2017年4月30日日曜日

微積分I演習(物理学類)(第3回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今日は

  • 逆三角関数
  • 双曲線関数
  • 逆双曲線関数
  • 不等式
についてやりました。
小テストについてまとめておきます。
集合の上限を求める問題、不等式を作る問題を作りました。
結果は、頑張って挑んでもらった結果、あまりよくありませんでした。

最初は $\sqrt{1-\frac{1}{n}}$ の上限が $1$ であることを求める問題でした。

やることは、$1$ が上界であり、1よりちいさい任意の $s$ が
上界でないことを示すことです。

1が上界であることは、$\sqrt{1-\frac{1}{n}}<1$ であることからわかりますが、
$\forall s<1$ が上界でないことは、$s<1$ において、$s<\sqrt{1-\frac{1}{n}}$ となる
実数が存在することを示すことになります。
$s<\sqrt{1-\frac{1}{n}}$ を満たす条件は、$\frac{1}{1-s^2}<n$ ですが、
このような $n$ の存在はアルキメデスの原理です。

$s\le 0$ となる $s$ は明らかに $s$ は $E$ の上界ではありません。

次に、$\sum_{n=0}^\infty \frac{1}{n!}$ の有界性の問題です。
このような無限級数の有界性はよく知っている無限級数に帰着させることでうまくいきます。

この場合は、
$n>3$ のとき、$\frac{1}{n!}<\frac{1}{2^n}$ が成り立ちます。
よって、
$\sum_{n=0}^m\frac{1}{n!}=1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{6}+\sum_{n=4}^m\frac{1}{n!}<\frac{8}{3}+\sum_{n=4}^m\frac{1}{2^n}=\frac{19}{24}+\sum_{n=0}^m\frac{1}{2^n}=\frac{19}{24}+2(1-(\frac{1}{2})^{m+1}<\frac{19}{24}+2$

実際、この無限級数の和は自然対数 $e$ になりますが、この授業が全て
終わった頃には、それはほとんどの学生が理解できていると思います。

最後の問題は、不等式 $\frac{{}_nC_k}{n^k}<\frac{{}_{n+1}C_k}{(n+1)^k}$ の証明です。
これは分母と分子を別々にみてもよくわかりません。
$n$ を $n+1$ に変えて大きくなる表示に持っていくことが必要です。

$\frac{{}_nC_k}{n^k}=(1-\frac{1}{n})(1-\frac{2}{n})\cdots (1-\frac{k-1}{n})$ ですが、
この $n$ を $n+1$ に直すと、大きくなりますので、

$\frac{{}_nC_k}{n^k}<(1-\frac{1}{n+1})(1-\frac{2}{n+1})\cdots (1-\frac{k-1}{n+1})$ となり、
この右辺は、$\frac{{}_{n+1}C_k}{(n+1)^k}$ となります。




逆三角関数

三角関数 $y=\sin x$, $y=\cos x$, $y=\tan x$ に対して、その逆関数を

$y=\text{Arcsin}(x)$, $y=\text{Arccos}(x)$, $y=\text{Arctan}(x)$

とします。この関数の定義域は前半2つは $-1$ から $1$ ですが、
$\text{Arctan}(x)$ は実数全体です。
また、三角関数が周期関数であるので、三角関数の単調な部分を持ってきて、
逆関数をつくるとき、どの部分を持ってくるのかは一般にする方法はありませんが、
三角関数の場合には、教科書にあるようにいつも同じ方法で持ってきます。

$\text{Arcsin}(x)$ の値域は、$-\frac{\pi}{2}\le y\le \frac{\pi}{2}$ のもの。
$\text{Arccos}(x)$ の値域は、$0\le y\le \pi$  のもの。
$\text{Arctan}(x)$ は、$\tan(x)$ の$-\frac{\pi}{2}\le x\le\frac{\pi}{2}$ の部分の逆関数を
とります。

