2017年12月19日火曜日

トポロジー入門演習(第10回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今日は、スライドによる解説はしませんでしたが、

  • 無限積位相空間
  • 分離公理

についてのプリントを配りました。
講義の方は、来週は休講なので、分離公理の講義は来年になるようですね。
ここで、開基、準開基などをおさらいして、無限積位相空間について書いておきます。
さらに、最後に、$T_2$-空間について定義と例をあげました。

開基
$\mathcal{B}$ が開基であるというのは、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の位相 $\mathcal{O}$ の部分集合で、以下のように、位相を形作るものです。

もしこの辺りのことに自信がなければ、以下のことをじっくり考えてみてください。

定義
開基とは、任意の開集合 $U$ が $\mathcal{B}$ の元のいくつかの和集合として作ることが
できるものをいいます。つまり、

$\mathcal{B}$ とは、$\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ であり、
$\forall U\in \mathcal{O}$ に対して、$\mathcal{B}’\subset \mathcal{B}$ が存在して、
$U=\underset{A\in \mathcal{B}’}{\cup}A$
となるものをいいます。


つまり、開基の元を寄せ集めれば、すべての開集合を作ることができるような
ものであるので、開基とは、位相の基本的なパーツというわけです。

この開基の条件を言い換えると、以下のようになります。

(条件)
$\forall x\in U$ に対して、ある $A\in \mathcal{B}$ が存在して、
$x\in A\subset U$ となるものが存在すること。

です。

もし、この条件が満たされれば、$x\in U$ に対して、$A_x$ となる開基 $A_x\in \mathcal{B}$ が存在することになります。
よって、$U=\underset{x\in U}{\cup}A_x$ となるので、集合 $\mathcal{B}$ が開基であることが
わかります。

また、$\mathcal{B}$ が開基であるとすると、
$U=\underset{A\in \mathcal{B}’}\cup A$ があり、$\forall x\in U$ に対して、
$x\in A$ となる $A\in \mathcal{B}’\subset \mathcal{B}$ が存在することになります。

$(X,\mathcal{O}_d)$ を距離位相空間とします。
このとき、この距離位相空間の開基 $\mathcal{B}_d$ は、$\{B_d(x,\epsilon)|x\in X,\epsilon\in {\mathbb R}_{>0}\}$ としてえられます。 
${\mathbb R}_{>0}$ は、正の実数の集合を表します。


次に準開基を説明します。
開基が位相の部分集合で、その和集合ですべての開集合が作られたように、
準開基とは、すべての開基がそのいくつかの共通集合をとることで得られるもの
をいいます。

つまり、$\mathcal{B}$ を開基とすると、$\forall A\in \mathcal{B}$ に対して 
$C_1\cdots, C_n\in S$ が存在して、$A=C_1\cap C_2\cap\cdots \cap C_n$ とできるようなもの、
つまり、有限個 $S$ の元を取ってこれば、すべての開基の元を共通部分として
書くことができるような $S$ を準開基といいます。

この $n$ は、$A$ に依存したで、自然数もしくは $0$ です。
$n=0$ の場合は、一つも開集合を取らないのだから、空間全体 $X$ のことです。
しかし、空間全体 $X$ は開基の元として入れておく必要はないかもしれません。

通常、$\underset{A\in\mathcal{B}}\cup A=X$ であるなら、開集合 $X$ は他の開集合から
作れるので、開基に $X$ を入れておく必要はないからです。

でも、ある1点を含む開集合が、全体集合しかないというような場合には、
開基として、全体集合を入れておく必要があります。
ですので、上の $n$ は自然数もしくは、$0$ となります。


$X\times Y$ を積位相空間とします。
$X\times Y$ の位相空間の開基は、
$\mathcal{B}=\{U\times V|U\in \mathcal{O}_X,V\in\mathcal{O}_Y\}$ として得られます。

ここで、$S=\{U\times Y|U\in \mathcal{O}_X\}\cup \{X\times V|V\in\mathcal{O}_Y\}$ と定義すると、$S\subset \mathcal{B}$ であり、
$\mathcal{B}$ の任意の元 $U\times V$ は、この $S$ の中の元の開集合の共通集合として得られることがわかります。

この集合は、$p_X,p_Y$ を $X\times Y$ の $X,Y$ への射影とするとき、
$S=\{p^{-1}_X(U)|U\in \mathcal{O}_X\}\cup \{p^{-1}_Y(V)|V\in \mathcal{O}_Y\}$
と書き表すことができます。

このように位相をいれることで、積空間は、自然な射影 $p_X,p_Y$ が連続になる
最小の位相になります。

また、一般に、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ が準開基 $S$ によってえられるとき、
この位相空間は、$S$ によって生成されるといいます。

無限積空間
無限積空間とは、添字づけられた集合族 $\{X_\lambda|\lambda\in \Lambda\}$ が与えられたとき、
積集合 $\underset{\lambda\in \Lambda}{\prod}X_\lambda$ に入る位相構造のことを言います。

準開基を定めることによって、無限積空間を定めます。
$X_\lambda$ の位相を $\mathcal{O}_\lambda$ とします。
積集合に準開基を定める方法は様々ありますが、もっとも使われるのは、
$\{p_\lambda^{-1}(U)|U\in \mathcal{O}_\lambda,\lambda\in \Lambda\}$ を準開基とする方法です。
これも積位相といいます。
$p_\lambda$ は射影 $p_\lambda:\underset{\lambda\in \Lambda}{\prod}X_\lambda\to X_\lambda$ のことであり、 積位相というのは、各 $p_\lambda$ が連続になるための最小の位相ということになります。
また、他に、$\{\underset{\lambda\in \Lambda}{\prod}U_\lambda|U_\lambda\in \mathcal{O}_\lambda,\lambda\in\Lambda\}$
を開基とするような位相も入れることができますが、一般に、この位相は積位相空間とは
異なる位相になります。この積位相は箱型積位相といいます。

積位相の開集合には、有限個の $\lambda\in \Lambda$ 以外は、自然な射影で、
$X_\lambda$ となります。
しかし、箱型積位相の場合には、無限個の $\lambda\in \Lambda$ において、射影の結果、$X_\lambda$ とならないものも存在します。

分離公理
分離公理は、位相空間の特徴において重要な性質の一つです。
いくつかのヴァリエーションがありますが、ここでは、ハウスドルフと言われる
$T_2$-空間について紹介して終わります。

$T_2$-空間(ハウスドルフ空間)
位相空間 $X$ が $T_2$-公理を満たすとは、任意の $p,q\in X$ において、
$p\neq q$ ならば、ある互いに素な開集合 $U,V$ が存在して、$p\in U$ かつ、$q\in V$
が成り立つ。

つまり、任意の相異なる2点は、開集合によって分離することができるということです。
互いに素とは、$U\cap V=\emptyset$ ということでした。

いつも出てくる例は距離空間のものばかりですが、ここでもそうです。
$(X,\mathcal{O}_d)$ を距離位相空間とすると、この位相空間は $T_2$-空間になる。
(証明) $p,q\in X$ とする。このとき、$\delta=d(p,q)/2$ とし、$U=B_d(p,\delta),V=B_d(q,\delta)$ とすると、$p\in U,q\in V$ かつ、$U\cap V=\emptyset$ となります。
最後の主張は、$x\in U\cap V$ とすると、$d(p,q)\le d(p,x)+d(q,x)<2\delta<d(p,q)$となり矛盾する。
ゆえに、$X$ は $T_2$-空間である。(終)

距離空間ならば、どんな2点も開集合によって分離することができました。

2017年12月18日月曜日

トポロジー入門演習(第9回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は、小テストを行い、以前やり残していた

  • 同相
  • 第一可算公理
  • 第二可算公理
  • 可分
  • 積空間
についての演習を配りました。

小テストの講評は次回行います。


同相
位相空間 $(X_1,\mathcal{O}_1)$と $(X_2,\mathcal{O}_2)$ が同相であるということは、
ある連続な全単射 $f: X_1\to X_2$ が存在し、さらに、逆写像
$f^{-1}:X_2\to X_1$ も連続であることを言います。

これによって、$U_1\in \mathcal{O}_1$ に対して、$(f^{-1})^{-1}(U_1)=f(U_1)$ は
連続であるから、$f(U_1)\in \mathcal{O}_2$ です。

つまり、この場合、$f^{-1}$ が連続であるとは、$f$ が開写像であることと同値に
なります。

つまり、同相写像とは、連続全単射な開写像のこととしても同じです。
また、$f:(X_1,\mathcal{O}_1)\to (X_2,\mathcal{O}_2)$ が連続であることは、
全単射写像 $f:X_1\to X_2$ によって、$\mathcal{O}_1,\mathcal{O}_2$ の
間に
$\forall U\in \mathcal{O}_1\Rightarrow f(U)\in \mathcal{O}_2$
$\forall V\in \mathcal{O}_2\Rightarrow f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_1$
によって定義される一対一対応 $\mathcal{O}_1\to \mathcal{O}_2$
が存在するといっても同じことです。


$f:X\to Y$ を商写像とします。
商写像とは、$f$ が全射かつ
$U\in \mathcal{O}_Y\Leftrightarrow f^{-1}(U)\in\mathcal{O}_X$
を満たす写像のことでした。

このとき、$X$ 上に $x\sim y\Leftrightarrow f(x)=f(y)$ として同値関係を入れることが
できます。このとき、商写像からの写像 $g:X/\!\sim\, \to Y$ として、
$g([x])=f(x)$ が定義することができます。
この写像は、$[x]$ の代表元 $x$ に依存した形で表されていますが、
代表元の取り方にはよりません。
つまり、$g$ は、同値類だけで定義されるということがわかります。
また、$g$ の定義の仕方から、$g$ は全単射であることもわかります。

つまり、$f$ は $X\overset{\text{pr}}{\to} X/\!\sim\overset{g}{\to}\, Y$ として
$f=g\circ \text{pr}$ と分解されます。ここで、$\text{pr}$ は、$x\mapsto [x]$ として、$x$ を含む
同値類集合に値を取る、自然な射影となります。

今、$X/\!\sim$ に、$\text{pr}$ を商写像として、商位相 $\mathcal{O}(\text{pr})$ を
$U\in \mathcal{O}(\text{pr})\Leftrightarrow\text{pr}^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$
として定義しておきます。

いま、$U\in \mathcal{O}(\text{pr})$ に対して、
$\text{pr}^{-1}(U)=f^{-1}(g(U))$ であり、$f$ は商写像であったので、定義から、
$g(U)\in \mathcal{O}_Y$ が成り立ちます。よって、
$g:(X/\!\sim,\mathcal{O}(\text{pr}))\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ 
開写像となります。
また、
$\forall V\in \mathcal{O}_Y$ に対して、
$\text{pr}^{-1}(g^{-1}(V))=f^{-1}(V)$
となり、$f$ は商写像で、連続なので、$f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$
となります。
ゆえに、$\mathcal{O}(\text{pr})$ の定義から、$g^{-1}(V)$ は $g^{-1}(V)\in\mathcal{O}(\text{pr})$ よって、
$g:(X/\!\sim,\mathcal{O}(\text{pr}))\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ 
連続となります。
よって、$g$ は連続全単射な開写像であるから、$g$ は同相写像となります。

つまり、商写像 $f:X\to Y$ は、$Y$ に $f$ によって構成してできる商空間
と同相になるということがわかります。

第一可算公理
第一可算公理とは、 位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の任意の点 $x\in X$ において、
$x$ の基本近傍基 $\mathcal{N}^\ast(x)$ として、高々可算個の集合がとれることを言います。
高々可算というのは、可算集合もしくは、有限集合ということです。
そのような空間は第一可算公理を満たすといいます。

可算ではない基本近傍系が取れたからといって、第一可算ではないとは言えません。
うまく取り替えれば、可算にできる可能性があるからです。

例えば、距離空間などは、$\forall x\in X$ に対して、
$\{B_d(x,\frac{1}{n})|n\in {\mathbb N}\}$ が基本近傍基を与え、
これは可算集合であるので、第一可算であることがすぐわかります。

離散空間なら、
$\forall x\in X$ に対して1点集合 $\{x\}$ を基本近傍基としてとれるので、有限集合なら
高々可算であるので、これも第一可算です。

また、有限位相空間も、開集合自体、有限個しかありませんから自明に
第一可算です。
ちなみに、授業中で、可算集合上の位相は第一可算とか
口走った気がしますが、可算集合であっても、第一可算を満たさないものが
存在するようです。構成の仕方はよく知りません。

第二可算公理
第二可算公理とは、 位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の開基として、高々可算個の
ものが取れるときを言います。
そのような位相空間を第二可算を満たすといいます。

例えば、${\mathbb R}^n$ 上のユークリッド距離位相などはこの空間です。

というのも、${\mathbb R}^n$ には、可算部分空間 ${\mathbb Q}$  があり、
この各点において、${\bf B}=\{B_d((r_1,\cdots,r_n),\frac{1}{m})|r_i\in {\mathbb Q},m\in {\mathbb N}\}$
なる部分集合を開基とすることでこの位相が構成できます。$r_i\in {\mathbb Q}$ です。

このような集合が可算集合であることは、すぐわかりますが、開基であることは、
少し証明する必要があります。
感じとしては、任意の ${\bf x}=(x_1,\cdots, x_n)\in {\mathbb R}^n$ に対して、
その近傍 $B_d({\bf x},r)$ にいくらでも近くに上のような近傍が存在することを示せば
すみます。つまり、$\{U\in {\bf B}|{\bf x}\in U\}$ がちょうど、
この位相空間の基本近傍基となります。

一般に、第二可算公理を満たせば、第一可算公理も満たします。


可分
可分とは、可算な稠密な部分集合が存在することを言います。
稠密とは、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の部分集合 $A$ が $\bar{A}=X$ となることを
言います。
例えば、${\mathbb R}^n$ は、稠密な可算部分集合 ${\mathbb Q}^n$ が存在するので、
${\mathbb R}^n$ は可分な空間となります。

一般に、第二可算公理を満たせば、可分です。

積位相空間
積位相空間とは、位相空間、$(X,\mathcal{O}_X)$ と $(Y,\mathcal{O}_Y)$ とするとき、
直積集合 $X\times Y$ に与えられる位相空間は、 $\{U\times V|U\in \mathcal{B}_X,V\in \mathcal{B}_Y\}$
を開基とする位相空間のこととして定義します。
ここで、$\mathcal{B}_X,\mathcal{B}_Y$ は、$\mathcal{O}_X,\mathcal{O}_Y$ の開基とします。

今、$X\times Y$ に積位相を入れておきます。
$p_X:X\times Y\to X$ や $p_Y:X\times Y\to Y$ を各成分への射影とします。
このとき、$U\in \mathcal{O}_X,V\in\mathcal{O}_Y$ に対して
$U\times Y= p_X^{-1}(U)$ や $X\times V=p_Y^{-1}(V)$ が
開集合なので、積位相空間は、$p_X,p_Y$ は連続となります。

逆に、このような開集合が入っているような位相空間は、$p_X,p_Y$ を連続にする
最小の位相ということになります。

2017年12月8日金曜日

トポロジー入門演習(第8回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今日は、

  • 誘導される位相
  • 相対位相
  • 商位相、商写像
  • 商空間
に関して演習を行いました。これは、来週の試験の範囲なので、
ここで少し書いておきます。


誘導される位相

写像 $f:X\to Y$ があるとします。 $Y$ には位相 $\mathcal{O}_Y$ が入っているとします。

このとき、 $X$ 上に"誘導される位相” が構成できます。
つまり、$f$ によって、$Y$ の位相を引き戻したものを $X$ の位相として
迎え入れるのです。数式を使って書けば、
$$U\in \mathcal{O}_f\Leftrightarrow U=f^{-1}(V), V\in \mathcal{O}_Y$$

