F:{\mathbb R}[x]_2\to {\mathbb R}[x]_2$ で、 $F(f(x))=f(x)-f(1-x)$ なるものの核を求めればよいという解釈ができるかどうか.
つまり、$\text{Ker}(F)=\{f(x)\in {\mathbb R}[x]_2|f(x)-f(1-x)=0\}$ です.

そうでなくても、$f(x)=a+bx+cx^2$ として、$a,b,c$ の連立方程式を導けばよいはずです.

ただ、代入して整理することで
$(b+c)-2(b+c)x=0$ という方程式が得られます.

この後、因数分解をして、$(b+c)(1-2x)=0$ とすることで、$b+c=0$ であるときと、
$b+c\neq 0$ と場合わけをして、後者は、$x=\frac{1}{2}$ を導いている人がいました.
$y=f(x)$ と $y=f(1-x)$ の交点を求めているわけではありません.
この場合は $f(x)=f(1-x)$ は $x$ の方程式と成ってしまいます.

ここでの $f(x)=f(1-x)$ なる方程式は、それを満たす $f(x)$ を求めること、つまり、この関数等式を恒等式として満たすような $f(x)$ の全体を求めよということがわかっていなかったと思われます.

つまり、$(b+c)(1-2x)=0$ を $x$ がどんな値でも満たすようにしなさいということだから、$b+c=0$ となるのです.また、この式で、$a$ は何でもよいわけだから、独立な変数となります.
つまり、$f(x)=ax^2+bx+c$ のうち恒等式として $f(x)=f(1-x)$ を満たすような多項式は、
$1$ と $x-x^2$ の線形和、式で書くと、$\langle 1,x-x^2\rangle$ と書いてあったものはマルにしました.

関数等式というのは、関数としての等式なので、方程式ではありません.
恒等式ということです.

また、何を勘違いしたのか、$f(x)\mapsto f(1-x)$ という線形写像だと思った人もいました.
さらに、なぜか、表現行列を求めようとした人がいました.そのような解答は支離滅裂でもう読めません.


この問題は、$x$ と $1-x$ を入れ替えても同じ多項式を求めなさいというわけなので、
$t_1=x$ と $t_2=1-x$ の対称式と考えても構いません.
$t_1,t_2$ の対称式だから、定数項、$t_1+t_2,t_1t_2,....$ となり、2次以下の多項式だから(この定理は対称式に関する深い定理です)、$1,t_1+t_2,t_1t_2$ で生成されるはずです.
$t_1+t_2$ は定数になってしまうので、結局、$1,t_1t_2$ で生成されたということになるのです.


2016年2月17日水曜日

線形代数II演習(第14回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は発表でした。
自分の好きな問題を解いていたわけですが、理解している部分もありますが、
まだまだな部分が多かったような気がします.

この秋学期の線形代数の授業の総括は、15回の方のブログに書くことにします.

14回に載せた話題について、ここでは書くことにします.

行列乗についての話を載せましたと思います.
射影子の話はスペースの都合上ここでは割愛します.

$A$ を $n\times n$ 正方行列とすると、$e^A$を
$$e^A=E+A+\frac{1}{2!}A^2+\frac{1}{3!}A^3+\cdots$$
とします.このとき、この級数は収束します.

$||A||=\max\{|a_{ij}||1\le i,j\le n\}$ とします.

このとき、$||A^2||\le n||A||^2$ となります.よって、帰納的に
$||A^m||\le n^{m-1}||A||^m$ となります.

よって、
$$||e^A||\le 1+||A||+\frac{n||A||^2}{2!}+\frac{n^2||A||^3}{3!}+\cdots$$
$$= 1+||A||+\frac{(n||A||)^2}{2!}+\frac{(n||A||)^3}{3!}+\cdots=e^{n||A||}$$
となり、$e^A$ の各成分は収束します.

ここでは、正方行列 $A$ に対して、$e^{tA}$ なる関数を考えます.


例えば、$A=\begin{pmatrix}\lambda&0\\0&\mu\end{pmatrix}$ なる対角行列とすると、
$A^n=\begin{pmatrix}\lambda^n&0\\0&\mu^n\end{pmatrix}$ となるので
$e^A=\begin{pmatrix}e^\lambda&0\\0&e^\mu\end{pmatrix}$
となります.よって、$e^{tA}=\begin{pmatrix}e^{\lambda t}&0\\0&e^{\mu t}\end{pmatrix}$

また、$A=\begin{pmatrix}\lambda&1\\0&\lambda\end{pmatrix}$ とすると、
$A^n=\begin{pmatrix}\lambda^n&n\lambda^{n-1}\\0&\lambda\end{pmatrix}$ ですので、
$e^A=\begin{pmatrix}e^\lambda&e^\lambda\\0&e^\lambda\end{pmatrix}$
$e^{tA}=\begin{pmatrix}e^{\lambda t}&te^{\lambda t}\\0&e^{\lambda t}\end{pmatrix}$
となります.

対角化可能なものについては、$P^{-1}AP$ を対角行列 $D$ としたときに、
$e^{P^{-1}AP}=P^{-1}e^AP=e^D$ とし、
$e^A=Pe^DP^{-1}$ とすることで $e^A$ を計算します.

対角化可能でない場合は、$2\times 2$ 行列の場合は、$P^{-1}AP$ により上の2つ目の行列と形になります.サイズが3以上の場合も同じようにやればよいのですが、少し面倒なのでここでは省略します.