今日は、この逆三角関数を使って演習を行いました。

(例) $\text{Arcsin}(x)=\text{Arccos}(2x)$ となる $x$ を求めます。

この両辺を $y$ とおくと、$\sin y=x$ かつ $\cos y=2x$ です。
ここで、$y$ を消去すると、$x^2+4x^2=1$ となります。
よって、$x=\pm\frac{1}{\sqrt{5}}$ となります。
ここで、$\text{Arcsin}(\pm\frac{1}{\sqrt{5}})=\pm\text{Arcsin}(\frac{1}{\sqrt{5}})$
ですが、$\text{Arccos}(x)$ の値域は正の数なので、$x=\frac{1}{\sqrt{5}}$ となります。

双曲線関数

双曲線関数を、$\sinh(x)=\frac{e^{x}-e^{-x}}{2}, \cosh(x)=\frac{e^x+e^{-x}}{2}$ $\tanh(x)=\frac{\sinh(x)}{\cosh(x)}$ 
と定義します。

またこの関数の逆関数は逆双曲線関数といい、
$\text{Arsinh}(x), \text{Arcosh}(x), \text{Artanh}(x)$ と書きます。
本によって $\text{Arcsinh}(x)$ などと書く場合もありますが、
今回は c を抜かした表記に統一しました。

これらの関数は、
$\cosh^2(x)-\sinh^2(x)=1$ や $1-\tanh^2(x)=\frac{1}{\cosh^2(x)}$ が成り立ちます。
これらの関数は三角関数と似た形の式が満たされています。

逆双曲線関数

双曲線関数の逆関数は逆双曲線関数といいます。
それらは、$\text{Arsinh}(x)$  $\text{Arcosh}(x)$, $\text{Artanh}(x)$ と書きます。

これらの逆関数を使って問題を解いてもらいました。

(例)次の関数を簡単にしなさい。

$\tanh(2\text{Arsinh}(\frac{x}{2}))$ 

(解答) 
$y=\text{Arsinh}(\frac{x}{2})$ とます。
このとき、$\sinh(y)=\frac{x}{2}$ となります。
$\tanh(y)=\frac{\sinh(y)}{\cosh(y)}=\frac{\sinh(y)}{\sqrt{1+\sinh^2(y)}}=\frac{\frac{x}{2}}{\sqrt{1+\frac{x^2}{4}}}=\frac{x}{\sqrt{4+x^2}}$
$\tanh(2y)=\frac{2\tanh(y)}{1+\tanh^2(y)}=\frac{2\frac{x}{\sqrt{4+x^2}}}{1+\left(\frac{x}{\sqrt{4+x^2}}\right)^2}=\frac{\frac{2x}{\sqrt{4+x^2}}}{1+\frac{x^2}{4+x^2}}=\frac{2x\sqrt{4+x^2}}{(4+x^2)+x^2}$
$=\frac{x\sqrt{4+x^2}}{2+x^2}$

となります。


不等式

不等式の処理の仕方について教えました。
上に書いたような方法では、

$n>3$ のとき、
$n!=n(n-1)(n-2)\cdots 2\cdot 1>2\cdot 2\cdot 2\cdots 2\cdot 2=2^n$
などがありました。

しかし、授業でも言ったように、この不等式では、
$\frac{1}{\sqrt[n]{n!}}\to 0$ であることは、示されません。
これは、微積分Iが終わる頃には、収束半径の公式(をもし勉強すれば)すぐわかるのですが、
今の段階ではこの説明はできません。

次のような不等式の処理ではこんな解答もあり得ます。

$\sqrt[n]{n!}$ がいくらでも大きくなることを示します。
つまり、$M$ を十分大きい任意の実数とし、$n$ を十分大きい任意の整数として、
$\sqrt[n]{n!}>M$ とできることを示します。

例えば、1より大きい任意の $M$ に対して $\frac{n}{2}>M^2$ となる $n$ を任意に
とります。

このとき、$n$ が偶数なら

$$n!=n(n-1)\cdots (\frac{n}{2}+1)\frac{n}2\cdots 2\cdot 1>n(n-1)\cdots (\frac{n}{2}+1)$$
$$>M^2\cdot M^2\cdots M^2=M^n$$