となります。
つまり、$\{f^{-1}(V)|V\in \mathcal{O}_Y\}$ を $\mathcal{O}_f$ であるといっても
同じことです。
このように、$X$ に位相を入れると、$f$ は定義から連続になります。

誘導される位相は位相になります。
この証明は省略します。

相対位相
相対位相は、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の部分集合$A$に与えられる位相のことを言います。
$A$ は $X$ の部分集合であれば、どんなものでもよいです。

例えば、$X={\mathbb R}$ の場合、開区間や、閉区間、一点集合、有理数全体 ${\mathbb Q}$
でもよいです。

このとき、以下のような位相を $A$ に与えます。

$$\mathcal{O}|_A=\{A\cap U|U\in \mathcal{O}\}$$

そうすると、$(A,\mathcal{O}|_A)$ が位相であることが確かめられます。

(1) $U$ として $X$ の空集合 $\emptyset, X$ としてとることで、$A$ において、$\emptyset,A$ が $\mathcal{O}|_A$ に入ることが確かめられます。

(2) $\mathcal{O}|_A$ から有限個の元 $V_1,\cdots, V_n$ を選んだ時、定義から、
$V_i=A\cap U_i$ (ただし、$U_i\in \mathcal{O}$ とする)としてかけます。
よって、$\cap_{i=1}^nV_i=\cap_{i=1}^n(A\cap U_i)=A\cap(\cup_{i=1}^nU_i)$
であるが、$\cup_{i=1}^nU_i\in \mathcal{O}$ であるので、$\cap_{i=1}^nV_i\in \mathcal{O}|_A$ がいえます。

(3) $\mathcal{O}|_A$ から任意個の元 $\{V_\lambda\}\subset \mathcal{O}$ を選んだ時、定義から、
$V_\lambda=A\cap U_\lambda$ (ただし、$U_\lambda\in \mathcal{O}$ とする)としてかけます。
よって、$\cup_{\lambda\in\Lambda}V_\lambda=\cup_{\lambda\in\Lambda}(A\cap U_\lambda)=A\cap(\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda)$ 
であるが、$\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}$ であるので、$\cup_{\lambda\in \Lambda}V_\lambda\in \mathcal{O}|_A$ がいえます。

よって、$(A,\mathcal{O}|_A)$ が位相であることが確かめられました。             $\Box$

$(A,\mathcal{O}|_A)$ の中の開集合は、$(X,\mathcal{O})$ での開集合とはならない
場合があるので注意が必要です。

例えば、$X={\mathbb R}$ に通常の距離位相をいれておいて、
$A=[0,3]$ と閉区間とします。
このとき、$A$ に与えられる開集合は、$A\cap U$ の形です。
ただし、$U$ は ${\mathbb R}$ の開集合です。
たとえば、$U=(1,2)$ とすれば、$A\cap U=(1,2)$ であり、
$U=(2,4)$ とすれば、$A\cap U=(2,3]$ となります。
$3$ の近くでなんだか閉集合のようになっていますが、これで良いのです。
空間 $A$ が $X$ で開集合である必要性はありません。
(上に、どんな部分集合でもよいといいました)
なので、共通集合 $A\cap U$ をとると、$X$ においては、開集合に
ならないかもしれません。
空間 $A$ においての 3 のような点は空間の中の端の点というだけです。
その部分集合に入った感覚で捉えることが大切です。

商写像

$(X,\mathcal{O}_X),(Y,\mathcal{O}_Y)$ を位相空間とします。
商写像 $f:X\to Y$ とは、$f$ が全射であり、
$X,Y$ の位相 $\mathcal{O}_X,\mathcal{O}_Y$ とすると、
$$U\in \mathcal{O}_Y\Leftrightarrow f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$$
であることとして定義されます。

商空間
商写像、$f:X\to Y$ があるとすると、$Y$ の位相は、$\{U|f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X\}$ 
として定まります。このような$Y$ の位相を $f:X\to Y$ における商位相と言います。
また、商位相をもつ空間を商空間といいます。

一般に、全射 $f:X\to Y$ があるとすると、$Y$ は、$f$ による商集合と
見なせます。つまり、$\forall x_1,x_2\in X$ に対して、
$$x_1\sim x_2\Leftrightarrow f(x_1)=f(x_2)$$
という同値関係を $X$ に入れることで、$Y$ は商集合 $X/\!\sim$ と対等(全単射)と
なるのです。


商空間とは、商集合に入る一番自然な位相です。
どういうことかというと、$Y$ 上の商位相は、$f:X\to Y$ が連続となるような、
一番大きい位相を入れているからです。

ちなみに、
連続な開写像は商写像となります。

また、同じように、
連続な閉写像は商写像となります。

(証明)
$f:X\to Y$ が連続、開写像としますと、
示せばよいのは、
$$U\in \mathcal{O}_Y\Leftrightarrow f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$$
の同値関係ですが、
右向きは、$f$ の連続性を言っています。
左向きは、$f^{-1}(U)\in\mathcal{O}_X$とすると、$f(f^{-1}(U))=U$ であるから、
$f$ が開写像であることから、$U\in\mathcal{O}_X$ が成り立ち、成り立ちます。

よって、$f$ が連続開写像であれば、$f$ は商写像であることがわかります。
後半の連続閉写像の命題は省略します。             $\Box$


また、ここで、下を示しておきます。

$g:X\to Y, h:Y\to Z$ 、かつ$f=h\circ g$ であるとすると、
$g$ が商写像、$f$ が連続なら、$h$ は連続である。

(証明)
$X,Y,Z$ の位相を $\mathcal{O}_X,\mathcal{O}_Y,\mathcal{O}_Z$ とします。
$\forall U\in \mathcal{O}_Z$ とします。このとき、$f$ が連続なので、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$
が成り立ちます。$f^{-1}(U)=g^{-1}(h^{-1}(U))$ であり、$g$ が商写像であるから、
$h^{-1}(U)\in \mathcal{O}_Y$ を満たします。
よって、$h$ は連続となります。             $\Box$

2017年11月27日月曜日

トポロジー入門演習(第7回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今日は、
  • 開基について
についてのプリントを配りましたが、トポロジー入門の講義の方では、
まだやっていない部分だったようです。
私の勘違いにより、少し先取りして演習で取り上げてしまいました。
来週は一つ戻って、相対位相などについての演習をします。

とりあえず、ここでは、開基について書いておきます。

ベクトル空間には、基底の概念が重要でした。
位相にも開基とよばれる概念が重要となります。


線形代数では、

ベクトル空間基底とは、ベクトル空間の部分集合で、
ベクトル空間の任意のベクトルはいくつかの基底線形結合によって得られる。


位相分野では、

位相空間開基とは、位相の部分集合で、
位相の任意の開集合はいくつかの開基和集合によって得られる。


との類似があります。
(ただ、任意のベクトルは基底の線形結合によって一意的に書くことができますが、
任意の開集合は開基の和集合によって一意的に書けるわけではありません。)

つまり、開基とは位相空間の基底の役割を果たしています。

ここで、開基の定義をしておきます。

定義(開基)
$(X,\mathcal{O})$ を位相空間とする。
$\mathcal{B}\subset \mathcal{O}$ が開基であるとは、
$\forall U\in \mathcal{O}$ に対して、$\mathcal{S}_U\subset \mathcal{B}$ が存在して、
$U=\cup_{V\in \mathcal{S}_U}V$ となることをいう。


$\mathcal{B}$ が開基かどうかわかる判定条件として次があります。

$U\in \mathcal{O}$ に対して、$\forall x\in U$ に対して、
$V\in\mathcal{B}$ が存在して、$x\in V\subset U$ となること。

です。

例1
$(X,\mathcal{O}_d)$ を距離位相とします。
このとき、任意の開集合 $U\in \mathcal{O}$ に対して、
距離位相の定義から、$\epsilon>0$ が存在して、$x\in B_d(x,\epsilon)\subset U$ となります。
開基であることの判定条件から、これは、
$\{B_d(x,\epsilon)|x\in X,\epsilon>0\}$ が、$\mathcal{O}_d$ の開基である
ことを意味しています。


例2
$(X.\mathcal{O})$ を離散位相とします。
このとき、$\mathcal{B}=\{\{x\}|x\in X\}$ とすると、
これは、$\mathcal{O}$ の部分集合であり、
任意の $A\in \mathcal{O}=\mathcal{P}(X)$ とすると、
$A=\cup_{x\in A}\{x\}$ であるので、$\mathcal{B}$ も離散位相 $X$ の
開基となります。


このように、位相の部分集合で、その和集合を取れば、位相の全ての開集合を
復元することができるとき、その部分集合を開基と言います。

2017年11月14日火曜日

トポロジー入門演習(第6回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今日はテストをしてもらいました。
これから採点します。

今回は、近傍の定義について少し説明を加えました。

$(X,\mathcal{O})$ を位相空間とします。


近傍
$V\subset X$ が $x$ の近傍であるとは、$U\in \mathcal{O}$ が存在し $x\in U\subset V$ となることである。


つまり、以下が同値となります。(1) は上の定義を言葉で言い換えたもの。

(1) $x$ を含むような開集合が $V$ に包まれる。
(2) $x\in V^\circ$ である。
(3) $x$ が $V$ の内点である。

(証明)
(1) $\Rightarrow$ (2)
$x$ を含むような開集合 $A$ が $V$ に包まれているのだから、
$x\in A\subset V$ である。
また、$V^\circ$ は $V$ に包まれる開集合で最大のものだから、
$A\subset V^\circ$ であり、とくに、$x\in V^\circ$ である。

(2) $\Rightarrow$ (1)
$x\in V^\circ \subset V$ であり、$V^\circ$ が $V$ に包まれ、$x$ を
含む開集合である。

(2) $\Leftrightarrow$ (3)
$x$ が $V$ の内点であることは、$x\in V^\circ$ であることの定義。

位相 $\mathcal{O}$ 上の開集合と閉集合について
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の部分集合 $A$ が開集合であるための必要充分条件をまとめました。
下のどれもが $A$ が開集合であることと必要充分です。
  • $A\in \mathcal{O}$ である。
  • $A=A^\circ$  であること。
  • $\forall x\in A$ に対して、$\exists U\in \mathcal{O}$ があり、$x\in A\subset U$ が成り立つ。
  • $\forall x\in A$ に対して、$A\in \mathcal{N}(x)$  ($x$ の近傍) が成り立つ。
$\mathcal{O}$ が距離位相 $\mathcal{O}_d$ であるときには、
  • $\forall x\in A$ に対して、$\epsilon>0$ が存在して、$x\in B_d(x,\epsilon)\subset  U$ が成り立つ。
また、$B$ が閉集合であることは、
  • $B^c$ ($B$ の補集合) が開集合であること。
を使うことで、閉集合の条件を開集合の条件として言い換えることができます。
しかし、よく考えず、$B\not\in \mathcal{O}$ や $B^\circ \neq B$ ということは意味しません。


注意してください。

例えば、上の2番目の条件に相当する、$B$ が閉集合であるための条件は、

  • $\bar{B}=B$ であること


となります。

なので、$B$ が開集合でないからといって閉集合というわけではありません。
あくまで、閉集合は、補集合が開集合になっている集合をいいます。

つまり、位相空間の任意の部分集合は以下のように4つのパターンに分けられます。

開集合である 開集合でない
閉集合である A B
閉集合でない C D

上のA, B, C, D に当てはまる例として以下のものがあります。

A 空集合や全体集合
B ユークリッド距離空間の閉円盤
C ユークリッド距離空間の開円盤
D ${\mathbb R}$ 上の通常の距離位相としての半開区間 $(a,b]$

Dの例としては、$\{0,1\}$ 上の密着位相 $\{\emptyset, \{0,1\}\}$ における一点集合 $\{0\}$ もその例です。

2017年11月7日火曜日

トポロジー入門演習(第5回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は、連続性についての課題でしたが、4の課題を取り組んでもらいました。
課題4-2-4の共通部分と和集合が逆になっていました。

課題4-1
近傍について以下を示せ。
(1)   ${\mathbb R}$ 上の距離位相 $\mathcal{O}_d$ において、$\mathcal{N}(x)$ には
いくらでも直径が小さい近傍が存在することを示せ。
(2) $U$が $X$ の開集合であることと$\forall x\in U$ に対して、$U\in \mathcal{N}(x)$
であることは同値であることを示せ。

(1) 距離空間において部分集合 $A$ の直径は、$\text{diam}(A)=\sup\{d(x,y)|x,y\in A\}$ と定義されます。
この $\sup$ は存在すれば、$A$ は有界といい、そうでない場合は $\text{diam}(A)=\infty$ となります。

存在を示せば良いので、全ての近傍を考える必要はありません。
例えば、 $\epsilon$-近傍は、$B_d(x,\epsilon)$ です。この近傍の直径は $2\epsilon$ です。

また、いくらでも小さい....のような言葉を証明するには、
$\forall t>0$ に対して、$t$ より小さい直径の $\epsilon$-近傍を作ればよいことになります。

(2) 課題3-1-2 を思い出してください。
$A\in\mathcal{O}$ であることは、$\forall x\in A$ に対して、ある $U\in \mathcal{O}$ が存在して、$x\in U\subset A$ となることと同値。

でした。この後半の条件は、$U$ が $x$ の近傍になっていることを意味しています。

課題4-2
次の等式を示せ。
(1) $(A\cap B)^{\circ}=A^{\circ} \cap B^{\circ}$
(2) $\overline{A\cup B}=\overline{A}\cup \overline{B}$
また、以下が成り立たない例があるか?もしあれば、それが反例であることを示し、
そうでないなら証明を与えよ。
(3) $(A\cup B)^\circ=A^\circ \cup B^\circ$
(4) $\overline{(A\cap B)}=\overline{A} \cap \overline{B}$

集合の演算と 開集合をとる操作、閉集合をとる操作がどのような関係になるか?
という問題です。

(1,2) は成り立つので証明ができます。
証明の方針は、$\subset$ と $\supset$ を満たすことを示すことです。

$A$ の内点とは、$A$ の内部 $A^\circ$ の点のことです。
つまり内点は、$A$ に包まれる開集合全ての和集合なので、$x\in A^\circ$ なら、
${}^\exists U\subset A$ なる開集合 $U$ に対して $x\in U$ となります。
$x\in (A\cap B)^\cap$ なら、$x\in U\subset A\cap B$ となる開集合が存在する
ことになります。$A\cap B \subset A,B$ であるので、$x\in A^\circ$ かつ $x\in B^\circ$
となります。
逆の $\supset$ の方も示してください。

$A$ の触点とは、$A$ の閉包 $\bar{A}$ の点のことです。
つまり触点とは、$A$ を包む閉集合の共通集合なので、$x\in \bar{A}$ なら、
${}^\forall V\supset A$ なる閉集合 $V$ に対して、$x\in V$ となります。
これも上と同じように示すことができます。

(3,4)ですが、これらは一般に成り立ちません。
よく考えれば反例は思いつくと思います。
(この4は共通部分、和集合が逆になっていたので訂正して下さい。)


課題4-3
$B_d(x;\epsilon)=\{y|d(x,y)<\epsilon\}$を$x$での $\epsilon$-近傍という。
実数上の実数値関数 $f(x)$ の $x=a$ での連続性は、$\epsilon-\delta$ 論法によって
以下のような関係として定義されていた。
$\forall \epsilon,\exists\delta>0$($\forall x\in {\mathbb R}(|x-a|<\delta)\Rightarrow |f(x)-f(a)|<\epsilon$)
この命題を $\epsilon$-近傍と集合の記号 $\subset$ を用いてどのように書き換えよ。