ここでは、行列乗が計算できたとして、話を進めます.


$e^{tA}$ の微分

ここで、$e^{tA}$ を微分します.行列の微分とは、各成分の微分を意味します.
そうすると、

$$\frac{d}{dt}e^{tA}=\frac{d}{dt}\left(E+tA+\frac{t^2}{2!}A^2+\frac{t^3}{3!}A^3+\cdots\right)$$
$$=\left(A+\frac{t}{1!}A^2+\frac{t^2}{2!}A^3+\cdots\right)$$
$$=A\left(E+tA+\frac{t^2}{2!}A^2+\cdots\right)=Ae^{tA}$$
となります.

この $e$ の行列乗を用いて、線形常微分方程式を解くことができます.
ここで、$e^{tA}$ は $A$ と可換であることに注意しておきます.

線形常微分方程式

微分方程式とは、微分演算が入った関数のある等式のことです.常微分方程式とは、一変数関数がもつ微分方程式のことです.その中でも線形ということは、
$$x^{(n)}(t)+a_1x^{(n-1)}(t)+\cdots+a_{n-1}x'(t)+a_nx(t)=0$$
となる方程式のことです.ここでの方程式とは、関数 $x(t)$ が変数としての役割であり、常微分方程式を解くということは、上記のような微分を用いた式を見たす関数 $x(t)$ を求めるということを意味します.

また、線形であるということは、解全体がベクトル空間をなすということです.
実際、$x(t),y(t)$ が上の方程式を満たすとすると、微分演算子の線形性
$$\frac{d^m(x(t)+y(t))}{dt^m}=\frac{d^mx(t)}{dt^m}+\frac{d^my(t)}{dt^m}$$
から、$x(t)+y(t)$ もその方程式を満たすことがわかると思います.

ベクトル空間であるためには、スカラー倍も定義されていないといけません.
$\lambda\in {\mathbb R}$ と解 $x(t)$ に対して $\lambda$ 倍された関数 $\lambda x(t)$ は再び、解になっていることがすぐにわかると思います.
よって解の空間はベクトル空間となるのです.

また、ここで、係数 $a_i$ は全て実数としておきます.一般の関数とすることもできますが、そのときは、微分方程式を解くのは少し難しくなります.そのとき方は解析の授業の方で習ってください.
ここでは、定数係数の線形常微分方程式のみ扱います.

今、
${\bf x}(t)={}^t(x(t),x'(t),\cdots,x^{(n-1)}(t))$ 置きます.そうすると
$${\bf x}'(t)=\begin{pmatrix}0&1&0&\cdots&0\\0&\ddots&1&0\cdots&0\\\cdots&\cdots&\ddots&\ddots&0\\0&\cdots&\cdots&0&1\\-a_n&-a_{n-1}&\cdots&\cdots&-a_1\end{pmatrix}{\bf x}(t)$$
と連立一階常微分方程式に帰着されます.
ここで、この $n\times n$ 行列を $A$ とおきます.

そのとき、$e^{-tA}$ と $A$ は可換なので、 $(e^{-tA}x(t))'=-e^{-tA}Ax(t)+e^{-tA}x'(t)=e^{-tA}(-Ax(t)+x'(t))=0$ となります.
よってこのベクトルは定数ベクトルとなり、それを $(c_1,\cdots,c_n)$ と置くと、
$$x(t)=e^{tA}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}$$
となります.よって、$\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}$ は $x(t)$ の初期ベクトルということになります.

これで、$x(t)$ が解けたことになります.あとは、$e^{tA}$ の計算が残されています.
この計算例については、去年のページに幾つか載せたのでそちらを参照して下さい.

去年のページ


2016年2月8日月曜日

トポロジー入門演習(第14回)

[場所1E103(月曜日4限)]

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位相空間の連結性のまとめはこちらに書きました.
以下、引用している定理番号はそちらのページのものです.

定義9(連結成分)
位相空間 $x\in X$ として、その連結成分 $C(x)$ は $x$ を含む最大の連結集合のこととする.

$x$ の連結成分 $C(x)$ は閉集合です.そのためにまずは、下の定理を証明します.

定理10
$A\subset X$ を連結集合とすると、$A\subset B\subset \text{Cl}(A)$ となる任意の集合 $B$ は連結である.

この定理の証明は以下のようにします.

(証明) $B=C\cup D$ なる $C,D$ を離れた集合とします.このとき、定理7から、$A\subset C$ もしくは、$A\subset D$ となります.ここで、$A\subset C$ が成り立つとします.閉包をとると、
$\text{Cl}(A)\subset \text{Cl}(C)$ となり、$C,D$ は離れた集合であることから、$\text{Cl}(A)\cap D=\emptyset$ となるので $D\cap \text{Cl}(A)=\emptyset $ となり、$D$ が空集合ではなければ仮定に反する.
よって、$B$ は定理7から連結となります.(証明終了)


よって次が分かります.

系10
連結成分 $C(x)$ は閉集合である.

各連結成分は閉集合にはなるが、一般に開集合にはなりません.そのすぐ分かる例は通常の距理位相おける ${\mathbb Q}\subset {\mathbb R}$ です.各 $r\in {\mathbb Q}$ の連結成分は $r$ 自身つまり、$C_{\mathbb Q}(r)=\{r\}$ であるが、$\{r\}$ は開集合にはなりません.