となる。よって、$\sqrt[n]{n!}>M$ となる。

$n$が奇数なら


$$n!=n(n-1)\cdots \frac{n+1}{2}(\frac{n-1}2-1)\cdots 2\cdot 1>n(n-1)\cdots \frac{n+1}{2}$$
$$>M^2\cdot M^2\cdots M^2=M^{n+1}>M^n$$

どちらにしても、$\sqrt[n]{n!}>M$ がいえます。


2017年4月26日水曜日

微積分I演習(数学類)(第2回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今日は、関数について以下の項目
  • 逆三角関数
  • 双曲線関数
  • 逆双曲線関数
  • 連続関数
についてやりました。

数列の収束について

先週の続きだったのですが、多くの人は有界単調増加な数列は収束することを
使ってできていました。

ただ、中には単調ではない数列もありました。

例えば、$n^{\frac{1}{n}}$ は単調数列ではありませんが、収束します。
$a_1=1,\ a_2=1.41421...,\ a_3=1.4425...,\ a_4=1.41421...$
$a_5=1.37973...,\ a_6=1.34801....\ a_7=1.32047....$

となります。なんとなく、$n\ge 3$ の場合単調に減少して収束するようです。
数列が収束するには、$a_n$ は $n$ が十分大きい部分で単調減少で、下から
有界であることを示せればよいことに注意しておきます。

つまり、$a_n=n^{\frac{1}{n}}$ のとき、$a_{n+1}^{n(n+1)}=(n+1)^n<n^{n+1}=a_n^{n(n+1)}$
が $n\ge 3$の場合に成り立つことを示せばよいことになります。

命題
$n\ge 3$ のとき、$(n+1)^n<n^{n+1}$ が成り立つ。


(証明)
$$(n+1)^n=\sum_{k=0}^n{}_nC_kn^{n-k}$$
であり、${}_nC_k=\frac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{k(k-1)\cdots 2\cdot 1}\le\frac{n^k}{k!}$ であるので、
任意の $k$ において
$${}_nC_kn^{n-k}\le \frac{n^k}{k!}n^{n-k}=\frac{n^n}{k!}$$
となります。

よって、$(n+1)^n\le n^n\sum_{k=0}^n\frac{1}{k!}$ となります。
今、$n\ge 3$ であるとすると、
$\sum_{k=0}^n\frac{1}{k!}\le 2+\frac{1}{2}+\frac{1}{6}+\sum_{k=4}^n\frac{1}{k!}=2\frac{2}{3}+\sum_{k=4}^n1<n$

ゆえに、$(n+1)^n\le n^n\cdot n=n^{n+1}$ が成り立つ。



また、$1+\frac{(-1)^n}{n}$ などの数列の収束をいう問題
もありましたが、次の定理を使いましょう。
証明はいまのところしません。

定理1
$S_1,S_2$ を ${\mathbb N}$ の無限部分集合で、${\mathbb N}=S_1\cup S_2$
であり、$S_1\cap S_2=\emptyset$ を満たすとする。
$a_n$ の部分数列 $\{a_n|n\in S_1\}$ と $\{a_n|n\in S_2\}$ とする。
それを順番に並びかえた数列を $b_n, c_n$ とする。
このとき、$b_n,c_n$ がそれぞれ、単調減少数列、単調増加数列とする。
さらに、$b_n\to \alpha$, $c_n\to \alpha$ とすると、$a_n$ は収束する。


上の数列について、$b_n=a_{2n}$, $c_n=a_{2n-1}$ とします。
$b_n, c_n$ はそれぞれ、単調減少、単調増加です。
それぞれ、1が下限、上限なので、上の定理から数列は収束します。

上の定理から、以下の交代級数の収束に関する判定定理を上げておきます。
交代級数とは、級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ で、$a_n$ の符号が交代的になる数列とします。
つまり、$a_na_{n+1}<0$ となる実数の数列です。