例えば、$\forall x\in {\mathbb R}(|x-a|<\delta)$ であるような $x$ は、$x\in B_d(x;\epsilon)$ 
と言い換えられますね。
また、$U\subset V$ であることの定義は、$\forall x\in U\Rightarrow x\in V$ であること
なりますので、これを用いて、集合の言葉だけで連続性の定義を言い換えましょう。


最後は集積点・孤立点の問題です。
$x$ が $A$ の集積点とは、$x$ のいくらでも近くに、$x$ 以外の $A$ の点が
存在することをいいます。つまり、
$x$ の任意の近傍 $U$ で、$(U-x)\cap A\neq \emptyset $
$A$ の集積点の集合を $A^d$ とかいて、導集合と言います。

$x\in A$ が $A$ の孤立点とは、$x$ のある近くに、$x$ 以外の $A$ の点が
存在しないことをいいます。つまり
$x$ のある近傍 $U$ で、$(U-x)\cap A= \emptyset $

課題4-4
$(X,\mathcal{O})$を位相空間とする。$A\subset X$とする。
(1) $\bar{A}$は$A^d$と$A$の孤立点からなることを示せ。
(2) $X={\mathbb R}$とし、$\mathcal{O}$を通常のユークリッド距離位相とする。${\mathbb Q}$の閉包は${\mathbb R}$であることを示せ。
(3) 上の問題は、位相を変えると$\bar{{\mathbb Q}}={\mathbb Q}$ともなることを示せ。

(1) $x\in \bar{A}$ であることは、$\forall U$ で $x\in U$ に対して、
$U\cap A\neq \emptyset$ であるものを言います。
上の孤立点と集積点の定義からすぐわかると思います。

(2) $X$ が有理数全体とするとき、$X$ の閉包とは、$x\in U$ として $U\cap X\neq \emptyset$
となる点 $x$ 全体です。
$x$ が $X$ の閉包の元であることは、 $X$ を包む任意の閉集合 $F$ に $x$ が含まれる
ということです。

$F^c\neq \emptyset$ であると仮定します。
$F$ が閉集合であることから、$\forall y\in F^c$ に対して、$y$ の開近傍 $N$ が存在し、
$N\cap F^c=\emptyset$ となります。
${\mathbb R}$ の任意の開集合において、必ず有理数が存在することを示すことができれば、
$N\cap F^c=\emptyset$ に矛盾するので、$F^c=\emptyset$ となります。
つまり、$F={\mathbb R}$ となります。
ゆえに、$X$ を包む任意の閉集合は、 ${\mathbb R}$ となります。

上で不十分な部分を証明することで証明が完了します。

(3) ${\mathbb Q}$ の閉包が ${\mathbb Q}$ であるということは、${\mathbb Q}$ が
閉集合となるような位相を入れてください。
同じことですが、無理数全体の集合が開集合であるように定義して下さい。

2017年10月27日金曜日

トポロジー入門演習(第4回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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必要な配付プリントはHPで取ってください。
HP上の課題3のプリントは壊れていたようですが、直しました。

今日は、
説明4と課題4のプリントを配りましたが、
だんだんと課題が宿題プリントと化しているので、授業時間内に、多くの人と
相談しながら、感覚をつかんでいくということをして欲しいです。

課題3と説明4のプリントを中心にやったようでした。

課題3-1
以下の問題を解け。
(1) 部分集合族$\mathcal{C}$を以下のように定める。
・ $\emptyset,X\in \mathcal{C}$
・ $F_1,\cdots, F_n\in \mathcal{C}\Rightarrow F_1\cup \cdots \cup F_n\in \mathcal{C}$
・ $\{F_\lambda|\lambda\in \Lambda\}$とするとき、$\cap_{\lambda\in \Lambda}F_\lambda\in \mathcal{C}$である。

このとき、$\mathcal{O}=\{O\in \mathcal{P}|O^c\in \mathcal{C}\}$とすると、$\mathcal{O}$は$X$上の位相になることを示せ。

(2)  $(X,\mathcal{O})$を位相空間とする。以下の同値を示せ。
$A\in\mathcal{O}\Leftrightarrow \forall x\in A, \exists U\in \mathcal{O}\text{ s.t. }x\in U\subset A$

このような問題ですでに迷っている人が多いようです....
命題には、仮定があり、結論があります。

仮定を用いて、結論を導くのですが。問題は、結論が正しいことを示すことです。
そのとき、必要になれば、仮定を使いながら証明を進めることになります。

今回示して欲しいのは、$\mathcal{O}$ が位相であることをです。

そのためには、$\mathcal{O}$ が位相となるための3つの条件を一つ一つ示すことです。

(i) 空集合と全体集合が $\mathcal{O}$ に入ること。
(ii) 有限個の $\mathcal{O}$ の元に対して、その共通集合が再び $\mathcal{O}$ に入ること。
(iii) 任意個の $\mathcal{O}$ の元に対して、その和集合が再び $\mathcal{O}$ に入ること。

これらを問題の仮定を使って示してください。その際、集合論の最初の方で出てきた
ドモルガンの法則を使います。

課題3-2は1点集合の問題です。

課題3-2
以下の問題を解け。
(1)  $(X={\mathbb R}^2,\mathcal{O})$を通常の距離位相とすると、
任意の1点集合は閉集合であることを示せ。
(2) 上の問題1. を一般の距離空間から作られる位相空間の場合に示せ。
(3) $(X={\mathbb R}^2,\mathcal{O})$を通常の距離位相とすると、
任意の1点集合の内部、閉包、境界、外部が何か答えよ。
(4) $(X,\mathcal{O})$が一般の離散位相空間の場合、任意の1点集合の内部、閉包、境界、外部が何か答えよ。
(5) 1点集合が閉集合とならない位相空間があることを、例をもって示せ。


(1) ある部分集合が閉集合であることを示すには、補空間が開集合を示すことに
なります。これは閉集合の定義です。
距離位相における部分集合 $A$ が開集合であることを示す方法は、
$A$ の任意の一点 $x$ に対して、$x$ の $\epsilon$ 近傍で、$A$ に包まれるもの
が取れるときを言います。なので、平面 $X$ から1点 $p$ 除いた空間 $Y=X-\{p\}$
の任意の1点 $q$ に対して、$q$ の $\epsilon$-近傍で $Y$ の中に
$B_d(q,\epsilon)$ をおけるか?
という問題になります。つまり、
$B_d(q,\epsilon)\subset Y$ 
を示せばよいことになりますが、部分集合であることの必要充分条件はもうすでに
やっていますので、それを適用させることになります。

(2) は、(1) でやったことがわかっていれば、ほぼ、証明を真似すればできるはずです。
(3) 内部、閉包、境界、外部を思い出せ。
ちなみに、$A$ が開集合というのは、$A$ の内部と、$A$ が一致する集合
としても同値です。
同じように、$A$ が閉集合というのは、$S$ の閉包と、$A$ が一致する集合
としても同値です。

(4) 離散位相の場合、開集合、閉集合がどのような集合だったのか思い出してください。

(5) 授業中かなり頭をひねっていたようでしたが、もっと単純に考えればすぐに例が
思い出せるはずです。このような単純な質問は、トポロジー入門を終えるころには瞬時に
答えが出せるようになっているとよいですね。


課題3-3 は離散空間に関する問題でした。

課題3-3
有限集合の位相、また、離散位相について考えよう。
(1)  有限集合$S$に距離$d$が定義できるとする。
このとき、$(S,d)$から作られる位相空間$(S,\mathcal{O}_d)$は離散空間となることを示せ。
$S$を無限集合とすると、違う場合があるか?
(2) 位相空間$(X,\mathcal{O})$を考える。このとき、以下を示せ。
$\mathcal{O}$が離散位相空間であること$\Leftrightarrow\forall x\in X$に対して、
$\{x\}\in \mathcal{O}$が成り立つ。

もしかしたら(2) を問いてから(1)を解いたほうが順当だったかもしれません。
(2) 右向きの論理は定義からあきらかですね。左向きの論理は任意の部分集合が
開集合になることができるかどうかですが、各点が開集合なのだから、
位相の定義の3番目から簡単にいえますね。

(1) これも、任意の1点が開集合として含まれることをいえばよいわけですね。
空間として有限個なので $\epsilon$-近傍の $\epsilon$ を充分に小さくしていくと、
そのうち1点集合になりますね。
無限集合とすると違う場合があるのはほぼほぼ明らかですが、この場面でどのように
言うことができるか。

課題3-4は、この日の主題であった内部、閉包、境界点、の話題
です。

$X={\mathbb R}^2$とし、$d$をユークリッド距離とする。
(1) $D=\{(x,y)\in {\mathbb R}^2|x^2+y^2<1\}$とする。
このとき、$D^\circ=D$であり、$\bar{D}=\{(x,y)\in {\mathbb R}^2|x^2+y^2\le1\}$であることを示せ。
(2) $p=(\cos\theta,\sin\theta)$とする。
ただし、$0\le \theta<2\pi$とする。
このとき、$d(p,D)=0$であることを示せ。
(3) $p\not\in \bar{D}$であるとする。このとき、$d(p,D)>0$であることを示せ。

(1)  $D^\circ =D$ でることの必要充分条件は、$D$ が開集合でることなので、
$D$ の任意の点に対して、そのある $\epsilon$-近傍が $D$ に入ることを
示せばよい。示し方は上に書いたものと同じですね。
閉包も上と同じです。
(2) $d(p,D)$ の定義をもう一度思い出してもらいましょう。
$0$ が $\{d(x,y)|y\in D\}$ の下界であること、
また、$0$ が下界の中で最大であることを示せばよいことになります。
つまり、$0$ より真に大きい数 $t>0$ を持ってきたときに、$t$ より小さい、
$d(x,y)$ ($\exists y\in D$) が取れればよいことになります。
つまり、$(\cos\theta,\sin\theta)$ に収束する $D$ の元を構成することと同値です。

(3) これは、$x\in \bar{D}\Leftrightarrow d(x,D)=0$ を示すことの
左向きの命題です。右向きの命題の本質的な部分は、(2) でやったものです。
つまり、外部の点を取ると、必ず $D$ までの距離が正となるのです。
重要なことは、外部の点は、補集合の"内部"であることとです。
内部ということは、特に開集合です。なので、任意の点にその開集合に
包まれる $\epsilon$-近傍が存在することになります。
その $\epsilon$-近傍が距離を正とできる理由となります。
この部分を正確にまとめてください。


課題4-1,2,3,4についてはとりあえず、ノーヒントで頑張ってみてください。

2017年10月19日木曜日

トポロジー入門演習(第3回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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必要な配付プリントはHPで取ってください。


前回の復習からです。

課題2-1
対角線論法により、${\mathbb R}$と${\mathbb N}$が対等でないことがわかる。
同じようにして、${\mathbb N}$と$\mathcal{P}({\mathbb N})$は濃度が異なることを示せ。

まず、${\mathbb N}$と$\mathcal{P}({\mathbb N})$ の間に全単射が存在するということは、

$\mathcal{P}({\mathbb N})\to {\mathbb N}$
なる、ちょうど自然数と一対一な名前付け(ラベルづけ)ができるということを意味します。

多くのグループが両者が対等でないことを下のように導いていました。

対角線論法っぽくやるなら、

$A_1,A_2,\cdots $ を自然数の部分集合とし、この並びで
${\mathbb N}$ の部分集合を重複なく、もれなく並べられているとします。

このとき、新しい集合 $B$ を以下のように作る。
各自然数 $i$ に対して、
$i\not\in A_i$ であるなら、$i$ を $B$ の要素とする。
$i\in A_i$  であるなら、$i$ を $B$ の要素にしない。

このようにすると、自然数の部分集合 $B$ がつくられます。
つまり、$B\in \mathcal{P}({\mathbb N})$ です。
よって、$B$ のある $i$ があって、$A_i=B$ となるはずです。

このとき、以下のいずれかがただ一つだけ成り立つ。

  • $i\in B$ であり、$i\not\in A_i$
  • $i\not\in B$ であり、$i\in A_i$

これは $B$ の定義からわかります。
つまり、$B\not\subset A_i$ もしくは $A_i\not\subset B$ が成り立つことを言っています。
よって、どの $i$ に対しても、$B\neq A_i$ が成り立つことがわかります。

これは全て並べられたことに矛盾します。
この作り方だとすると、どの$A_i$ にも包まれないか、$A_i$ も包まないかものが
作れています。特に $B$ は空集合でも全体集合でもありません。

定理2-1を誤解している人がいるようなので、もう一度書いておきます。
選択公理を仮定します。
定理2-1
任意の2つの集合 $A,B$ は、対等でないなら、単射 $A\to B$ もしくは、単射 $B\to A$ が
存在する。また、そのうちただ一つが成り立つ。

要するに、集合を任意の2つもってきたら、濃度 $|\cdot |$ に対して、
$|A|<|B|$
$|A|=|B|$
$|A|>|B|$
のいずれかがなりたつということです。

課題2-2, 2-3
は比較的よくできていました。
授業中も言いましたが、位相を構築せよ。書かれていたら、少なくとも位相である事は
確かめてください。

問題は、課題2-4でした。
課題2-4
以下の問題に答えよ。ただし、
開区間とは、$(a,b)=\{x|a<x<b\}$ となる形の実数上の部分集合で、閉区間とは、$[a,b]=\{x|a\le x\le b\}$ の形の ${\mathbb R}$ 上の部分集合とする。

(1) $X={\mathbb R}^2$ とする。$\forall x\in X$ に対して、 $B_d(x,\epsilon)$ が
開集合であることを証明せよ。
(2) $X={\mathbb R}^2$ とし、
$$d((x_1,x_2),(y_1,y_2))=\sqrt{(x_1-y_1)^2+(x_2-y_2)^2}$$
$$d_M((x_1,x_2),(y_1,y_2))=|x_1-y_1|+|x_2-y_2|$$
によって得られる位相空間 $(X,\mathcal{O}_d)$ と $(X,\mathcal{O}_{d_M})$ は同値であることを示せ。
(3) 実数直線の部分集合の話として以下の問題を解き、一般に $\mathcal{O}$ の元を開集合と呼ぶ理由を考えよ。(位相の条件の2つ目と3つ目。)

  1. 1点を共有する無限個の開区間の和集合は再び開区間であることを示せ。
  2.  1点を共有する無限個の閉区間の共通集合は閉区間もしくは1点であることを示せ。
  3.  無限個の開区間の共通集合が閉区間となる場合があることを示せ。
  4.  無限個の閉区間の和集合が開区間となる場合があることを示せ。

(1)はできていても、(2)がよく分かっていないものもありました。

(2)の証明の方針としては、 $\mathcal{O}_d\subset \mathcal{O}_{d_M}$ かつ、
 $\mathcal{O}_d\supset \mathcal{O}_{d_M}$ が成り立つことを
示せばよく、

それぞれは、さらに、
$U\in \mathcal{O}_d$ ならば、$U\in \mathcal{O}_{d_M}$ であり、
$V\in \mathcal{O}_{d_M}$ ならば、$V\in \mathcal{O}_{d}$ であることを
示せばよいことになります。

この証明は、
$U\in \mathcal{O}_d$ であることはどういうことか、
$V\in \mathcal{O}_{d_m}$ であることはどういうことかを思い出してもらえばよいです。