連結性において大事な定理が次です.

定理11
連結空間の連続像は連結である.

(注)連続像とは、連続な写像の像のことです.

(略証) $f:X\to Y$ を連続写像として、$U\subset f(X)$ を $f(X)$ においてclopenな集合とします.このとき、$f^{-1}(U)$ も $X$ でclopenであるので空集合か、$X$ に一致します.空集合であるとすると、もちろん $U$ も空集合になり、$f^{-1}(U)=X$ となるとすると、$f(X)=U$ となります.ゆえに、$f(X)$ は連結となります.(証明終了)

定義12(弧状連結)
位相空間 $X$ が弧状連結であるとは、任意の $p,q\in X$ に対して、$I=[0,1]$ からの連続写像 $\varphi:I\to X$ が存在して、$\varphi(0)=p$ かつ $\varphi(1)=q$ とできるときにいいます.

ここで、連結性と弧状連結性の間に次のような関係が成り立ちます.

定義13
弧状連結なら連結である.

(証明) $X$ を弧状連結な位相空間とします.$p,q\in X$ を任意の2点とします.このとき、$X$ は弧状連結なので、$p,q$ を含む区間 $I$ からの連続像が存在します.定理11からこの像は連結であり、$p,q$ を含むので、定理5から $X$ は連結となります.(証明終了)


この主張の逆は成り立ちません.トポロジストのサインカーブとして有名な例があります.教科書の例17.2.

定義14(局所連結)
位相空間 $X$ の任意の $x\in X$ と $x$ の任意の近傍 $x\in U\subset X$ に対してある連結な $x$ の近傍 $x\in V$ が存在して、$V\subset U$ となるとき、$X$ を局所連結という.

局所連結は、各点において、いくらでも小さい連結な近傍が存在することとを意味しており、この性質は連結な開集合からなる開基が存在することと同値です.

局所連結の定義を用いて次の定理を証明します.

定理15
次の(1) (2) は同値である.
(1) $X$ が局所連結である.
(2) $X$ の任意の開集合において、その開集合の各連結成分もまた開集合である.

(証明) (1) を仮定つまり、$(X,\mathcal{O})$ が局所連結であるとします.このとき、$G\in \mathcal{O}$ とします.このとき、$D$ を $G$ の中での連結成分とします.$x\in G$ のとき、$G$ は $x$ の近傍なので、ある連結近傍 $U(x)$ が存在して、$x\in U(x)\subset G$ となります.ここで、$D$ は $x$ を含む連結な集合の最大のものだから、$x\in U(x)\subset D$ となります.よって、これは $D\in \mathcal{O}$ であることを意味しています.

(2) を仮定します.このとき、$x\in X$ かつ $x\in U(x)$ をその任意の開近傍とします.このとき、$U(x)$ の連結成分を $D$ つまり、$C_{U(x)}(x)=D$ とします.このとき、条件から、$D\in \mathcal{O}$ となるので、$x\in D\subset U(x)$ となる連結な近傍が存在するので、$X$ は局所連結である.(証明終了)


事実として、局所連結であるからといって連結は成り立ちませんし、連結であるからといって局所連結とも限りません.

トポロジストのサインカーブは局所連結ではないが、連結となる例です.

最後に、証明はしませんが、以下の定理を出しておきます.

定理16(Hahn-Mazurkiewiczの定理)
$X$ を距離空間とする.このとき、以下は同値である.
(1) $I=[0,1]\to X$ なる連続な全射が存在する.
(2) $X$ はコンパクト、連結、局所連結である.

この定理は少し奇妙なことを言っています.(1) から (2) はいろいろな定理を鑑みれば明らかですが、(2) から (1) は全く明らかではなく、本当にそうなのか疑ってしまいます.例えば、$I\to I\times I$ なる連続全射も存在することを主張しています.これを初めて発見したのはペアノ(1890)でした.行き先は $I\times I$ に限らず、 $I\times I\times I$ や $I\times I\times I\cdots I$ でも $I\times I\times I\cdots =I^{\mathbb N}$ でもかまいません.

このような、ある意味病的な例は、ペアノが最初に提出して、その当時の数学界を驚かせたといいます.

そのことに因んで、コンパクト、連結、局所連結な距離空間のことをペアノ連続体といいます.

一般に、コンパクト、連結な距離空間のことを連続体といい、現在でも盛んに研究されており、筑波大の加藤先生は連続体についての第一線の研究者の一人です.連続体に関して、まだまだ分からないことだらけで、研究するには豊富な分野ではないかと思います.、

2016年2月7日日曜日

微積分II演習(第15回)

[場所1E103(金曜日5限)]
今日は
  • 一様収束と、広義一様収束、項別微積分の定理と
  • $\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}$を示すこと
をやりました.

一様収束と広義一様収束

一様収束を定義します.

定義1(一様収束)
$I$ を区間とし、$I$ 上の関数列 $f_n(x)\ \ (n=1,2,\cdots)$ が $f(x)$ に一様収束するとは、任意の $\epsilon>0$ に対して、ある $N$ が存在して、$n>N$ なる任意の $n$ について、任意の $x\in I$ について $|f_n(x)-f(x)|\le \epsilon$ となる.