定理2
$\sum_{n=1}^\infty a_n$ が交代級数とします。このとき、$|a_n|$ が単調減少数列であるとすると、
$\sum_{n=1}^\infty a_n$ は収束する。


$a_1>0$ としておきます。このとき、部分和の数列 $\sum_{k=1}^{2n-1}a_k$ は単調減少で、$\sum_{k=2}^{2n}a_k$ は単調増加数列であり、それらの収束先は$|a_n|$ が単調減少なので一致します。よって、すぐ上の定理1から定理2が成り立ちます。

連続関数と数列の収束について
知られている連続関数を使って数列の収束をいうこともできます。

次の定理を使えば良いでしょう。

定理
$f(x)$ を連続関数とする。このとき、$a_n\to a$ であるなら、
$f(a_n)\to f(a)$ がなりたつ。

例えば、$a_n=\sqrt[n]{a}  \  \ a>0$ とする。
このとき、$a^x$ は連続関数です。また、
$a_n=\frac{1}{n}$ は収束する数列であるから、$a^{\frac{1}{n}}$ は $a^0=1$ に収束する。



逆三角関数

三角関数 $y=\sin x,\cos x,\tan x$ の逆関数を $y=\text{Arcsin}(x)$, $\text{Arccos}(x)$, $\text{Arctan}(x)$ といいます。ただ、定義域は、前2つが $-1\le x\le 1$ で、最後は ${\mathbb R}$ なのですが、値域は、$-\frac{\pi}{2}\le y\le \frac{\pi}{2}$, $0\le y\le \pi$, ${\mathbb R}$となります。

授業中にグラフをざっくりと書いたのでここでは書きません。
今日は、$\text{Arcsin}(x)=\text{Arccos}(2x)$ のような式を解きました。

これは、両辺を $y$ とおいて、普通の三角関数に直して解きました。
このとき、$x=\sin y$ かつ、$2x=\cos y$ なので、$x^2+4x^2=1$ より、$x=\frac{\pm 1}{\sqrt{5}}$ となります。
よって $y=\text{Arcsin}(\frac{\pm1}{\sqrt{5}})=\pm\text{Arcsin}(\frac{1}{\sqrt{5}})$ であり、
また、上の$\text{Arccos}(x)$ の値域が非負の数だったから、$y\ge 0$ となります。
ゆえに、上の $\pm1$ はプラスの方だけということになり、
$x=\frac{1}{\sqrt{5}}$ ということになります。

双曲線関数と逆双曲線関数
双曲線関数はあまり高校の頃には扱いませんが、ここは大学なので扱います。

$\sinh(x)=\frac{e^x-e^{-x}}{2}$ 
$\cosh(x)=\frac{e^x+e^{-x}}{2}$ 
$\tanh(x)=\frac{\sinh(x)}{\cosh(x)}$ 
と定義されます。
このとき、
$\cosh^2(x)-\sinh^2(x)=1$ かつ、$1-\tanh^2(x)=\frac{1}{\cosh^2(x)}$
などの三角関数に似た関係式が成り立ちます。

この逆関数を $\text{Arsinh}(x)$,  $\text{Arcosh}(x)$, $\text{Artanh}(x)$ と書きます。

それぞれの定義域は、${\mathbb R}$, $x\ge 1$, ${\mathbb R}$ となります。
また、今日やってもらったのは、$\sinh(\text{Artanh}(x))$ を簡単にするなどの問題です。

$y=\text{Artanh}(x)$ とおきますと、$x=\tanh(y)$ が成り立ち、$\sinh(y)$ を計算するには、
$\sinh(y)$ を $\tanh(y)$ の式に直さなければなりませんが、$\sinh(y)=\frac{\tanh(y)}{\sqrt{1-\tanh^2(y)}}$ を使って直してやります。

連続関数

宿題に連続関数に関する問題をのせました。
また、実数の中の有理数の稠密性についての定理ものせました。
有理数の稠密性とは、以下の性質を満たすことです。

定理(有理数の稠密性)
任意の実数$a,b\in {\mathbb R}$ ($a<b$)に対してある有理数 $\gamma$ が存在して、
$a<\gamma<b$ が成り立つ。