例えば、$U\in \mathcal{O}_d$ に対して、各点 $x\in U$ に対して、$d$ の意味で
$\epsilon$-球を含むようにできますが、同時に、$d_M$ の意味で
各点 $x\in U$ に対してなんらかの $\epsilon'$-球を含むようにできている
ことを言うことになります。

きちんと書いてあるグループを丸にしました。

(3) はもう少し問題の意図が読みきれていないところがありました。
まず、区間ではなく、開集合を扱っているグループがあります。

${\mathbb R}$ を開区間もしくは閉区間というのか?についても
よく指定がされていないのも問題だったかもしれません。

できていなかったグループはもう一度課題をだしてもらいます。

今回は、以下の話のプリント配りました。
  • 位相空間 $(X,\mathcal{O})$ の部分集合の内部、閉包、境界、外部
課題の方は、
  • 閉集合を用いた位相の定義
  • 1点集合の性質
  • 有限集合上の位相
  • 無限集合上の位相
  • 平面上の単位円盤の内部、閉包、境界、外部
について行いました。上の4つの用語の定義だけしておきます。

内部・・・$A$ の内部とは、$A$ に包まれる最大の開集合のこと
閉包・・・$A$ の閉包とは、$A$ を包む最小の閉集合のこと
境界・・・$A$ の境界とは、$A$ の閉包から $A$ の内部を除いた集合のこと
外部・・・$A$ の外部とは、$A$ の補空間の内部のこと


2017年10月12日木曜日

トポロジー入門演習(第2回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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必要な配布プリントはHPで取ってください。

今回配布したプリントは

  • べき集合とその濃度
  • 位相の定義
  • 距離空間からくる位相
についてやりました。

べき集合と濃度

集合論については、先週のベルンシュタインの定理から続いていますが、
もう少し集合論を学んでいきましょう。

濃度
集合全体に、全単射 $A\to B$ が存在する(対等な集合)という同値関係をいれてできた
同値類を濃度といいます。集合 $A$ の濃度を $|A|$ と表すことにします。
同値類全体は集合にはならないので、この場合商集合という言葉は適切では
ありません。

べき集合
$X$ を集合とし、$X$ の部分集合全体の集合を $\mathcal{P}(X)$ と言います。
$\mathcal{P}(X)$ には必ず空集合と $X$ 自身が入っています。

授業の最後に述べましたが、空集合はどんな集合の部分集合になっていることに
気をつけてください。


自然数全体 ${\mathbb N}$ の部分集合全体 $\mathcal{P}({\mathbb N})$ の濃度を調べると、
$$\{0,1,2,3,\cdots \}\cup {\mathbb N}$$
が得られます。
$0$ は空集合からなる同値類、$n$ は $n$ 個の元からなる同値類、
${\mathbb N}$ は ${\mathbb N}$ 全体からなる同値類ということになります。


対角線論法
対角線論法とは、実数全体と自然数が対等ではない、
つまり $|{\mathbb N}|\neq |{\mathbb R}|$ であることを示す方法です。
実数は、開区間 $(0,1)$ と対等です。
というのも、実数が 自然数と対等であるとすると、

$a_1,a_2,\cdots$ のように実数を一列に並べられることになります。
$a_1=0.a_1^1a_1^2.....$
$a_2=0.a_2^1a_2^2.....$
$a_3=0.a_3^1a_3^2.....$
$\vdots$
このとき、$b=0.b^1b^2\cdots$ なる小数展開を $b^i\neq a^i_i$ かつ $b^i\neq 0,9$ であると
します。このとき、 $b$ は $a_i$ のどれとも違う(小数第 $i$ 位が異なるので。)
この数は上のどれにも並べられていないことになります。
(実際、小数展開は小数展開だけでは決まりませんが、それは、$0.3999....=0.400...$ など、
$0$ や $9$ が無限個続くような場合に相当します。しかし、$b^i$ の条件からそれらの数に
なっていないことは明らかです。)

さて、問題は、${\mathbb N}$ とべき集合 $\mathcal{P}({\mathbb N})$ の濃度がことなること
を対角線論法を応用してできますか?というものでした。

$\mathcal{P}({\mathbb N})$ の元を $a_1,a_2,...$ のように並べてみて工夫して
$b$ を作ってみてください。


位相の定義と距離位相

位相空間とは、集合 $X$ と、$X$ のべき集合の部分集合 $\mathcal{O}$ で以下を満たすものでした。

  • $\emptyset ,X\in \mathcal{O}$ である。
  • $U_i\in \mathcal{O}$ $(i=1,...,n)$ なら $\cap_{i=1}^nU_i\in \mathcal{O}$ である。
  • $U_\lambda(\lambda\in \Lambda)$ を任意の $\mathcal{O}$ の集まりとすると、$\cup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}$ である。
この条件を満たす $(X,\mathcal{O})$ を位相空間という。

例として、距離空間 $(X,d)$ からくる距離位相 $(X,\mathcal{O}_d)$ があります。
距離位相の $\mathcal{O}_d\ni O$ は、
$\forall x\in O$ に対して $\epsilon>0$ が存在して、$B_d(x,\epsilon)\subset O$
を満たすものとして定義されます。つまり、どの点にもその周りのなんらかの
$\epsilon$ 近傍 $B_d(x,\epsilon)$ も含んでいるということです。

つまり、イメージでは、端っこの点を含んでいないようなものを開集合というのです。
確かに、閉区間 $[0,1]$ は端っこの点を含んでいるので、これは開集合とはならないのです。
(この端っこの点というのを次回ちゃんと定義します。一般の位相空間の場合にも
定義されます。)
確かに、$0\in [0,1]$ には、$[0,1]$ の中に含まれるように $\epsilon$ 近傍入れることは
できません。(通常のユークリッド距離を入れた時の話です。もちろん離散位相が入っていたら違います。)

なので、${\mathbb R}$ 上の距離位相からくる位相 $\mathcal{O}$ の中には
閉区間 $[0,1]$ は入ってないことになります。

今回は、有限個の元からなる集合上の位相と、
距離空間からくる位相空間について紹介をしました。

距離空間から距離位相という位相空間を定義しました。
しかし、違う距離空間なのに、同じ距離位相というものになってしまうものがあります。
つまり、距離空間から距離位相を作るのは単射ではないということです。

また、位相空間は距離空間を一般化した概念です。
実際、距離空間からこないような位相空間もあります。

この位相空間というのはなんのために考えるのでしょうか?
それは、空間の連続性というものを念頭に考えています。

違う距離空間なのに、同じ位相空間を与えるということは、
その2つの空間のある”連続性"が一致するということを意味します。

空間をどのように理解したら良いのか?
ここでは、おおまかな空間の”連続性”のみを空間の理解の尺度とする
というということを言っています。
つまり、空間の繋がり具合が同じなら同じ空間ということです。

次回以降、この概念について厳密に定義をしていきます。


配付プリントの訂正
課題の4つ目の下から2行目が間違っていたので訂正してあります。

2017年10月2日月曜日

トポロジー入門演習(第1回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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必要な配布プリントはHPで取ってください。

今日は、トポロジー入門演習の第一回の授業を行いました。
今年からグループワークを取り入れることにしました。

この授業での講義用語です。
説明・・・相手にわかってもらうようにわかりやすく話して、理解させること。
     例えば、例を出したり、して感覚的に分かってもらうようにする。
     正確にわかりやすく説明することができればなおよい。

証明・・・正確に内容を把握し、論理的に正確に説明をつけること。
     わかりやすい証明をすることができればなおよい。
     
つまり、説明は、相手が納得すればそれでOKですが、
証明は論理的に正確に説明をつけることで、相手はもとより、完全に
正しい説明をすることを意味します。



内容は、

  • 集合論の復習
  • イプシロンデルタ論法
  • 距離空間の基礎

です。
どれも、このトポロジー入門の授業を理解する上で欠かせない部分です。
むしろ、この3つを少しだけ難しくした内容がトポロジー入門ということになります。
距離空間だけは、新しいかもしれませんが、
ピタゴラスの定理など既知ですから、ユークリッド空間の一般化という点で、
すでに学んでいるところです。

集合論の基礎

数学のほとんどが集合を基礎に進んでいきますから、この内容が分かっていないと
先に進めません。

おさらいしておきます。
しかし、集合の表記方法は既知とします。

$x$ が集合 $A$ に含まれることを、 $x\in A$ と書きます。
他に、$x$ は $A$ のであるとか、要素であるとか言っても同じことです。


集合 $A$ が集合 $B$ に包まれることを、$A\subset B$ と書きます。
他に、$A$ は $B$ の部分集合であると言っても同じことです。

この含まれることと、包まれることを正確に区別してください。
このような些細なことでも混同していくと、その先につまづきが生じることがあります。
(もしつまづいても、その時にもう一度復習することが理解が進むこともあります。)

2つの集合 $A,B$ が等しい($A=B$)とは、
$A\subset B$ かつ $B\subset A$ が満たされることをいいます。


集合の演算
和集合と共通集合を下に定義します。$\lor$ は「または」、$\land$ は「かつ」とよみます。
$A\cup B=\{a|a\in A\lor B\}$
$A\cap B=\{a|a\in A\land B\}$

$A\subset X$ を部分集合として、$A^c=\{a\in X|a\not\in A\}$ とかき、
$A$ の $X$ での補集合といいます。

$A,X$ を集合としたときに、差集合を $X\setminus A=\{a\in X|a\not\in X\}$ として定義します。
要するに補集合と同じと思うかもしれませんが、この場合、$A$ は $X$ に
包まれている必要はありません。

2つの集合が対等であるということ
集合 $A$ と $B$ が対等であるとは、
$A$ と $B$ の間に全単射が存在することを言います。
このとき、$A$ から $B$ に全単射があっても、$B$ から $A$ に全単射があっても
同じことです。(なぜなら全単射が存在するということは、その逆写像が存在して
それも全単射だからです。)


イプシロンデルタ論法
これは関数の連続性をいうためのテクニックですが、この授業において
一般の距離空間さらに、位相空間の場合に一般化されます。

関数 $y=f(x)$ が $x=a$ で連続であるとは、
任意の $\epsilon>0$ においてある $\delta>0$ が存在して、
$|x-a|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(a)|<\epsilon$
この論法をうまく説明できるかどうか?
そして、説明できた後、具体的な関数に対して適用できるか?
つまり、$\epsilon$ に対して、$\delta$ をどのように選べば良いかがわかれば
証明ができるはずです。


距離空間の基礎

距離空間というのは新しく出たかもしれませんが、基本は、ユークリッド空間 ${\mathbb R}^n$ に定義されたピタゴラス距離のことと思えばよいでしょう。2点 $x=(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ と $y=(y_1,y_2,\cdots, y_n)$ の間の距離を
$\sqrt{(x_1-y_1)^2+\cdots +(x_n-y_n)^2}$
と考えれば、この空間上に距離が定義されました。この値を $d(x,y)$ と書くことにします。
ここで、問題があります。

問題
一般の集合 $X$ があったときに、どのようにして、距離というものを
入れて話をすることができるでしょうか?

この問題に答えを与えているのが、距離空間なのです。
元とは違う集合にも、同じような”もの"を導入したい!という動機は
数学でよく使われる一般化という思考方法です。

ユークリッド空間内の距離を少し一般化しておけば、2点間の距離はいつでもピタゴラスの定理を満たすようなものでなくてもよいといことです。
(一般の空間では座標のようなものが存在しないかもしれませんので。)

一般の距離空間を考えるには、付随して距離関数 $d$ というものを考える必要があります。
それがどのような性質を満たさなければならないか?
$X$ をある集合とします。距離関数 $d:X\times X\to {\mathbb R}$ が満たすべき性質は以下です。
  • $d(x,y)\ge 0$ が成り立つ。さらに、 $d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y$ である。
  • $d(x,y)=d(y,x)$ が成り立つ。
  • $d(x,y)+d(y,z)\ge d(x,z)$ が成り立つ。
今回の課題には、距離空間における部分集合 $A\subset X$ に対して、
$d(x,A)=\inf\{a|a\in A\}$ として部分集合と $x$ の距離を定義します。
そのとき、
$|d(x,A)-d(y,A)|\le d(x,y)$ 
が成り立つことを証明してもらいました。
それを用いると、(特に、$X={\mathbb R}$ としておいてもよい。)
$f:=d(x,A)$ として定義した関数 $X\to {\mathbb R}$ が連続であることがイプシロンデルタ
論法を使って得られます。

2017年8月18日金曜日

微積分I演習(物理学類)(第16回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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定期試験を行いました。

各問題の正答率は以下のようになりました.

問題123456
得点率(%)34.893.182.286.982.873.3

受験者  29人
平均点  78.1
最高得点  100点
最低点  10点
90点以上の人  13人

全体として、やはり1が最もできていませんでした。計算中心に出すと言ったので
そのあたりの定義を復習した人はいなかったんですね。
特に、下界の定義がかけた人はほとんどいませんでした。
2は答えが書いてあるということでよくできていました。
3,4,5あたりの問題は多くの人は計算は合っていました。
6になると、広義積分の難しさか、多少ややこしいからか若干正答率がさがりました。

問題

問題16-1
部分集合 $A\subset {\mathbb R}$ に対して、$A$ の下界を定義せよ。
また、$A$ の下限はどのように定義されるか?

問題16-2
逆関数の微分法を使うことで、$\frac{d\text{Arctan} x}{dx}=\frac{1}{1+x^2}$ を示せ。

問題16-3
次の関数を3 次の項までマクローリン展開し、剰余項は、$o(x^3)$ で表せ。
$$f(x)=\sqrt{1+2x}$$


問題16-4
以下の定積分を計算せよ。
$$\int_1^2\frac{dx}{x+2\sqrt{x-1}}$$


問題16-5
次の極限を求めよ。
$$\lim_{x\to 0}\left(\frac{1}{e^x-1}-\frac{1}{\sin x}\right)$$

問題16-6
以下の広義積分を求めよ。
$$\int_0^\infty \frac{dx}{1+x+x^2}$$

解答と講評

問題16-1
$M$ が $A$ の下界とは $\forall a\in A$ に対して、$M\le a$ となる実数。
$A$ の下限とは、$A$ の下界の集合の中で最大のものをいう。


講評
単にこれだけを問う問題だったのですが、下限が分かっている人も
それほど多くはありませんでした。
この問題は全ての人ができると思って出しました。
上限、下限について分かっている人は、10パーセントくらいなのですね。
何回かやったはずなのですが....