ポイントは任意の $\epsilon>0$ に対して、$x\in I$ によらずに、$N>0$ が存在して、主張がなりたつということです.

つまり、$|f_n(x)-f(x)|<M_n$ なる$x$ によらない $M_n$ が存在して、$M_n\to 0$ となるということです.このような評価ができれば一様収束といえます.

関数項級数 $\sum_{n=0}^\infty f_n(x)$ が一様収束するとは、関数列 $\sum_{k=0}^nf_k(x)$ が一様収束することを言います.
例えば、あるべき級数 $\sum_{k=0}^\infty a_nx^n$ が一様収束するかどうかを調べます.



$$\sum_{n=0}^\infty x^n$$
が$I=[-1/2,1/2]$ で一様収束することを証明します.$f_n(x)=\sum_{k=0}^nx^k$ となるような関数列を考えます.このとき、ここで、$I=[-1/2,1/2]$ でなくても、$0<r<1$ なる $[-r,r]$ であれば、成り立ちます.

(証明) $f_n(x)=\sum_{k=0}^n x^k$ とし、$|f_n(x)-f(x)|=|\sum_{k=n+1}^\infty x^k|= \frac{|x|^{n+1}}{|1-x|}\le  \frac{|x|^{n+1}}{1-|x|}\le \frac{(1/2)^{n+1}}{\frac{1}{2}}\le \left(\frac{1}{2}\right)^n=M_n $

となり、この最右辺は $x$ によらない定数で、$n\to \infty $ のとき、$M_n\to 0$ となります.


一様収束について次が成り立ちます.

定理2(連続関数の一様収束極限)
$I$ 上の連続関数の列 $f_n(x)\ \ (n=1,2,\cdots)$ が $f(x)$ に一様収束するとき、$f(x)$ は連続関数となる.

次に、一様収束を拡張した概念を定義します.

定義3(広義一様収束)
$I$ を区間とし、$I$ 上の関数列 $f_n(x)\ \ (n=1,2,\cdots)$ が $f(x)$ に広義一様収束するとは、$I$ の任意の有界閉集合において、一様収束することをいいます。  

定義からすぐ分かることは、$I$ が有界閉区間の場合は一様収束と同じ意味です.ですので、$I$ として、例えば、開区間などを考えると意味があります.



同じ例
$$\sum_{n=0}^\infty x^n$$
が $(-1,1)$  で広義一様収束することを示します.そのために、$(-1,1)$ の中の任煮の有界閉集合 $F\subset (-1,1)$ を考えます.このとき、$r=\max\{|x||x\in F\}$ とすると、 $r<1$ となります.よって、
$$F\subset [-r,r]\subset (-1,1)$$
が成り立ちます.
$F$ で一様収束を示すには、$[-r,r]$ での一様収束を示せれば十分です.
よって、$I=[-r,r]$ とすると、上の評価から、$|f_n(x)-f(x)|\le \frac{|x|^{n+1}}{1-|x|}\le\frac{r^{n+1}}{1-r}=M_n$
とすると、$M_n$ は $r$ にはよるが、$x\in [-r,r]$ にはよらない定数で、
$n\to \infty$ となるとき、$M_n\to 0$ となります.

よって、$f_n(x)$ は $F$ で一様収束します.
つまり、$f_n(x)$ は $(-1,1)$ で広義一様収束します.

このような定義がどのような意味があるかというと、次の定理が成り立ちます.

定理4(項別微積分定理)
$f_n(x)$ が $I$ で $f(x)$ に広義一様収束するとする.このとき、
$$\frac{d}{dx}\lim_{n\to \infty}f_n(x)=\lim_{n\to \infty}\frac{d}{dx}f_n(x)$$
$$\int_a^x\lim_{n\to \infty}f_n(t)dt=\lim_{n\to \infty}\int_a^xf_n(t)dt$$
が成り立つ.

 特に、収束半径内 ($|z-a|<R$ ) でのべき級数 $\sum_{n=0}^\infty a_n(z-a)^n$ は広義一様収束しますので、項別微積分定理
$$\frac{d}{dx}\sum_{n=0}^\infty a_nx^n=\sum_{n=0}^\infty na_nx^{n-1}$$
$$\int_{0}^x\sum_{n=0}^\infty a_nt^ndt=\sum_{n=0}^\infty a_n\int_{0}^x\frac{t^{n+1}}{n+1}dt$$
が成り立ち、収束半径は微積分した後も同じです.

よって、収束半径内において、$\sum_{n=0}^\infty a_nx^n$ は $C^\infty$ 級関数ということになります.

この知識と今までの微積分を用いて、、
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}$$
 を示します.

(1) $\int_{0}^1\frac{\text{Arcsin}(x)}{\sqrt{1-x^2}}dx$ を求めます.
$(\text{Arcsin}(x))'=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$ であるので、$t=\text{Arcsin}(x)$ とおくと、この積分は $\int_0^{\pi/2}tdt=\frac{\pi^2}{8}$ となります.

(2) $\text{Arcsin}(x)$ のべき級数展開(テイラー展開)を求めます.
$(\text{Arcsin}(x))'=(1-x^2)^{-\frac{1}{2}}$ です.
ここで、2項定理により、
$$(1+x)^\alpha=\sum_{n=0}^\infty\binom{\alpha}{n}x^n$$
となります.ここで、$\binom{\alpha}{n}$ は2項係数で、$\frac{\alpha(\alpha-1)(\alpha-2)\cdots(\alpha-n-1)}{n!}$ です.