これを用いると、任意の実数 $\alpha\in {\mathbb R}$ に対して、
$\alpha$ に収束する有理数からなる数列 $r_n$ が作れることを宿題に出しました。

ヒントも授業中に少し出しました。上の有理数の稠密性を使うと、そのような有理数列が作れることがわかります。
$[\alpha-\frac{1}{2^n},\alpha+\frac{1}{2^n}]$ に含まれる有理数 $r_n$ を構成します。

ここで、$[s,t]$ は $\{x\in {\mathbb R}|s\le x\le t\}$ のことを指します。
また、そのようにとった $r_n$ が収束することを示してください。



2017年4月24日月曜日

数学外書輪講I(第2回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今日はS. Lang のLinear Algebra の4ページ目の11行目まで読みました。
また、練習問題1,4,5を解きました。
内容としては問題なかったのではないかと思います。

vector空間において、$\frac{1}{{\bf v}}$ としている人がいましたが、
ベクトル空間には、ベクトル空間同士の掛け算はありませんし、
ましてや(a fortiori)積の逆元もありません。

Section 1の練習問題を8まで当てました。
みなさん、普通に英語が読めていました。
ただ、説明の仕方が少しぎこちない人や、声の小さい人など、もう少し工夫しましょう。

続きのプリントをmanabaの方に上げておきますので、そこからダウンロードしてください。
さらにその先の進路については適切な教材を配ります。

また、次はマトウシェクから始めますが、プリントは、マトウシェクのホームページ(リンク)ので、そちらの3,4ページ目(Fibonacci Numbers, Quickly)をダウンロードするか、洋書を注文するかして手に入れて、予習してくること。

単語帳
in practice 実際には
for instance 例えば
amount to ということになる
observe 観察する(よく見る)
exclude 除外する
contain 含まれる
condition 条件
fraction 分数
abstract 抽象的な
axiomatize 公理化する
anyhow いずれにせよ
maturity 発達・成熟
take into account ... を考慮する
restrict attention to .... に注意を制限する
deal with ...  扱う
be force to do することを強制する
property 性質
verify 確認する
function 関数
exercise 練習問題
customary 慣例の、慣例である
vector space V over K   K上のベクトル空間 V
constantly いつも、絶えず
parenthesis (まる)かっこ
induction 帰納法
indeed 実際
a fortiori  なおさら

2017年4月21日金曜日

微積分I演習(物理学類)(第2回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今日は
  • 上限・下限
  • 実数の性質
  • 数列の収束定理

上限・下限

$E$ を${\mathbb R}$の部分集合で、空集合でないものとします。
このとき、
$E$ の上界を $S=\{y|x\le y,\forall x\in E\}$ として定義します。また、

$E$ の下界を $T=\{y|y\le x,\forall x\in E\}$ として定義します。

ここで、$E$ の上限を $\sup(E)=\min S$ として定義します。
また、$E$ の下限を $\inf(E)=\max T$ として定義します。

のちのために、この $y$ が上界であることの否定命題を作っておけば、

$y$ が $E$ の上界でないとは、
$\exists t\in E$ に対して $y<t$ となる。

ということです。下界であることの否定命題も同じように作ることができます。

ここで今日は、$\sup(E)$ を求めるための道具を与えました。

$s=\sup(E)$ であることは、次の[1],[2]と必要十分です。

[1] $\forall x\in E$ に対して、$x\le s$ である。
[2] $\forall s’<s$ に対して、$s’<t<s$ となる$t\in E$ が存在する。

授業でも述べましたが、[1] は、$s$ が $E$ の上界であることを言っていて、
[2] は、$s$ より、少しでも下の $s’$ は上界ではないということ(結局 $s$ が上界として最小であること)を言っています。

例題2-3は、この2条件が必要十分条件であることを示す問題です。
以下宿題の方は、この証明を見ながら作ってください。

まず、$s=\min(S)$ であることは、
(A) $s\in S$ であり、
(B) 任意の $x\in S$ に対して、 $s\le x$ となる
ということと同値です。