下界のことを $A$ の最小値以下になるとか、書いている人がいましたが、
$A$ には最小値があるかどうかわかりません。例えば、$(0,1)\subset {\mathbb R}$
(端が $0,1$ であるような区間で、両端を含まないもの)とすると、この区間には
最小値はありません。
最小値というからには、その集合の中に、最小を与える点がないといけません。

問題16-2
$y=\text{Arctan}(x)$ とおく。このとき、$x=\tan y$ であるから、
$\frac{dy}{dx}=\frac{1}{\frac{dx}{dy}}=\frac{1}{(\tan y)’}=\frac{1}{\frac{1}{\cos^2y}}=\frac{1}{1+\tan^2y}=\frac{1}{1+x^2}$ となる。

講評
この問題は、微分の結果も書いてあるので、できている人は多かったです。
ただ、逆関数の微分法を使えと書いているのに、$\text{Arctan}(x)=\frac{\text{Arcsin}(x)}{\text{Arccos}(x)}$
と謎の変形を使って計算している人がいました。


問題16-3
二項展開の式を使うと、
$$\sqrt{1+x}=\sum_{k=0}^3\binom{\frac{1}{2}}{k}x^k+o(x^3)$$
となる。
各係数を求めると、$\binom{\frac{1}{2}}{0}=1$, $\binom{\frac{1}{2}}{1}=\frac{1}{2}$, $\binom{\frac{1}{2}}{2}=\frac{\frac{1}{2}\cdot(\frac{1}{2}-1)}{2\cdot 1}=-\frac{1}{8}$
$\binom{\frac{1}{2}}{3}=\frac{\frac{1}{2}\cdot(\frac{1}{2}-1)\cdot(\frac{1}{2}-2)}{3\cdot 2\cdot 1}=\frac{1}{16}$ となる。
ゆえに、$\sqrt{1+x}=1+\frac{x}{2}-\frac{x^2}{8}+\frac{x^3}{16}+o(x^3)$
がわかる。
よって、$x$ に $2x$ を代入して、
$$\sqrt{1+2x}=1+x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{2}+o(x^3)$$
となる。ここで、$o(x^3)$ に $2x$ を代入して、$o(8x^3)$ となるが、
$h(x)=o(x^8)$ となる任意の関数 $h(x)$ は、$\frac{h(x)}{x^3}=\frac{h(x)}{8x^3}8$ であるので、 $x\to 0$ の極限は、$\lim_{x\to 0}\frac{h(x)}{8x^3}=0$ であることから$\lim_{x\to 0}\frac{h(x)}{x^3}=0$ となる。
よって、$h(x)=o(x^3)$ であることがわかる。

講評
この問題は、何回か微分すればよいだけなので、できている人は多かったです。
しかし、微分係数を求めるのに、ロピタルの定理を用いる方法をとっている人
(間違いではないが、普通に $n$ 回微分を使ってやった方がミスがない)や、
$f’(x)=\frac{x}{\sqrt{1+2x}}$ としている人が複数(3人以上は)見られました。
また、3次の項と書いているのに2次までしか求めていない人もいました。

問題16-4
$t=\sqrt{x-1}$ とおくと、$dx=2tdt$ であるから、
$\int_1^2\frac{dx}{x+2\sqrt{x-1}}=\int_0^1\frac{2tdt}{(t+1)^2}$ となる。
ここで、$t+1=s$ とおくと、この積分は、
$$\int_1^2\frac{2(s-1)ds}{s^2}=2\int_1^2(s^{-1}-s^{-2})ds=2\left[\log s+s^{-1}\right]_1^2=2(\log 2+\frac{1}{2}-1)=2\log 2-1$$
と計算できる。

講評
この問題も計算だけなので、それほど間違えている人はいませんでした。
$dx$ を $dt$ に変換する部分を忘れている人がいました。

問題16-5
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-e^x+1}{(e^x-1)\sin x}$ は不定形の極限であるので、ロピタルの定理を適用させて、
$\lim_{x\to 0}\frac{\cos x-e^x}{e^x\sin x+(e^x-1)\cos x}$ の極限が求められればよい。
この極限はまた不定形なので、再びロピタルの定理を適用させることで、極限
$$\lim_{x\to 0}\frac{-e^x-\sin x}{2e^x\cos x+\sin x}$$
が求められればよい。この極限は不定形ではないので、代入操作により、
極限は $\frac{-1}{2}$ と求められる。
ゆえに、元の極限も求まり、
$$\lim_{x\to0}\frac{\sin x-e^x+1}{(e^x-1)\sin x}=-\frac{1}{2}$$


何回か微分しているうちに、計算ミスをしている人は多かった。


問題16-6
$\frac{2t+1}{\sqrt{3}}=s$ と変換をすると、$dt=\frac{\sqrt{3}}{2}ds$ となる。
よって、$\frac{4}{3}(t^2+t+1)=s^2+1$ であるから、
$$\int_0^\infty\frac{1}{t^2+t+1}dt=\int_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^\infty\frac{4}{3(s^2+1)}\frac{\sqrt{3}}{2}ds=\frac{2}{\sqrt{3}}\int_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^\infty\frac{1}{s^2+1}ds=\frac{2}{\sqrt{3}}\left(\lim_{s\to \infty}\text{Arctan}(s)-\text{Arctan}(\frac{1}{\sqrt{3}})\right)=\frac{2}{\sqrt{3}}\left(\frac{\pi}{2}-\frac{\pi}{6}\right)=\frac{2\pi}{3\sqrt{3}}$$
となります。

講評
変数変換をしても、積分区間が変わらず、$0$ から $\infty$ になったままのものや、
$ds$ と $dt$ の変換がなされていないものなど多数見受けられました。
変数変換の仕方がわからず、 $x=\tan \theta$ としている人。
不等式の処理をして値を不等式でしか出さない人もまぁまぁいました。


全体として
上位4割の人(90点以上)が13人おり、計算ミスもなく、これらの多くの人は基本的な理解も進んでいました。
中位3割の人(70点から89点)は10人おり、若干の計算ミスはするが、だいたいの理解は進んでいます。
それ以外の人(6人)は理解が曖昧な部分があったり、計算の仕方が分かっていなかったり
でした。ただ、決して、全く理解が足りないということでもありませんでしたが....

宿題返却をしても、結果にのみ一喜一憂し、間違えたところを、
何が正しい答えだったのか自分で追求せず、放置しているのではないかと思います。
宿題の採点がたとえ10点中8点だったとしても、決して合格レベルとは言えません。
間違えたところがあるのだから、何がいけなかったのか?反省すべきです。

どんな授業でも、積極的に求めなていかなければ、それなりのものしか得られません。
知識や経験は向こうからやってくるのではなく、頑張って問題を解いたり、
こちらから迫っていかないと得られません。

微積分I演習(数学類)(第15回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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定期試験を行いました。

各問題の正答率は以下のようになりました.

問題A(a)A(b)B(a)B(b)C(a)C(b)D
得点率(%)57.188.347.518.843.366.778.3

受験者  20人
平均点  56.0
最高得点  100点
最低点  5点

100点1人、90点台の人はおらず、80点台1人、70点台2人
60点台の人は4人で、
そのほかの人は、40点から59点ないに固まっているという状態です。



問題

問題15-A
以下の問題に答えよ。
(a) 等式 $\sin (\text{Arccos(x}))=2x$ を満たす $x$ を求めよ。
(b) 実数 $a,b$ が $\text{Arcsin}(a)+\text{Arcsin}(b)=\text{Arcsin}(1)$ を
$a,b$ は関係式 $a^2+b^2=1$ を満たすことを示せ。

問題15-B
$f(x)=\text{Arctanh}(x)$ とおき、この関数は、$\tanh(x)$ の逆関数のこととする。
以下の問題に答えよ。
(a) $f(x)$ の微分を求めよ。
(b) $f(x)$ のマクローリン展開の $n$ 次の項を求めよ。

問題15-C
次の不定積分および定積分を実行せよ。
(a) $\int\frac{x+1}{x+\sqrt{x-1}}dx$     (b) $\int_1^0\frac{1}{x(x^2+1)}dx$

問題15-D
次の極限を求めよ。
$\lim_{x\to 0}\frac{e^{-x}-1+\log(x+1)}{\text{Arcsin}(x)-x}$

解答

問題15-A
(a) $a=\text{Arccos}(x)$ とおくと、$\cos a=x$ となり、$\sin a=\pm\sqrt{1-x^2}$ と
なる。$\text{Arccos}$ の値域の条件から $0\le \text{Arccos}(x)\le \pi$ であるので、
$\sin (\text{Arccos}(x))\ge 0$ である。
ゆえに、$x\ge 0$ であるので、$\sin a=\sqrt{1-x^2}$ である。
$2x=\sqrt{1-x^2}$ を $x\ge 0$ で解くことで、$x=\frac{1}{\sqrt{5}}$ が得られる。
(b) $\text{Arcsin}(a)=x$ かつ $\text{Arcsin}(b)=y$ とすると、定義より、$\sin x=a$ かつ
$\sin y=b$ となる。
ゆえに、$x+y=\text{Arcsin} (1)=\frac{\pi}{2}$ となる。
$\cos x=\sin (\frac{\pi}{2}-x)=\sin y=b$ かつ、$\cos y=\sin (\frac{\pi}{2}-y)=\sin x=a$
となる。ゆえに、$a^2+b^2=\sin x\cos y+\cos x\sin y=\sin (x+y)=\sin \frac{\pi}{2}=1$
となる。

講評
この問題はほとんどの人が手をつけており、多くの人は正解にたどり着いていたものの、
$x>0$ であることを見抜けた人はごくわずかでした。
見抜いた人は10点。そうでない人は5点をあげました。
arcsin なのに、arcsinh と勘違いしている人がいました。
正答率57%。

一方、(b)の方の問題は $a^2+b^2=1$ という結果が見えているので、多くの人は
できていました。正答率88%。

問題15-B
(a) $y=\text{Artanh}(x)$ とすると、$x=\tanh(y)$ となる。逆関数の微分法を用いて、
$$f’(x)=\frac{1}{(\tanh y)’}=\frac{1}{\frac{1}{\cosh^2y}}=\frac{1}{1-\tanh^2 y}=\frac{1}{1-x^2}$$
となる。
(b) $\frac{1}{1-x^2}=\sum_{x=0}^\infty x^{2n}$ であることから、
$$\text{Artanh}(x)=\int_0^x\frac{1}{1-t^2}dt=\int_0^x\sum_{x=0}^\infty x^{2n}dx=\sum_{x=0}^\infty \frac{x^{2n+1}}{2n+1}$$
と計算できる。
(積分と極限の交換が必要となりますが、同じ求め方は、宿題8-2でもやりましたね。そのときは、$\text{Arcsin}(x)$ でした。)
$n$ が偶数のとき、 $0$ で、$n$ が奇数の時、$\frac{1}{n}x^n$ となります。


また、直接 $f^{(n)}(0)$ を求める方法もあります。
$(1-x^2)f'(x)=1$ であることを使って、ライプニッツの公式を当てはめる方法です。
このとき、$n$ 回部分 $n>0$ は、
$$(1-x^2)f^{(n+1)}(x)-2nxf^{(n)}(x)-n(n-1)f^{(n-1)}(x)=0$$
となります。ゆえに、$x=0$ を入れてやると、$f^{(n+1)}(0)=n(n-1)f^{(n-1)}(0)$ が成り立ちます。

講評
(a) この問題が47%の正答率というのは愕然としました。逆関数の微分法は習ったはずです。
$\frac{dy}{dx}=\frac{1}{\frac{dx}{dy}}$ という公式で、最後の式は $y$ の式のはずなのに、
$x$ が代入されていました。
つまり、
$\frac{d\text{Arsinh}(x)}{dx}=\frac{1}{(\tanh (x))’}$ となっている解答が多くありました。
本当は、逆関数の微分法の分母は $y$ の微分なので
$\frac{d\text{Arsinh}(x)}{dx}=\frac{1}{(\tanh (y))’}$ です。
逆関数の微分は何回か解いたことがあったと思います。
中には三角関数と間違えて $\text{Arctan}(x)=\frac{1}{1+x^2}$ と書いている人がいました。
完全に勉強不足と思います。

(b) は、(a) で半分の人が脱落しているので、当然さらにできている人は
少なかったです。手がつけられており、正解した人は最後まで正解した人は2人でした。
項別積分については授業で少ししか説明せず、あまり演習はしませんでした。
授業中に、もっといろんなマクローリン展開を計算する必要があると思いました。

問題15-C
(a) 定石として、$t=\sqrt{x-1}$ とおきます。このとき、$x=t^2+1$ となるので、
$dx=2tdt$ となり、
$$\int\frac{x+1}{x+\sqrt{x-1}}dx=\int\frac{t^2+2}{t^2+t+1}2tdt=\int\frac{2t(t^2+2)}{t^2+t+1}dt$$
$$=\int\frac{(t^2+t+1)(2t-2)+4t+2}{t^2+t+1}dt=\int\left(2t-2+2\frac{2t+1}{t^2+t+1}\right)dt$$
$$t^2-2t+2\log(t^2+t+1)+C$$
(ここで、$C$ は積分定数。)
ゆえに、
$t=\sqrt{x-1}$ であることから $t^2-2t=x-1-2\sqrt{x-1}$ であり、
$t^2+t+1=x+\sqrt{x-1}$ となるので、
求める積分は、
$$x-2\sqrt{x-1}+2\log(x+\sqrt{x-1})+C$$
となる。
(ここで、定数1は積分定数の中に組み込んだ。)

(b) $\frac{1}{x(x^2+1)}$ を部分分数展開をすると、
$$\frac{1}{x(x^2+1)}=\frac{1}{x}-\frac{x}{x^2+1}$$
となる。よって、
$$\int_1^2\left(\frac{1}{x}-\frac{1}{2}\frac{2x}{x^2+1}\right)dx=\left[\log x-\frac{1}{2}\log(x^2+1)\right]_1^2=\log 2-\frac{1}{2}\log \frac{5}{2}=\frac{1}{2}\log\frac{8}{5}$$

講評
この問題は、計算のみなので、よくできていましたが、
$dt$ を $ds$ の式に変えるなど単純な変換を忘れている人も多く、
問題をあまり解いていないのでは?と思いました。
中に、割り算を間違えているものや、
$\int(t-1)dt=\log(t-1)$ と書いている人がいました。

無理関数の積分の方は43%で、有理関数の積分の方は63%です。

問題15-D
$\lim_{x\to 0}(e^{-x}-1+\log (x+1))=0$ かつ
$\lim_{x\to 0}(\text{Arcsin}(x)-x)=0$ であるので、不定形の極限である。
ロピタルの定理を適用して、以下の極限を求める。
$\lim_{x\to 0}\frac{-e^{-x}+\frac{1}{x+1}}{-1+\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}}=\lim_{x\to 0}\frac{e^{-x}(1-e^x+x)\sqrt{1-x^2}}{(x+1)(-1+\sqrt{1-x^2})}$
このとき、この極限も不定形となる。
ここで、$\lim_{x\to 0}\frac{1-e^x+x}{-1+\sqrt{1-x^2}}$ の部分が求められれば良い。
この不定形の極限にロピタルの定理を用いると、
$$\lim_{x\to 0}\frac{-e^x+1}{\frac{-x}{\sqrt{1-x^2}}} =\lim_{x\to 0}\frac{(e^x-1)\sqrt{1-x^2}}{x}$$
を求めることになるが、これは、$\lim_{x\to 0}\frac{e^x-1}{x}$ の部分が求められれば
よいことに注意する。この極限は、関数 $e^x$ の $0$ での微分係数を求めていることになるのだから、これはちょうど $1$ である。ゆえに、$\lim_{x\to 0}\frac{e^x-1}{x}=1$ であり、遡れば、$\lim_{x\to 0}\frac{-e^{x}+1}{\frac{-x}{\sqrt{1-x^2}}}=1$ である。
よって、$\lim_{x\to 0}\frac{1-e^x+x}{-1+\sqrt{1-x^2}}=1$ がわかる。
また、ロピタルの定理から、
$\lim_{x\to 0}\frac{-e^{-x}+\frac{1}{x+1}}{-1+\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}}=1$ がわかる。

また、
不定形の極限を求めているところで、
例えば、ロピタルの定理を適用させて、分母を払うのであれば、
極限がわかるところは最初に極限を計算しておくこともできます。
例えば、
$$\lim_{x\to 0}\frac{e^{-x}(1-e^x+x)\sqrt{1-x^2}}{(x+1)(-1+\sqrt{1-x^2})}=\lim_{x\to 0}\frac{1-e^x+x}{-1+\sqrt{1-x^2}}$$
のように計算することもできます。

全体として、(問題として難しかったからか?)あまりできていない印象です。
試験前には自分で問題を解いてみるなど自分で演習をするべきですね。
また、言われたり、与えたりしたものだけでなく、積極的に勉強する姿勢が必要です。
おそらく基本的なマクローリン展開ができない学生が多いのではないでしょうか?
後期に向けて、今から学習を積んでおくことをお勧めします。

2017年8月13日日曜日

数学外書輪講I(第14回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今回の数学外書輪講は

  • LangのVII 随伴写像
  • Matousek の Miniature 7 (Are These Distances Euclidean?)
を読みました。

Are These Distances Euclidean? 