よって、$\binom{-\frac{1}{2}}{n}=\frac{(-\frac{1}{2})(-\frac{3}{2})\cdots (-\frac{1}{2}-n+1)}{n!}=(-1)^n\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}$

となります.
$(\text{Arcsin}(x))'=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}=\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}x^{2n}$ となるので、この式に、微分と極限の交換を考えます.積分して、
$\text{Arcsin}(x)=\int_0^x(\text{Arcsin}(t))'dt=\int_0^x\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}t^{2n}dt$ として、
この積分記号が$\sum_{n=0}^\infty$ の中に入るためには、$\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}t^{2n}$ が $(-1,1)$ で広義一様収束していればよいことになります.
そのためには、$[-r,r]$ 上で一様収束することを示せば十分なので、
確かめてみると、$|\sum_{k=n+1}^\infty \frac{(2k-1)!!}{(2k)!!}t^{2k}|\le\sum_{k=n+1}^\infty|\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}||t|^{2k}\le \sum_{k=n+1}^\infty |t|^{2k}\le \frac{r^{2(n+1)}}{1-|r|}$
この右辺は、$t\in [-r,r]$ に関係なく、$0$ に収束します.

よって、この級数は $(-1,1)$ で広義一様収束するので、積分記号が 、$\sum$ の中に入ることで、
$$\text{Arcsin}(x)=\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{x^{2n+1}}{2n+1}$$
が成り立ちます.

(3) よって、$(-1,1)$ で連続関数 $\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$ を掛けても広義一様収束なので、
$$\sum_{n=0}^\infty  \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}\frac{x^{2n+1}}{\sqrt{1-x^2}}$$
は広義一様収束します.

(4) (3) から、この関数を積分をすると、
$$\int_0^1\frac{\text{Arcsin}(x)}{\sqrt{1-x^2}}dx=\int_{0}^1 \sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}\frac{x^{2n+1}}{\sqrt{1-x^2}}dx$$
$$=\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}\int_{0}^\infty \frac{x^{2n+1}}{\sqrt{1-x^2}}dx$$ となり、
$x^2=t$ とすると、$dt=2xdx$ かつ、$\Gamma(n+\frac{3}{2})=(n+\frac{1}{2})(n-\frac{1}{2})\cdots\frac{3}{2}\frac{1}{2}\Gamma(\frac{1}{2})$ を用いて、
$$\int_{0}^1 \frac{x^{2n+1}}{\sqrt{1-x^2}}dx=\frac{1}{2}\int_0^1t^n(1-t)^{-\frac{1}{2}}dt=\frac{1}{2}B\left(\frac{1}{2},n+1\right)=\frac{1}{2}\frac{\Gamma\left(\frac{1}{2}\right)\Gamma(n+1)}{\Gamma\left(n+\frac{3}{2}\right)}=\frac{1}{2}\frac{2^{n+1}n!}{(2n+1)!!}=\frac{(2n)!!}{(2n+1)!!}$$

 (5) (4) の結果を(3)に代入すると、(1) の積分は次のように計算されます.
$$\int_{0}^1\frac{\text{Arcsin}(x)}{\sqrt{1-x^2}}dx=\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}\frac{(2n)!!}{(2n+1)!!}$$
$$=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{(2n+1)^2}$$
一方 (1) から
$$\frac{\pi^2}{8}=\int_{0}^1\frac{\text{Arcsin}(x)}{\sqrt{1-t^2}}dt=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n+1)^2}$$
となります.求める級数の和を$S$ とおくと、
$$S=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}=\sum_{n=0}^\infty \frac{1}{(2n+1)^2}+\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{(2n)^2}=\frac{\pi^2}{8}+\frac{1}{4}\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{8}+\frac{S}{4}$$
より、
$$S=\frac{4}{3}\frac{\pi^2}{8}=\frac{\pi^2}{6}$$
となります。

トポロジー入門演習(第13回)

[場所1E103(月曜日4限)]

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今日は、連結性について少し解説しました。
ここで、まとめておきます.

連結な位相空間

集合 $X$ の部分集合 $U,V$ が互いに素とは、$U\cap V=\emptyset$ となることをいいます。
位相空間 $X$ の部分集合 $A\subset X$ が閉かつ開のとき、$A$ をclopen(クロオープン)といいます.

定義1(連結)
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ が連結とは、$X$ が空ではない互いに素な開集合の和として $X=U\cup V$ と書けないときをいう.

よって、位相空間 $X$ が非連結であるとは、互いに素な空でない開集合 $U,V$ を使って、
$X=U\cup V$ となることをいう.


この定義からわかるとおり、空間が連結であることを示すには、背理法を使うことが多いです.
また、連結は、次の、(2),(3)のどれを使っても同じことです.


定理2
位相空間 $(X,\mathcal{O}$ に対して次は同値。
(1) $X$ は連結である.
(2) $X$ が空ではない互いに素な閉集合の和として $X=U\cup V$ とかけない.
(3) $X$ のclopen な部分集合 $A$ は $A=\emptyset $もしくは $A=X$ となる.