宿題も下を見ながら解いてください。

(同値性の証明)
(A),(B) $\Rightarrow$ [1],[2]について
(A), (B) が成り立つとする。
(A)から、$s$ は $E$ の上界の元である。
よって、$\forall x\in E$ に対して、$x\le s$ が成り立つ。ゆえに[1]が成り立つ。
(B)が成り立つとする。
ここで、$s’<s$ となる任意の元 $s’$ が $E$ の上界であるとする。
(B) から、$s\le s'$ が成り立つが、これは、$s’<s$ であることに反する。
よって、$s’<s$ となる任意の元は $E$ の上界ではない。
つまり、$s’<\exists\ t$ に対して、$t\in E$ となる(これは $s’$ が $E$ の上界であることの否定)。
ゆえに[2]が成り立つ。

(A), (B) $\Leftarrow$ [1],[2] について。
[1],[2]を仮定する。$s\in S$ であり、任意の $x\in S$ に対して、$s\le x$ であることを
示せばよいことになります。
まず、[1] の条件と上界の定義から、$s$ が $S$ の上界であることがわかります。
また、任意の $x\in S$ は $E$ の上界なので、$\forall y\in E$ に対して、$y\le x$ となります。
ここで、$\exists\ x\in S$ が $x<s$ であるとすると、[2] から、ある $E$ の元 $t$ が存在して、$x<t<s$となる。これは、$x$ は $E$ の上界であることに反する。
よって、$\forall x\in S$ ならば、$s\le x$ となる。これは(B) を示している。




実数の性質

上の実数の部分集合の、上限と下限を使って数の性質としてまず、ここではアルキメデスの原理を上げておきます。

アルキメデスの原理
任意の $a>0,b$ に対して、$na>b$ となる自然数 $n$ が存在する。

これを認めると、実数について次の性質が導かれます。

実数の稠密性
任意の $\alpha,\beta\in{\mathbb R}$ に対して、$\alpha<\beta$ なら、$\alpha<\gamma<\beta$ となる実数 $\gamma\in {\mathbb R}$ が存在する。

また、この $\gamma$ の部分を有理数、無理数としても成り立ちます。これは、有理数の稠密性、無理数の稠密性といいます。




例題2-4
$\sup(0,1)=1$ であることを示します。
ちなみに、$(0,1)=\{x|0<x<1\}$ です。

まず、[1]で、$1$ が $(0,1)$ の上界であることをいいます。
任意の $(0,1)$ の元 $x$ は、$0<x<1$ ですから、$1$ が $(0,1)$ の上界であることがわかります。
また、任意の $x<1$ の元をとると、$x<t<1$ となるような $t\in (0,1)$ が存在することを
示します。そのために、実数の稠密性を用います。

ここで、$\max\{x,0\}$ をとります。ここで $\max\{x,0\}$ は、$x,0$ のうち、大きい方を取りなさいという関数です。もし同じならその数そのものをとります。

そうすると、$0\le \max\{x,0\}$ であり、実数の稠密性で、
$\max\{x,0\}<t<1$ となる $t$ をとっておけば、$t\in (0,1)$ であることがわかります。

ゆえに、$x<t<1$ となる、 $t\in (0,1)$ を取れたことになるので、[2] が成り立ち、
$1$ は、$(0,1)$ の上限つまり、$\sup(0,1)=1$ であることがわかります。


数列の収束定理

数列の収束判定で最も有名なものを一つだけ上げておきました。
これは、実数の完備性(連続性)と言えるものと同じものです。

定理
上に有界な単調増加数列は収束する。
下に有界な単調減少数列は収束する。

例題2-5
次の漸化式で定まる数列の収束をいえ
$$a_1=1,\ \ a_{n+1}=\frac{3a_n+2}{a_n+1}$$

$$a_{n+1}-a_n=\frac{3a_n+2}{a_n+1}-\frac{3a_{n-1}+2}{a_{n-1}+1}=\frac{a_n-a_{n-1}}{(a_n+1)(a_{n-1}+1)}$$
となり、$a_2-a_1=\frac{5}{2}-1=\frac{3}{2}$ となるので、
$a_n$ が正の数列であることから、帰納的に、$a_n$は 単調増加。
また、$a_{n+1}=3-\frac{1}{a_n+1}<3$ なので、数列 $a_n$ は収束する。