正の実数の集合が、$n+1$ 次元ユークリッド空間の $n$ 面体の辺となりうる
ための実数の条件に関する問題です。

例えば、3つの正の実数 $x_1,x_2,x_3$ が与えられた時に、それが、平面上の
3角形の辺となるための必要十分条件は、
2辺の和は残りの1辺の和以上になるという不等式を満たす必要があります。
これを三角不等式といいます。これを具体的に式に書いておけば、

$$x_1+x_2\ge x_3,\ x_1+x_3\ge x_2,\  x_2+x_3\ge x_1$$
となります。

このことを高次元に一般化します。$n$ 次元ユークリッド空間 ${\mathbb R}^n$
の上に、$n+1$ 点 $p_0,p_1,\cdots ,p_n$ を与えて、その間の距離を
$m_{ij}=||p_i-p_j||$ が与えられたとするとき、$m_{ij}$ の取りうる必要十分条件は
どのように与えられるか?という問題です。

$n+1$ 面体の各3角形は存在しないといけませんから、もちろん3角不等式を
満たさないといけません。
しかし、$n\ge 3$ となると、その不等式だけでは十分では在りません。

Matousekの出した例では、
2,2,2,2,3,3 という6つの実数に対して、この数を各辺に持つような
四面体を ${\mathbb R}^3$ に実現することはできないことを述べています。
(もちろん、もっと次元が高いユークリッド空間でもできません。)

しかし、この6つの数は、どの3つを取っても三角不等式を満たしています。

よって、そのような必要十分条件は、以下のようになります。

定理
$||p_i-p_j||=m_{ij}$ とする。
このとき、行列 $G=(g_{ij})$ を $g_{ij}=\frac{1}{2}(m_{0i}^2+m_{0j}^2-m_{ij}^2)$ となる
対称行列とする。このとき、$G$ が半正定値であることと、
そのような点 $p_0,...,p_n$ が存在することは同値である。


証明には、以下の事実を使います。

行列 $A$ が半正定値(positive semi-definite)対称行列であることと、
$A=X^TX$ であることが同値である。


実対称行列が半正定値であるとは、$A$ の固有値が正または0であることを
言います。実対称行列の固有値はいつも実数であることを思い出しましょう。

同値なことは、任意のベクトル ${\bf x}\in {\mathbb R}^n$ に対して、
${\bf x}^TA{\bf x}\ge 0$ となることです。


この定理の証明は、本を見てもらうことにして、
$n=2$ の場合に、定理を当てはめてみると、行列 $G$ は、
$$\begin{pmatrix}x^2&\frac{1}{2}(x^2+y^2-z^2)\\\frac{1}{2}(x^2+y^2-z^2)&y^2\end{pmatrix}$$

となります。この行列が半正定値であることの必要十分条件は、
$\det(G)\ge 0$ かつ、$x^2\ge 0$ です。
後者は、いつでも成り立ちますので、行列式を計算すると、

$$\det(G)=\frac{1}{4}(y+z-x)(x+y-z)(x+z-y)(x+y+z)$$

と因数分解できて、$x,y,z$ はいつでも非負なので、$\det(G)\ge 0$ は

$(y+z-x)(x+y-z)(x+z-y)\ge0$ と同値です。

また、このとき、すぐに、三角不等式は導出できませんが、
この3つの因数のうち、2つが非正であるとすると、

もし、$y+z-x\ge 0,x+y-z\le 0, x+z-y\le 0$ が成り立つとすると、

後半の2つの式の左辺を足すと、

$2x\le 0$ が成り立ち、$x$ が 非負であることと矛盾します。

よって、3つのうち、2つが負になることはありません。
(ほかの2つが負であると仮定しても、文字を入れ替えることによって同じ結論になります)
つまり、$\det(G)\ge 0$ であるなら、

$y+z-x\ge 0, x+y-z\ge 0, x+z-y\ge 0$ が成り立ちます。

よって、$G$ が半正定値な対称行列であることと、三角不等式は
同値となります。

$n=3$ の場合の行列 $G$ を書いておきます。
$m_{0,1}=x, m_{0,2}=y, m_{0,3}=z$
$m_{1,2}=u, m_{2,3}=v, m_{3,1}=w$ とおくと、

$$G=\begin{pmatrix}x^2&\frac{1}{2}(x^2+y^2-u^2)&\frac{1}{2}(x^2+z^2-w^2)\\\frac{1}{2}(x^2+y^2-u^2)&y^2&\frac{1}{2}(y^2+z^2-v^2)\\\frac{1}{2}(x^2+z^2-w^2)&\frac{1}{2}(y^2+z^2-v^2)&z^2\end{pmatrix}$$

となります。
この行列式 $\det(G)$ は、
$$=\frac{1}{4}(x+y-u)(x+y+u)((y+u-x)(u+x-y)z^2+(x^2+z^2-w^2)(y^2+z^2-v^2))-\frac{1}{4}(x(y+z-v)(y+z+v)-y(w+x-z)(w+z-x))^2$$


$$(x^2+z^2-w^2)(y^2+z^2-v^2)=(x+z-w)(w+x+z)(y+z-v)(y+z+v)-2z(v^2x+w^2y-x^2y-xy^2-2xyz-xz^2-yz^2)$$
$$=(x+z-w)(w+x+z)(y+z-v)(y+z+v)+2z(x(y+z-v)(y+z+v)-y(w+x-z)(w+z-x))+2xyz^2$$

となり、三角不等式のいくつかの式でかけますが、途中でいくつか、マイナス記号が
入っていますので、これらすべて正の数でも、$\det(G)$ が正の値になるとは
限りません。(むしろ、正になっても正定値とも限りませんが。)

上の例では、
$x=u=v=z=2$ かつ、$y=w=3$ として計算をすると、$\det(G)=-81/2$ となり、
やはり、$\det(G)$ が正にならないので、半正定値にはなりません。


2017年8月3日木曜日

微積分I演習(物理学類)(第15回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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最終回は、


  • 模擬テスト
を使って総合演習を行いました。

問題15-1

$A$ が ${\mathbb R}$ の部分集合であるとする。
このとき、上限 $\sup A$ の定義をいえ。
また、$s$ が上限のときであるための必要十分条件は以下のようにいい表される。
当てはまる空欄を埋めよ。
$s$ が        
$s’<s$ となる任意の $s’$ に対して、       が存在する。

問題15-2
次の式を満たす $x$ を簡単な形で求めよ。
(1) $\text{Arcsin}(\frac{2}{3})+\text{Arcsin}(\frac{4}{5})=\text{Arcsin}(x)$
(2) $\sinh(\text{Arcsinh}(x))=2x$

問題15-3
$f(x)=\text{Arctan}(x)$ とおく。このとき、
$f^{(n)}(0)= \begin{cases}(-1)^m(2m)!& n=2m+1\\0&n=2m\end{cases}$


問題15-4
次の極限を求めよ。
(1) $\lim_{x\to 0}\left(\frac{1}{x\sin x}-\frac{1}{2(1-\cos x)}\right)$
(2) $\lim_{x\to 0}\frac{\tan x\cos x-x}{x^3}$

問題15-5
次の関数を3次の項までマクローリン展開しなさい。
(1) $f(x)=\frac{1}{1-\sin x}$
(2) $f(x)=\log\left(\frac{1-\cos x}{x^2}\right)$

問題15-6
以下の定積分を求めよ。
(1) $\int_0^{\infty}\frac{dx}{\sqrt{1+x^4}}$  (2) $\int_1^2\frac{1}{x+\sqrt{x-1}}dx$ (3) $\int_2^3\frac{x+1}{(x-1)^2}dx$

問題15-7
アステロイド $x^{\frac{2}{3}}+y^{\frac{2}{3}}=1$ の内部の面積を求めよ。


という問題でした。

問題15-1
(解答)
$A$ の上界の集合を $\mathcal{S}$ とする。$\sup(A)$ は $\mathcal{S}$ の最小値である。

空欄を埋めると、
$s$ が A の上界である。
$s’<s$ となる任意の $s’$ に対して、$s’<t$ となる $t\in A$ が存在する。

となります。
上限など今年やった内容としては、
物理学類第2回(リンク)
物理学類第3回(リンク)
数学類第2回(リンク)
数学類第3回(リンク)

があります。

問題15-2
(解答)
$a=\text{Arcsin} \frac{2}{3}$
$b=\text{Arcsin} \frac{4}{5}$
とおくと、$\sin a=\frac{2}{3}$ かつ $\sin b=\frac{4}{5}$ となり、
$\cos a=\frac{\sqrt{5}}{3}$ かつ $\cos b=\frac{3}{5}$ がなりたちます。
よって、
$$x=\sin (a+b)=\sin a\cos b+\cos a\sin b=\frac{2}{3}\frac{3}{5}+\frac{\sqrt{5}}{3}\frac{4}{5}=\frac{6+4\sqrt{5}}{15}$$
がなりたちます。



逆三角・双曲線関数やその問題についての内容は
物理学類第3回(リンク)
数学類第2回(リンク)
があります。

問題15-3
この問題はいつしかの宿題でもやりました。
(解答)
$(x^2+1)f'(x)=1$ であるので、この関係式を $n$ 回微分 ($n>0$) をすれば、
ライプニッツの公式から、
$$(x^2+1)f^{(n+1)}(x)+2nxf^{(n)}(x)+n(n-1)f^{(n-1)}(x)=0$$
が成り立つので、$x=0$ を代入して、
$f^{(n+1)}(0)+n(n-1)f^{(n-1)}(0)=0$
が成り立ちます。
ここで、$f^{(0)}(0)=0$ かつ、$f^{(1)}(0)=1$ であることに注意しておきます。

$n$ が偶数の場合、$n=2m$ とおくと、
$$f^{(2m)}(0)=-(2m-1)(2m-2)f^{(2m-2)}(0)=(-1)^2(2m-1)(2m-2)(2m-3)(2m-4)f^{(2m-4)}(0)=\cdots=(-1)^m(2m-1)!f^{(0)}(0)=0$$

また、
$n$ 奇数の場合、$n=2m+1$ とおくと、
$$f^{(2m+1)}(0)=-2m(2m-1)f^{(2m-1)}(0)=\cdots=(-1)^m(2m)!f^{(1)}(0)=(-1)^m(2m)!$$
となります。

ライプニッツの公式についての内容は、
物理学類第5回(リンク)
数学類第5回(リンク)

があります。

問題15-4
この問題はロピタルの定理もしくは、テイラー展開をして極限
を求める問題です。
(解答)
(1) 極限の中を通分すると、
$$\frac{2(1-\cos x)-x\sin x}{2x\sin x(1-\cos x)}$$
となり、不定形です。$x\to 0$ のときに、分母分子は $0$ に行きます。
分母の関数を $d(x)$ とおき、この関数が $x\to 0$ のときに関数の極限が
$0$ にいかなくなるまで微分し続けると、
$$d^{(4)}(x)=-8\cos x+32\cos^2 x+2x\sin x-32x\cos x\sin x-32\sin^2x$$
となります。
同じように、分子の関数を $n(x)$ とおき、この関数が $x\to 0$ のときに
$0$ にいかなくなるまで微分し続けると、
$$n^{(4)}(x)=2\cos x-x\sin x$$
となります。
ゆえに、$d^{(4)}(0)=-8+32=24$ であり、$n^{(4)}(0)=2$ であるので、ロピタルの定理より、
元の極限は、
$$\lim_{x\to 0}\frac{n(x)}{d(x)}=\frac{2}{24}=\frac{1}{12}$$
と計算できます。

(2) (略)同じようにロピタルの定理より証明できます。


ロピタルの定理については、
物理学類第6回(リンク)
数学類第6回(リンク)

また、マクローリン展開を用いて行う方法については、
物理学類第7,8回(リンク)
数学類第7回(リンク)
にあります。

問題15-5
(解答)
(1) まず、関数 $1/(1-x)$ のマクローリン展開
$$1+x+x^2+x^3+o(x^3)$$
を用いて、
$$\frac{1}{1-\sin x}=1+\sin x+\sin^2x+\sin^3x+o(\sin^3x)$$
となり、$o(\sin^3x)=o(x^3)$ であるので、
$$\frac{1}{1-\sin x}=1+\sin x+\sin^2x+\sin^3x+o(x^3)$$
となります。また、

$\sin x$ を3次の項までマクローリン展開すると、
$x-\frac{x^3}{6}+o(x^3)$ であるので、これを代入すると、

$$1+(x-\frac{x^3}{6}+o(x^3))+(x-\frac{x^3}{6}+o(x^3))^2+(x-\frac{x^3}{6}+o(x^3))^3+o(x^3)$$

となり、これを整理すると、
$$1+x+x^2+\frac{5}{6}x^3+o(x^3)$$
となる。

(2) $\log(x+1)$ のマクローリン展開は、
$$\log (1+x)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}+o(x^3)$$
です。よって、
$$\frac{1-\cos x}{x^2}=\frac{1}{2}-\frac{x^2}{24}+o(x^3)=\frac{1}{2}(1-\frac{x^2}{12}+o(x^3))$$
と展開できるので、これを上の式に代入して、
$$\log(\frac{1-\cos x}{x^2})=\log \frac{1}{2}(1-\frac{x^2}{12}+o(x^3))$$
$$=-\log 2+\log(1-\frac{x^2}{12}+o(x^3))$$
$$=-\log 2+(-\frac{x^2}{12}+o(x^3))-\frac{1}{2}(-\frac{x^2}{12}+o(x^3))^2+o(x^3)$$
$$=-\log 2-\frac{x^2}{12}+o(x^3)$$
と展開できます。

マクローリン展開については、
物理学類第7,8回(リンク)
物理学類第6回(リンク)
数学類第8回(リンク)
数学類第7回(リンク)
数学類第6回(リンク)

があります。


問題15-6
(解答)
(1) $\frac{1}{1+x^4}=t$ として、積分を置き直すと、
$x=(\frac{1-t}{t})^{\frac{1}{4}}$ となり、
$dx=-\frac{1}{4t^2}(\frac{1-t}{5})^{\frac{-3}{4}}dt$
であるので、これを代入して、ガンマ関数を用いて表すと、
$$\int_0^\infty\frac{dx}{\sqrt{1+x^4}}=\frac{4\Gamma(\frac{5}{4})^2}{\sqrt{\pi}}$$
となります。