(証明) (1) と (2) の同値性の証明は簡単で、$U,V$ としてその補集合同士をとればよいです.
(3) から (1)
$U,V\subset X$ を空ではない互いに素な開集合で $X=U\cup V$ となったとき、
$U$ は、clopenであるから、$U=\emptyset$ もしくは、$U=X$ となりますが、どちらにしても、$U,V$ が空でないことに反します.
(1) から (3)
$A\subset X$ をclopen な部分集合とします.
このとき、$X=A\cup (X-A)$ とすると、$A,X-A$ は互いに素な開集合なので、仮定から、$A,X-A$ は空集合でないといけません.(証明終了)


連結性をいうには、
$X$ が2つの空ではない互いに素な開集合(もしくは閉集合)の和になることを仮定して矛盾を導くか、
clopenな部分集合もってきて、それが空集合か全体集合になることを示す.

というのが一般的です.


ここでは ${\mathbb R}$ が連結であることを示しておきます.

定理3(${\mathbb R}$ の連結性)
${\mathbb R}$ は通常の距離空間としての位相により連結である.

(証明) ${\mathbb R}$ が連結でないとする.このとき、空ではない互いに素な閉集合 $A,B$ を使って${\mathbb R}=A\cup B$ とできるとする.空ではないので、$a\in A$ と $b\in B$ を選ぶ.
また、$a<b$ であると仮定しておく.もしそうではなければ、$A,B$ の役割をいれかえておけばよい.

$[a, b]\cap A$ とし、この集合の中の上限を $c$ とする.$[a, b]\cap A$ も再び閉集合なので、
$c\in \text{Cl}([a,b]\cap A)=[a,b]\cap A$ となり、$c\in A$ がいえる.
$A\cap B=\emptyset $ であることと、上限であることから、$(c,b]\subset B$ となる.
また、$B$ も閉集合なので、$c\in \text{Cl}((c,b])\subset \text{Cl}(B)=B$
よって、$c\in B$ となる.よって、$c\in A\cap B$ となるので、$A,B$ が互いに素であることに反する.(証明終了)


また、${\mathbb R}$ の連結部分集合
定理4
${\mathbb R}$ の連結部分集合は、一点集合か、区間である.

(証明) 連結部分集合 $A$ が1点集合でも区間でもないとすると、$x,y\in A$ であって、
$x<z<y$ で、$z\not\in A$ となるような $z$ が存在します.もしそうではないとすると、一点か区間です.このとき、$B=(-\infty,a)\cap A$ と $C=(a,\infty)\cap A$ とすると、部分空間 $A$ は、
空ではない互いに素な開集合 $B,C$ の和になります.よって連結であることに矛盾します.(証明終了)


またつぎのような性質もあります.

定理5
位相空間 $X$ が連結であるための必要十分条件は、任意の2点 $p,q\in X$ に対して、その2点を含む連結集合 $A$ が存在することである.

(証明) 必要性は、$A=X$ としてとれば明らかです.
十分性について.$X$ が連結でないとします.このとき、空ではない互いに素な開集合 $U,V$ が存在して $X=U\cup V$ となったとします.このとき、 $p\in U,q\in V$ をとります.この $p,q$ に対してこの2点を含む連結集合を $A$ とします.このとき、$B=A\cap U$, $C=A\cap V$ とすると、$B,C$ は $A$ が連結開集合であることに反することになります.(証明終了)

教科書では、背理法を用いずに証明されていますね.(系16.9)

互いに素な集合 $B,C$ のうち、次のような概念を定義します.

定義6
$B,C$ が$\text{Cl}(B)\cap C=\emptyset$ かつ $B\cap \text{Cl}(C)=\emptyset $ を満たすとき、$B,C$ は離れた集合という.

つまり、お互い、点列を取っても近づけないという関係です.互いに素だからと言って離れた集合とは限りません.$(0,1),[1,2]$ は互いに素ですが、離れてはいません.互いに素な開集合は離れた集合です.

このとき、次がなりたちます  

定理7
位相空間 $X$ の部分集合 $A$  に対して、次が同値である.
(1) $A$ は連結
(2) $A=B\cup C$ となる任意の離れた集合 $B,C$ は $B=\emptyset $ もしくは $C=\emptyset$ である.
(3) $G,H$ を $A\subset G\cup H$ なる任意の離れた集合とする.このとき、$A\subset G$ もしくは $A\subset H$ となる.

 証明は、省略します.教科書の定理16.6です.
少し長くなったので続きはまた書きます.

2016年2月5日金曜日

トポロジー入門演習(第12回)(ヒント集7)

[場所1E103(月曜日4限)]

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第11,12回の問題のヒント集

問題109
$f:X\to Y$ が連続で、$A\subset X$ ならば、$f$ を $A$ に制限した写像 $f_{A}:A\to Y$ も連続であることを示せ.

(略解答)
$f_A$ が連続であることを示すには、$U\subset Y$ に対して $f^{-1}_A(U)=f^{-1}(U)\cap A$ であることを示せ.

問題110
$f:X\to Y$が連続ならば、$g:X\to f(X)$を$X\ni x$に対し$g(x)=f(x)$により定めるとき、$g$は連続である.
また、$f=j\circ g$であり、ただし、$j:f(X)\to Y$は包含写像である.

(略解答)
$g$ が連続であることを示す.$f(X)\subset Y$ の開集合は、部分空間としての開集合である.
$U\subset f(X)$ を開集合とすると、$V\cap f(X)=U $ となる開集合 $V$ が存在し、$f^{-1}(V)=g^{-1}(U)$ である.