(2) $t=\sqrt{x-1}$ とする。このとき、$x=t^2+1$ であり、$dx=2tdt$ であり、
$$\int_1^2\frac{1}{x+\sqrt{x-1}}dx=\int_0^1\frac{1}{t^2+1+t}2tdt$$
ここで、$s=\frac{2t+1}{\sqrt{3}}$ とおくと、$ds=\frac{2}{\sqrt{3}}dt$ であり、
$$\int_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^{\sqrt{3}}\frac{\sqrt{3}s-1}{\frac{3}{4}(s^2+1)}\frac{\sqrt{3}}{2}ds$$
$$=\frac{2}{\sqrt{3}}\int_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^{\sqrt{3}}\frac{\sqrt{3}s-1}{s^2+1}ds=\int_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^{\sqrt{3}}\frac{2s}{s^2+1}ds-\frac{2}{\sqrt{3}}\int_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^{\sqrt{3}}\frac{1}{s^2+1}ds$$
$$=\left[\log (s^2+1)\right]_{\frac{1}{\sqrt{3}}}^{\sqrt{3}}-\frac{2}{\sqrt{3}}\left(\text{Arctan}(\sqrt{3})-\text{Arctan}(\frac{1}{\sqrt{3}})\right)$$
$$=\log 4-\log\frac{4}{3}- \frac{2}{\sqrt{3}}(\frac{\pi}{3}-\frac{\pi}{6})=\log 3-\frac{\pi}{3\sqrt{3}}$$

(3) $$\int_2^3\frac{x+1}{(x-1)^2}dx=\int_2^3\left(\frac{1}{x-1}+\frac{2}{(x-1)^2}\right)dx=\int_1^2\left(t^{-1}+2t^{-2}\right)dt$$
$$=[\log t-2t^{-1}]_1^2=\log2-1+2=\log 2+1$$

問題15-7
面積の問題はやりませんでしたが、応用としてここで一問だけやっておきます。
(解答)
$x=\cos^3\theta$
$y=\sin^3\theta$
とパラメータ表示しておくと、$dx=3\cos^2\theta(-\sin \theta)d\theta$ となるので、求める面積を $S$ とすると、$S$ は関数 $y$ を $0$ から $1$ まで積分した値の $4$ 倍だから
$$S=4\int_0^1ydx=4\int_{\frac{\pi}2}^0\sin^3\theta3\cos^2\theta(-\sin\theta)d\theta$$
$$=12\int_0^{\frac{\pi}2}\sin^4\theta\cos^2\theta d\theta=12\int_0^{\frac{\pi}2}(\frac{1-\cos2\theta}{2})^2\frac{1+\cos2\theta}{2}d\theta$$
$$=\frac{3}{4}\int_0^\pi(1-\cos\theta)^2(1+\cos\theta)d\theta$$
ここで、$\phi=\theta-\frac{\pi}{2}$とおくと、
$$=\frac{3}{4}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(1-\cos(\phi+\frac{\pi}{2}))^2(1+\cos(\phi+\frac{\pi}{2}))d\phi$$
$$=\frac{3}{4}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(1+\sin\phi)^2(1-\sin\phi)d\phi$$
となります。ここで、積分区間が対称なので、奇関数は除いて考えると、
$$=\frac{3}{4}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}(1-\sin^2\phi)d\phi=\frac{3}{4}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\frac{1+\cos2\phi}{2}d\phi$$
ここで、$\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\cos2\phi d\phi=\frac{1}{2}\int_{-\pi}^\pi\cos\varphi d\varphi$
は、$\cos x$ の特徴から、$0$ となります。
よって、
$$S=\frac{3}{4}\frac{\pi}{2}=\frac{3}{8}\pi$$
となります。

2017年8月2日水曜日

微積分I演習(数学類)(第14回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今回は、微積分I演習の総復習を行い、特に新しいことはやりませんでした。
これまでの微積分I演習の内容は、

  • 数列の収束
  • 三角関数・逆三角関数・双曲線関数・逆双曲線関数
  • 上限
  • 微分・ランダウの記号
  • 高次導関数
  • 関数の極限(ロピタルの定理)
  • マクローリン展開・テイラー展開
  • テイラー展開を用いた関数の極限
  • べき級数展開
  • 剰余項
  • 部分分数展開と有理関数の積分
  • 無理関数の積分
  • 広義積分(収束発散と求め方)
  • ガンマ関数・ベータ関数
でした。8/2に試験(もう今日ですが)をします。
これらの中の話題を計算問題中心に出す予定です。


最後に、定積分を一つ計算しておきます。

$$\int_0^1\frac{xdx}{\sqrt{x+\sqrt{1-x}}}$$
です。

これは鉄則どうり、$t=\sqrt{1-x}$ と置きます。このとき、$x=1-t^2$ なので、$dx=-2tdt$ であり、求める積分は、
$$\int_1^0\frac{1-t^2}{\sqrt{1-t^2+t}}(-2t)dt=\int_0^1\frac{2t-2t^3}{\sqrt{1+t-t^2}}dt$$
ここで、$s=\frac{2t-1}{\sqrt{5}}$とおくと
$$\frac{1}{2\sqrt{5}}\int_{-\frac{1}{\sqrt{5}}}^{\frac{1}{\sqrt{5}}}\frac{(3+\sqrt{5}s)(1-5s^2)}{\sqrt{1-s^2}}\frac{\sqrt{5}}{2}ds$$
また、$s=\sin \theta$ とおき、$a=\text{Arcsin} \frac{1}{\sqrt{5}}$ とおくと、
$$=\frac{1}{4}\int_{-a}^{a}(3+\sqrt{5}\sin \theta)(1-5\sin^2\theta)d\theta$$
$$=\frac{3}{4}\int_{-a}^{a}(1-5\sin^2\theta)d\theta$$
最後の等式は積分区間が原点で対称なので、奇関数の部分 $\sin^3\theta,\sin\theta$ の部分
を除いた。
よって、これを積分してやると、

$$\int_0^1\frac{xdx}{\sqrt{x+\sqrt{1-x}}}=\frac{1}{4}\left(6-9\text{Arcsin}\left(\frac{1}{\sqrt{5}}\right)\right)$$
となります。

2017年7月31日月曜日

数学外書輪講I(第13回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今日は、

  • LangのSection VII (Symmetric Hermitian and Unitary Operators)をよみました。
Symmetric Operators

作用素(operator)とは、ベクトル空間 $V$ 上の自己線形写像 $V\to V$ のことを
いいます。自己とは、同じ $V$ の上に働く写像なのでそう呼んでいます。
$V$ 上の線形な作用ということもできます。

体 ${\mathbb K}$ をベクトル空間のスカラーとします。
このとき、写像 $V\times V\to {\mathbb K}$ であって、
以下を条件を満たすものを考えます。
ただし、この写像は、$(u,v)\in V\times V$ に対して、$\langle u,v\rangle\in {\mathbb K}$ 
として書きます。

$\forall u,v,w\in V$かつ $\forall c\in {\mathbb K}$ に対して
(i) $\langle u,v\rangle =\langle v,u\rangle$
(ii) $\langle u+v,w\rangle=\langle u,w\rangle+\langle v,w\rangle$ 
(iii) $\langle cu,v\rangle =\langle u,cv\rangle=c\langle u,v\rangle$

この3つの条件を満たす写像 $V\times V\to {\mathbb K}$ のことを
内積(scalar product)といいます。
内積というと、正定値 ($v\in V$ かつ $v\neq 0$ のとき、$(v,v)>0$ ) 
という条件も付随している場合もありますが
この本の場合では仮定していません。
正定値を満たす内積のことは、正定値内積、負定値($v\in V$ かつ $v\neq 0$ のとき、$(v,v)<0$ )
の内積のことを負定値内積といいます。
また、定値(正定置もしくは負定値)でない内積のことは、不定値内積
と言います。相対論で出てくるミンコフスキー計量は、
不定値内積です。

内積をもつベクトル空間のことを内積空間といいます。

また、ベクトル空間 $V$ の双対空間を $V$ からスカラー ${\mathbb K}$ への
線形写像全体の空間を $V^\ast$ とかき、$V$ の双対空間といいます。

つまり、$V^\ast=\{f:V\to {\mathbb K}|f\text{は線形写像}\}$
です。また、この本では、$f\in V^\ast$ のことをfunctional (関数)と言っています。

$w\in V$ をとります。

$V\to V^\ast$ を
$v\in V$ に対して、$\langle v,w\rangle\in {\mathbb K}$ を対応させることで、$V^\ast$
の元を定めることができます。それを、$f_w$ とします。
つまり、$f_w(v)=\langle v,w\rangle$  です。
$w$ から $f_w$ への対応

$$w\mapsto f_w$$
は、写像 $V\to V^\ast$ を定めます。

また、スカラー積が非退化(non-degenerate)であるとは、
この写像 $V\to V^\ast$ が同型写像であるときをいいます。

ベクトル空間の間の写像 $V\to W$ が同型であるとは、この写像が線形写像かつ、
全単射であることをいいます。
有限次元ベクトル空間の間に同型写像が存在すれば、特に次元は等しくなります。

また、$L(v)=\langle Av,w\rangle$ とおきますと、$L$ は、$L\in V^\ast$ であるので、
先ほどの同型写像 $V\to V^\ast$ から、$w’\in V$ が一意的に存在して、
$L(v)=\langle v,w’\rangle$ を満たします。

よって、$w$ から $w’$ が一意的に決められるので、
$w\mapsto w’$ は、写像 $V\to V$ を与えます。

この写像を $w’=B(w)$ としておくと、
$$\langle Av,w\rangle=\langle v,B(w)\rangle$$
となります。この写像 $B$ は線形写像であることがわかります。
この写像$B$ を $A$ の転置(transpose) といい、${}^tA$ と書きます。
また、$A={}^tA$ であるような作用素を対称作用素(symmetric operator)といいます。

この状況を複素数上の内積(${\mathbb C}^n$ では、${}^tX\cdot \bar{Y}$ )
に置き換えて得られる同様の作用素は、
随伴作用素(Hermitian oparatorもしくはself-adjoint operator)といいます。

複素数上の内積では、$\langle v,aw\rangle=\bar{a}\langle v,w\rangle$
となるので注意が必要です。 

2017年7月29日土曜日

微積分I演習(物理学類)(第14回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今回は、

  • 微積分の総復習
を行いました。


宿題の解答を見ていて、気づいたことをかいておきます。

積分計算をしていて、ある関数が三角関数で置換することが予測されたとき、
$\sin x$ とおくより $\cos x$ を置いた方がよい場面も
あってその選択を間違えてしまうと、迷い道に入ってしまうことがあります。

言いたいことは、この分かれ道はあとでちゃんと簡単に合流できます。
ということです。

どういうことかというと、例えば、

$\int_0^1(1-x^2)^{\frac{n-1}{2}}dx$ を計算するのに、
$x=\sin t$ と置換すると、$dx=\cos tdt$ となり、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\cos^n  dt$$
となります。
一方、$x=\cos t$ と置換すると、$dx=-\sin tdt$となり、
$$-\int_{\frac{\pi}{2}}^0\sin^n  dt=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^n tdt$$
となり、置換の仕方を変えることで、$\sin$ と $\cos$ が逆になってしまいました。


しかし、$\sin$ と $\cos$ は $\frac{\pi}{2}$ で対称な関数なので、
$t=\frac{\pi}{2}-x$ と置換してやることで、
すぐに $\sin$ を $\cos$ に変換してやることができます。

この変換を用いることで、
一般に $f(x)$ を連続関数(もっと一般に、積分できる関数でも)として、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(\sin x)dx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(\cos x)dx$$
が成り立ちます。
例えば、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin(\sin x)dx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin(\cos x)dx$$
なども示せるわけです。

また、授業中出した問題の中で、宿題として出した問題に少々問題あったようです。
授業の中で質問を受けたので、ここで書いておきます。

$\int_0^1\frac{x^5dx}{1+x^7}$ をガンマ関数によって表せという問題ですが、
例えば、積分区間を変えて、$\int_0^\infty\frac{x^5dx}{1+x^7}$ という積分なら、
$\frac{1}{1+x^7}=t$ とおいてやることで、
$x^7=\frac{1-t}{t}$ となり、$dt=-\frac{7x^6}{(1+x^7)^2}dx=-7(\frac{1-t}{t})^{\frac{6}{7}}t^2dx$
$$\int_0^\infty\frac{x^5dx}{1+x^7}=-\frac{1}{7}\int_1^0(\frac{1-t}{t})^{\frac{5}{7}}t(\frac{t}{1-t})^{\frac{6}{7}}t^{-2}dt=\frac{1}{7}\int_0^1t^{\frac{-6}{7}}(1-t)^{-\frac{1}{7}}dt=\frac{1}{7}B\left(\frac{1}{7},\frac{6}{7}\right)=\frac{1}{7}\Gamma\left(\frac{1}{7}\right)\Gamma\left(\frac{6}{7}\right)=\frac{\pi}{7\sin \frac{\pi}{7}}$$
とすることができます。

しかし、この問題の場合 $0$ から $1$ までの積分ですから、そういうわけにも
行かなかったかと思います。
そういうわけで、以下のようにします。

$t=x^7$ と置換をします。このとき、$dt=7x^6dx=7t^{\frac{6}{7}}dx$ となり、
$$\int_0^1\frac{x^5}{1+x^7}dx=\frac{1}{7}\int_0^1\frac{t^{\frac{5}{7}}}{1+t}t^{-\frac{6}{7}}dt$$
$$=\frac{1}{7}\int_0^1t^{-\frac{1}{7}}\frac{1}{1+t}dt$$
となります。
ここで、$\frac{1}{1+t}=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2^{n+1}}(t-1)^n=\sum_{n=0}^\infty \frac{1}{2^{n+1}}(1-t)^n$ とします。
そうすると、
$$\frac{1}{7}\int_0^1t^{-\frac{1}{7}}\frac{1}{1+t}dt=\frac{1}{7}\int_0^1\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}} t^{-\frac{1}{7}}(1-t)^{n}dt$$
$$=\frac{1}{7}\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}}\int_0^1t^{-\frac{1}{7}}(1-t)^ndt=\frac{1}{7}\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}} B\left(\frac{6}{7},n+1\right)$$

とすることができます。
このように、無限個のベータ関数によってかけることはわかりましたが、実際、
有限個のベータ関数の和にかけるかどうかはよくわかりません。

またさらに、
$$\frac{1}{7}B\left(\frac{6}{7},n+1\right)=\frac{\Gamma(\frac{6}{7})\Gamma(n+1)}{7\Gamma(\frac{6}{7}+n+1)}$$
$$=\frac{n!\Gamma(\frac{6}{7})}{7(\frac{6}{7}+n)(\frac{6}{7}+n-1)\cdots \frac{6}{7}\Gamma(\frac{6}{7})}=\frac{n!7^{n}}{\prod_{k=0}^n(7k+6)}=\frac{(7n)!_7}{(7n+6)!_7}$$

とかけます。
ここで、多重階乗 $n!_k$ は $n!_k=n\cdot(n-k)!_k$
かつ $n!_k=n $  ($0<n\le k$)として帰納的に定義します。
つまり、$n!=n!_1$ で、$n!!=n!_2$ や $n!!!=n!_3$ を意味します。

よって、

$$\int_0^1\frac{x^5}{1+x^7}dx=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}}\frac{(7n)!_7}{(7n+6)!_7}$$
とかけます。

ここでの大きな問題は、極限と積分の順序交換ですが、ここでは詳しく
述べないことにします。

交代級数定理

また、授業中に述べた交代級数の定理について少しいいまちがえたので
訂正します。正しくは、こうです。

定理
$a_n (n=0,1,2,...)$ が正項の数列とする。$a_n$ が単調減少しながら $0$ に収束するとする。
このとき、$\sum_{n=0}^\infty (-1)^na_n$ は収束する。


この定理の証明は授業中述べた通りです。
$s_n=\sum_{k=0}^na_k$ とすると、区間 $I_n=[s_{2n+1},s_{2n}]$ は、
$I_n\supset I_{n+1}$ を満たしながら $I_n$ の幅は $a_n$ の条件から
ゼロに収束していきます。
そのとき、求められる収束先の実数が交代級数の収束値ということになります。

2017年7月28日金曜日

微積分I演習(数学類)(第13回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今回は
  • 広義積分の収束について
をもう一度やりました。

広義積分

広義積分 $\int_a^bf(x)dx$ はうまく積分できる(できない)部分をふるい出すことが
必要です。


$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log \sin xdx$ が広義積分できるかどうかの判定
をします。


問題の1つ目は、どこで広義積分が起こっているか?をみることです。

そのため、積分区間の間で無限大に発散するところを探します。

この例の場合、$x\to 0$ において、$\log\sin x\to -\infty$ となります。
なので、$x=0$ において、この積分は広義積分になっています。
それ以外の点では、通常の積分であり、有限区間、かつ連続関数なので、
積分可能です。


問題の2つ目は広義積分が可能かどうかの見極めですが....