問題112
$f,g$ を位相空間 $X$ 上の連続関数、$D$を$X$において稠密な集合とする.
$D$ の各点において $f(x)=g(x)$ が成り立つならば、$X$ のすべての点に対して $f(x)=g(x)$ が成り立つことを示せ.

(略解答)
$y\in X$ で、$f(y)\neq g(y)$ となるとする.$|f(y)-g(y)|=\epsilon$ とする.
$f,g$ が連続であるので、任意の $x\in N$ に対して $|f(x)-f(y)|\le \epsilon/3$ かつ $|g(y)-g(x)|\le \epsilon/3$ となるような $y$ の近傍 $N$ が存在する.
$z\in N\cap D$ とする.
$$|f(y)-g(y)|= |f(z)-f(y)-(g(z)-g(y))|$$
$$\le |f(z)-f(y)|+|g(z)-g(y)|\le 2\epsilon/3$$


問題115
3次元ユークリッド空間${\mathbb R}^3$において、
$S^2=\{(x_1,x_2,x_3)\in {\mathbb R}^3|x_1^2+x_2^2+x_3^2=1\}$
とする.写像$f:{\mathbb R}^3-\{x_3=1\}\to {\mathbb R}^2$
を$f(x_1,x_2,x_3)=\left(\frac{x_1}{1-x_3},\frac{x_2}{1-x_3}\right)$とする.
この写像によって、${\mathbb R}^3$のどの部分が平面と同相になったか?
説明せよ.

(略解答)
長さが1の球面から一点を抜いたもの.

問題116
$\text{card}(C({\mathbb R}))=\frak{c}$であることを示せ.

(ヒント)
$C({\mathbb R})$ に定数関数が存在するので、
${\frak c}\le \text{card}(C({\mathbb R}))$ となる.
また、実数上の連続関数は ${\mathbb Q}$ からの連続関数によって一意に定まるから、
$\text{card}(C({\mathbb R}))\le \text{card}({\mathbb R}^{\mathbb Q})$ となる.
この右辺は連続濃度であることを示す.基数の指数法則を使え.

問題119
$X$ を位相空間とする.
関数 $f:X\to {\mathbb R}$ が連続であるための必要十分条件は任意の $c\in {\mathbb R}$ において $\{x\in X|f(x)<c\}$ と $\{x\in X|f(x)>c\}$ がどちらも開集合であることであることを示せ.

(ヒント)
必要性は明らか.十分性は、${\mathbb R}$ 上の開集合は、開区間を開基とするので、
開基の逆像が開集合であればよい.

2016年2月3日水曜日

トポロジー入門演習(第11回)(ヒント集6)

[場所1E103(月曜日4限)]

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第9,10回で残っている問題

問題93
開写像ではない連続写像をあげよ.

(ヒント)
${\mathbb R}\to {\mathbb R}$ への関数で、$\mathbb{R}$ のある開集合が像において、その内部の点において折り返すようなものでよい.$y=x^2$ などでよい.

問題94
開写像だが、連続でない例をあげよ.

(ヒント)
位相が細かくなる方向に恒等写像を作ればよい.

問題95
$f:{\mathbb R}\to {\mathbb R}$ を連続関数とする.
このとき、この $f$ のグラフ $\Gamma:=\{(x,f(x))\in {\mathbb R}^2|x\in{\mathbb R}\}$
は $F:{\mathbb R}\to \Gamma$ からの埋め込み写像が構成できることを示せ.

(ヒント)
積空間への連続写像を作るには、その写像と、それぞれの成分への射影の合成が連続であればよい.

問題96
$\{0,1\}^{\mathbb N}$ は非可算集合であることを示せ.

(略解答)
$(a_n)\in \{0,1\}^{\mathbb N}$ から $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_n}{2^n}$ として $[0,1]$ の実数に対応をつけることで、非可算集合に全射を作ることができる.

問題100
無限集合上の有限補集合位相において、任意の無限部分集合の閉包は全体と一致することを示せ.

(略解答)
有限補集合位相の閉集合は有限点集合か、全体集合である.
無限部分集合 $X$ を包むような閉集合は全体集合しかありえない.

問題101
可算無限集合上の有限補集合位相は、第一可算であることを示せ.

(略解答)
任意の $x\in X$ に対して $x\in U_n$ なる開集合の族 $\{U_n\}$ で $U_{n-1}$ に対して、ある $y\in U_{n-1}$ に対して、 $U_n=U_{n-1}\setminus y$ として帰納的に定義する.
このとき、$\{U_n\}$ は近傍基であることを示す.

問題102
非可算無限集合上の有限補集合位相は、第一可算ではないことを示せ.

(ヒント)
$x\in X$ において、$\mathcal{U}(x)$ が可算集合となる近傍基とする.
$\cap_{B\in \mathcal{U}(x)}B=\{x\}$ となります.
$X-\{x\}=X-\cap_{B\in \mathcal{U}(x)}B=\cup_{B\in \mathcal{U}(x)}(X\setminus B)$
より矛盾がいえる.

問題103
$X$ は $A$ の内部、外部、境界の直和となることを示せ.
(ヒント)
$A$ の内部、外部、境界の条件から直ちに分かる.