$x=0$ で積分できるかを考えます。
まず、
$\log \sin x=\log x+\log\frac{\sin x}{x}$ をして、$\log x$ の部分を無理やりくくり出します。

どうしてこのようにするのか?というと、$\sin x$ は、
$x=0$ の近くで、$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\cdots$ のようにテイラー展開ができます。
$x=0$ の中で積分の収束の判定にはそのトップの項 $x$ が必要なので、
その部分をくくりだそうとしたのです。
($\log \sin x$ より、$\log x$ の方が収束の判定としては計算しやすいので
その部分に置き換えたいということもできます。)

また、$x$ をくくり出した残り、$\log \frac{\sin x}{x}$ が積分可能かどうかですが、
$x\to 0$ において、$\frac{\sin x}{x}\to 1$ なので、$x\to 0$ において
$\log\frac{\sin x}{x}$ も有限な値 $0$ に近づきます。なので、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin x}{x}dx$ は通常の積分と思えるわけです。

このことから、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log \sin xdx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx+\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log\frac{\log x}{x}dx$$
のうち、前者 $\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx$ の広義積分可能性を考えれば
良いことになります。

しかし、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx$ は、そのまま積分してやると、
$$\lim_{\epsilon\to 0}\left[x\log x-x\right]_\epsilon^{\frac{\pi}{2}}$$
となります。問題は、$\lim_{x\to 0}x\log x$ の存在ですが、
ロピタルの定理を用いてやると、

$$\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{\frac{1}{x}}{-\frac{1}{x^2}}=0$$
がいえるので、結局、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx=\frac{\pi}{2}\left(-1+\log\frac{\pi}{2}\right)$ ということになります。


このようなくくり出しの議論により、
$\int_0^{\frac{\pi}{4}}\log(\tan x)dx$ や、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\text{Arcsin} x)dx$
の収束の証明もすることができます。


例2
$a,b,c>0$ のとき、
$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt[a]{x^b(1-x)^c}}$ の広義積分の収束判定をせよ。

この例の場合も、$x=0,1$ の両方で無限大に発散するので、この場所で広義積分
となります。
次は広義積分の場所を探した後、広義積分の見極めです。
前の例のように、くくり出すのは大変そうです。
なので、関数比較(優関数法)を行いましょう。

まず、この積分は、$t=1-x$ とおくと、
$$\int_0^1\frac{dt}{\sqrt[a]{t^c(1-t)^b}}$$
となり、$b,c$を入れ替えたものになるので、$x=0$ のときだけ
行えば十分です。

$x=0$ のときの広義積分の収束判定を行います。
$$\frac{\frac{1}{\sqrt[a]{x^b(1-x)^c}}}{\frac{1}{\sqrt[a]{x^b}}}=\frac{1}{\sqrt[a]{(1-x)^c}}$$
となり、$0<x<1/2$ のように $x=0$ の十分近くで考えると、
この値は、$\sqrt[a]{2^c}$ 以下になります。
つまり、

$$|\frac{1}{\sqrt[a]{x^b(1-x)^c}}|\le \frac{\sqrt[a]{2^c}}{\sqrt[a]{x^b}}$$
なる不等式が成り立ちます。

ここで、
$$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{dx}{x^{\frac{b}{a}}}$$
が収束するための必要十分条件は、$\frac{b}{a}<1$ です。
これは、そのまま広義積分の定義通りに積分しても求めることができます。

結局、元々あった条件も加えれば、$0<b<a$ ということになります。
これを$c$ に置き換えた、$0<c<a$ も成り立つということになります。


(参考)
この積分はベータ関数になおすことができて、
$B(\frac{-b}{a}+1,\frac{-c}{a}+1)$ とすることができます。
なので、ベータ関数の収束域から、$b<a$ かつ、$c<a$ とすることもできます。

2017年7月27日木曜日

数学外書輪講I(第12回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今回は、

  • 33-Miniature のMiniature 4
  • LangのVII章
を読みました。

Miniature 4 (Same-Size Intersections)

この話は、極値集合論の話です。
前回も書いたように、ある集合の中で与えられた条件を満たす部分集合の
うち、最大、最小を満たす部分集合について研究するものを
極値集合論といいました。



しかし、最後に書くように、組み合わせ論のデザイン理論の一部(の変種)でもあります。

Miniature 3で出てきた定理以下のようなものでした。

定理(Miniature 3)
$n$ 点集合の部分集合 $C_i\ \ (i=1,...,m)$ を以下のようにとる。
  • $|C_i|$ は奇数
  • $|C_i\cap C_j|$ は偶数
(ただし、集合の絶対値はその集合に含まれる元の個数とする。)
このとき、$m\le n$ である。



つまり、そのような $n$ 点集合の部分集合は、
重複を除いてたかだか $n$ 個しかとれないということになります。


Miniature 4でのセッティングでの定理は以下のようになります。

定理(Miniature 4)
ある $n$ 点集合の相異なる部分集合 $C_i\ \ \ (i=1,...,m)$ があったときに、
$|C_i\cap C_j|$ が一定数 $t$ であれば、$m\le n$ が成り立つ。


証明は以下のようにしてできます。

(証明の概略)
Miniature 3と同様に、$a_{ij}$  を $1$ if $j\in C_i$ かつ、$0$ if $j\not\in C_i$ として
定義して、$A=(a_{ij})$ とおくと、$A$ は $m\times n$ 行列ができる。

ある $i$ に対して $|C_i|=t$ となる場合と、任意の $i$ に対して $|C_i|>t$ となる場合と
場合分けが必要。

後者の場合は、行列 $A\cdot A^T$ を、$B$ としてその成分を $(b_{ij})$ とすると、
$B$ は $m\times m$ 行列で、$b_{ii}=|C_i|$ であり、$B_{ij}=|C_i\cap C_j|$ となり、
$m=\text{rank}(B)\le \text{rank}(A)\le n$ がいえる。


このような不等式のことをフィッシャーの不等式(Fisher’s inequality)と呼びます。
これは、組み合わせ論におけるブロックデザイン(block design)の分野の初歩に出てくる
不等式です。

ブロックデザイン
有限集合 $\mathcal{P}$ と有限集合 $\mathcal{B}$ が与えます。
$\mathcal{P}$ を点の集合とよび、$\mathcal{B}$ をブロックの集合といいます。
また、$\mathcal{P}$ と $\mathcal{B}$ に、ある関係(incidence)があり、
それを、$\mathcal{I}\subset \mathcal{P}\times \mathcal{B}$ とします。
このとき、$B\in \mathcal{B}$ が以下を満たすとき、
デザイン(もしくは、2-デザイン)といいます。
$\mathcal{P}$ の要素のことを点ということにします。

  • $|\mathcal{P}|=v$
  • 任意のブロック $B\in \mathcal{B}$ に対して、$(p,B)\in\mathcal{I}$ となる(incidentな)点は $k$ 個
  • 任意の 2点 $x,y\in \mathcal{P}$ に対して、$x,y$ を共にincidentなブロックはちょうど $\lambda$ 個
このようなデザインを 2-$(v,k,\lambda)$ デザインといいます。

また、この3番目の条件の任意の2点を任意の相異なる $t$ 個の点
とき、$t$-$(v,k,\lambda)$-デザインといいます。

この状況の時、フィッシャーの不等式とは、$k\ge v$ を満たします。
証明は上で書いたものと同じです。


この、Same-Size Intersections にでてくる状況はいわゆるデザインではありませんが、
それに似た状況です。
$X=\{C_i\}$ とし、$B_i=\{x\in X|x\in C_i\}$ としておくと、

$C_i$ に含まれる点(ブロックに相当する)全体の数は、
一定ではありませんので、上の定義でいうデザインではありません。

Matousekの本では、
場合分けの後者の状況で、$C_i,C_j\in \mathcal{P}$ に対して、$C_i$ と $C_j$ と共通して
incidentな点全体は、$C_i\cap C_j$ に一致しますので、デザインの2番目の条件が
成り立っています。
なので、$C_i$ に入る点全体が一定数であれば、2-デザインということになります。

フィッシャーの不等式(Fisher’s inequality)自体、一つのブロックに関係する点が一定でなくても成り立ちます。これは今回の内容でした。
そういう意味で、この不等式を一般化されたフィッシャーの不等式(Generalized Fisher’s inequality)と呼んでいます。


射影平面

ブロックデザイン応用例で一番よく出てくるのは、有限射影幾何です。
有限個の点に対して射影幾何を考えることができます。

詳しくは、下の、参考文献かその文献にあたってみるとよいと思います。

射影平面の公理とは、
  1. 任意の相異なる2点はただ一つの直線で結ばれる。
  2. 相異なる2直線の交わりは、ただ一つの点である。
  3. どの3点も一直線上にない4点が存在する。
をいいます。
射影空間を考えることもできますが、その場合は、任意の部分空間をブロックとすること
で定義ができます。

射影平面を有限集合とすると、ある自然数 $n$ に対して、
2-$(n^2+n+1,n+1,1)$-デザインになります。
この $n$ のことを射影平面の位数(order)といいます。

そもそも射影空間とは、ベクトル空間の直線全体の空間をいいます。
射影空間を有限集合として考えているので、体は有限体となりますが、
ここではもっと一般に、上の公理にあう有限集合ならばかまいません。

有限射影平面の標準的な例は、有限体 ${\mathbb F}_q$ の3次元ベクトル空間の中の
直線全体があります。これをデザルグ平面といいます。記号では
$PG(2,q)$ と書きます。

例えば、$q=2$ の場合だと、
ベクトル空間 $V={\mathbb F}_2^3$ における直線は、ゼロでないベクトル全体と
同じです。というのも、$0$ でない元でスカラー倍することは、$1$ をかけることになる
ので、$V$ 上の直線全体は、次の、7つの元

$[x,y,z]=[0,0,1], [0,1,0],[0,1,1],[1,0,0],[1,0,1],[1,1,0],[1,1,1]$ と同じになります。
つまり、$|PG(2,2)|=7$ です。

また、平面上では、相異なる2直線は、一点で交わることが要請されます。

よって、$PG(2,2)$ 上の直線(ブロック)は、一つの平面を表します。
なので、平面は、$z=0,y=0,y+z=0, x=0,x+z=0,x+y=0,x+y+z=0$ の7つになります。

(ブロックデザインの定義のところで、点とブロックを入れ替えた条件がそれぞれ、
対応する個数が等しくなるとき、対称デザインといいます。
例えば、任意の点に関係するブロックは $k$ 個となる。)

このとき、一つの平面に入る直線は、3つになります。例えば、$z=0$ に入る直線は
$[1,0,0],[0,1,0],[1,1,0]$ です。

また、相異なる2直線 ($V$ 上では2平面) の交わりは、1つの点 ($V$ では1つの直線)
を定めます。
よって、$PG(2,2)$ は 2-(7,3,1)-デザインだということがわかりました。


問題は、有限射影平面は全てデザルグ的か?ということですが、じつは
そうではありません、ここでは書ききれないくらい、非デザルグ的な
射影平面が存在します。それは、下の参考文献をみてください。

(しかし、3次元以上の有限射影空間はデザルグ的であることは古くから知られている。
例えば、参考文献の2つ目をみよ)

そこでも、多くの面白い幾何学があるようです。
例えば、射影平面として実現できるorderは素べきか?
という問題がありますが、未だ解決していません。


また、以前のMotousekででてきたコーディング(error detecting codes)の話も、
このブロックデザインを使った応用もあります。コードの
文字が位数が2の有限体だったことを思い出してください。

コーディングを用いて有限射影平面へ応用することもできるようです。


参考文献
  • 平峰豊, 有限射影平面概観, 数理解析研究所講究録1214(2001)46-61 (リンク)
  • P. Dembowski, Finite Geometries, Springer-Verlag, Berlin, 1997. xii+375 pp. ISBN: 3-540-61786-8 

微積分I演習(物理学類)(第13回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今回は、去年の微積分I演習の過去問を解きました。

積分値

$$\int_0^1x^2\log xdx$$
の積分について。
まず、ロピタルの定理を使って、
$$\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{\frac{1}{x}}{-\frac{1}{x^2}}=-\lim_{x\to 0}x=0$$
が求まります。$n\ge 1$のときに、
よって、$\lim_{x\to 0}x^n\log x=\lim_{x\to 0}x^{n-1}x\log x=0$ となります。

$$\int_0^1x^2\log xdx=\left[\frac{x^3}{3}\log x\right]_0^1-\int_0^1\frac{x^2}{3}dx$$
$$=\left[\frac{x^3}{3}\log x\right]_0^1-\int_0^1\frac{x^3}{3}\frac{1}{x}dx=-\frac{1}{3}\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^1=-\frac{1}{9}$$


また、積分 $\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx$ は、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx=\left[-\cos x\sin^2x\right]_0^{\frac{\pi}{2}}+\int_0^{\frac{\pi}{2}}2\sin x\cos^2xdx$$
$$=2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin x(1-\sin^2x)dx$$
$$=2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin xdx-2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx$$
よって、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx=\frac{2}{3}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin xdx=\frac{2}{3}\left[-\cos x\right]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{2}{3}$$

このようにしていけば、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx$ を求めるには、$\int_0^{\frac{\pi}
2}\sin^{n-2}xdx$ を求めることに帰着されます。

または、
$\cos x=t$ と $dt=-\sin xdx$ とすると、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}(1-\cos^2x)\sin xdx=-\int_1^{0}(1-t^2)dt$$
$$=\left[t-\frac{t^3}{3}\right]_0^{1}=\frac{2}{3}$$

のように計算できます。
この手法は $\sin $ または $\cos$ の指数が奇数の場合だけ計算できます。
偶数の場合は、


$\int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}$ を計算します。
$\sqrt{x}=t$ とすると、$dx=2tdt$ とすると、
$$\int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}=\int_0^1\frac{2tdt}{t^2+t}=2\int_0^1\frac{dt}{1+t}=2\log2 $$
となります。

ここで、約分できることを忘れずに。
この約分せずに部分分数展開をすると、広義積分は収束しません。

$$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$$

の積分可能性について。

この積分は、今学期は本当によく出てきました。


優関数では、$0<x<\frac{1}{2}$ とすると、
$$|\frac{\sqrt{x}}{\sqrt{x(1-x)}}|=\frac{1}{\sqrt{1-x}}\le \frac{1}{\sqrt{1-\frac{1}{2}}}=\sqrt{2}$$
よって、$|\frac{1}{\sqrt{x(1-x)}}|\le \frac{1}{\sqrt{1-x}}$

また、$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{x}}dx=2$
であるから、$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$ は広義積分可能となります。

同じように、$\int_{\frac{1}{2}}^1\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$ は広義積分可能が言えるので、
これらの結果を合わせることで広義積分
$$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$$
が可能となる。