問題105
$A,B$ を $X$ の部分集合とするとき、次のことが成り立つことを示せ.
(1) $\text{Int}(A)\subset A$
(2) $\text{Int}(\text{Int}(A))=\text{Int}(A)$
(3) $\text{Int}(A\cap B)=\text{Int}(A)\cap\text{Int}(B)$
(4) $\text{Int}(X)=X$
(5) $A\subset B$ ならば、$\text{Int}(A)\subset\text{Int}(B)$
(ヒント)
(1) 集合 $A$ に含まれる開集合の最大であることからあきらか.
(2) $\text{Int}(A)$ は開集合であり、$\text{Int}(A)$ に含まれる最大の開集合は $\text{Int}(A)$ そのものである.
(4) $X$ は開集合であるから、明らか.
(5) $x\in \text{Int}(A)$ ならば、$x\in U\subset A\subset B$ となる $U$ が存在するので、主張は明らか.

2016年2月1日月曜日

微積分II演習(第14回)後半

[場所1E103(金曜日5限)]

つづきです.
前半はこちら(←リンク)です.

べき級数、収束半径

べき級数とは、
$$\sum_{n=0}^\infty a_nz^n$$
なる級数のことで、$a_n$ に対してべき関数 $z^n$ が各項についています.
$z=1$ とすることで、級数 $\sum_{n=0}^\infty a_n$ も得られます.
また、これはある関数 $f(z)$ のテイラー展開とみなすこともできます.
例えば、$a_n=\frac{1}{n!}$ とすれば、この級数は $e^z$ と一致します.

($z^n$ の部分を他のものに変えたものも存在します.例えば $z^n$ の代わりに $n^{-z}$ としたものはディリクレ級数といい、数論の世界よく使います.(それに関してはこちらをみよ.))


話を元に戻します、

ここで、重要な概念として、収束半径というものがあります.
$\sum_{n=1}^\infty a_nz^n$ の収束半径が $R$ とは、$|z|<R$ となる任意の $z$ に対して、
この級数 $\sum_{n=1}^\infty a_nz^n$ が絶対収束するような最大の $R$ のことを言います.

例えば、$\sum_{n=0}^{\infty}z^n$ は、$|z|<1$ となる任意の $z$ において、
$\sum_{n=1}^{\infty }|z|^n=\frac{1}{1-|z|}$ が成り立ち、右辺は有界ですので、そのような $z$ において、$\sum_{n=1}^{\infty }z^n$ は絶対収束します.

$1$ が最大であることを言うには、丁度 $|z|=1$ のときに、発散することを言えばよく、
実際、 $z=1$ を入れてみれば、
$\sum_{n=1}^\infty 1=\infty $ となり、確かに収束しません.

よって、べき級数 $\sum_{n=0}^\infty z^n$ は収束半径が $1$ をもつということになります.

また、収束半径については、以下のような公式が知られています.

定理[コーシー・アダマール]
$\sum_{n=1}^\infty a_nz^n$ の収束半径 $R$ は、
$$\frac{1}{R}=\limsup_{n\to \infty }\sqrt[n]{|a_n|}$$
です.ここで、$\limsup$ の意味は、数列が収束しなくても、その収束値のうち最大(上限)をとればよいということです.
実際、$\sqrt[n]{|a_n|}$ が収束するなら、その収束値そのものが $1/R$ となります.

また、次のような定理が知られています.

定理
$a_n\neq 0$ のとき、$\lim_{n\to \infty}|\frac{a_{n+1}}{a_n}|$ が収束するなら、$1/R=\lim_{n\to \infty}|\frac{a_{n+1}}{a_n}|$ となる.

この定理を用いれば、例えば、$\sum_{n=0}^\infty z^n$ は、すぐに収束半径が $1$ となります.
また、$\sum_{n=0}^\infty \frac{z^n}{n!}$ とすると、$\lim_{n\to \infty }\frac{1}{n}=0$ となるので、収束半径は $\infty$ ということになります.


提出14-2について、$f(z)=1/(1-z)$ の $z=a$ での展開をすると、
$f^{(n)}(z)=\frac{n!}{(1-z)^{n+1}}$ となりますので、
$f^{(n)}(a)=\frac{n!}{(1-a)^{n+1}}$ となります.

よって、$f(z)=\sum_{n=0}^\infty \frac{(z-a)^n}{(1-a)^{n+1}}$ と展開される.

ここで、収束半径は、$\sqrt[n]{|\frac{1}{(1-a)^{n+1}}|}=\frac{1}{|1-a|^{\frac{n+1}{n}}}\to \frac{1}{|1-a|}$ となります.

よって、コーシーアダマールの定理により、収束がいえたので、
$|1-a|$ が収束半径となります.つまり、半径の中心と 1 までの距離ということになります.

よって、$f(z)=\frac{1}{1-z}$ の関数のうち、無限大に発散するのは、$z=1$ のみであり、べき級数を展開する点 $a$ からその $1$ までの間なら、級数展開をしてやれば、必ずその間で収束するということが分かることになるのです.

つまり、展開する点から収束半径丁度のところには、このべき級数が関数として発散する点が必ずあることになるのです.

だから、収束半径が $\infty$ の$\sum_{n=0}^\infty \frac{z^n}{n!}$ などは、発散する点が無限大となり、有限の値では関数が発散しないことになります.


宿題-14-2(2) についても上のダランベールの方法を使うことで、収束半径が分かると思います.