例題2-5の次の問題も同じように帰納法で示してください。


2017年4月19日水曜日

微積分I演習(数学類)(第1回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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数学類の微積分I演習が始まりました。
この授業の内容を少しだけですが、こちらに書いておきます。
また、上にリンクしたように、manabaにも授業の注意点や
配付プリントなどを載せました。

また、去年も同じ授業をしており、そのときのblogもまたあります。
2016微積分I演習(リンク先) です。少し見てみると、ほとんど同じ
授業をしたようです。そちらも今後参考にしてください。中身の問題は少しずつ改定されたり、記号がちがったりしていますので注意してください。

今日は、

  • 論理式
  • 集合の書き方
  • 数列の収束
に関して主にやりました。

論理式
論理式といっても、教えたのは、$\forall$ と $\exists$ だけです.
おさらいをしておくと、
$\forall$ は、「任意の」、「全ての」といういみで、
$\exists$ は、「ある....が存在して....」といういみで、
それぞれそのように読みます。

今日の例では、

「任意の $r\in {\mathbb R}$ に対して、$r^2>m$ となる整数 $m$ が存在する。」
を書き直せば、

「$\forall r\in {\mathbb R}$ に対して、$\exists m\in {\mathbb Z}$ が $r^2>m$ を満たす。」


となります。また、否定命題は、


「$\exists r\in {\mathbb R}$ が、$\forall m\in {\mathbb Z}$ に対して $r^2\le m$ を満たす。」
となります.
否定命題の作り方は、$\forall$ を $\exists$ に直し、最後の結論を否定すればよいことになります。

集合
さらに、集合の書き方を教えました。集合は一般に、
$$\{a\in X|(a\text{ が満たすべき条件} )\}$$
のようにかくのが数学の流儀です。
$a\in X$ の部分を縦棒の右に持ってきて、$\{a|a\in X,...\}$ としてもよいし、$\in X$ の部分もなくてわかるものであれば、必ず書かなくてもよいですが、集合の元は今どこで考えているかを明確にするためには、この部分はサボらず書いた方が、読み手にはわかりやすくなります。

例として、整数全体の中の、$m\in {\mathbb Z}$ の倍数の集合を、上の書き方で
書いておくと、
$$m{\mathbb Z}=\{mk\in {\mathbb Z}|k\in {\mathbb Z}\}$$
とかくことができます。


要素であること。部分集合であること

$x$ が集合 $X$ のメンバーのひとつであることを$x\in X$ とかきます。
また、集合 $S$ がある集合 $X$ の部分集合であることは
$S\subset X$ と書きます。
  • $x\in X$:$x$ が集合 $X$ のメンバーのひとつであること
  • $S\subset X$ :集合 $S$ がある集合 $X$ の部分集合であること
この2つの区別は明確にしてください。

たとえば、今日出てきた例だと、偶数全体の集合 $2{\mathbb Z}$ は整数全体の集合
${\mathbb Z}$ の中で、$2{\mathbb Z}\subset {\mathbb Z}$ とはかけますが、$2{\mathbb Z}\in {\mathbb Z}$ とは書けません。
なぜなら、${\mathbb Z}$ の中のメンバーとしては、偶数全体は入っておらず、
入っているメンバーは、$1$ とか $5$ とかの一つ一つの数のみです。
この注意をしたすぐあとに、今日の発表で、$10{\mathbb Z}\in 2{\mathbb Z}\cap 5{\mathbb Z}$ 
と書いている人がしました。$\in$ と $\subset $ の区別はつけましょう。

集合のイコール
2つの集合が等しいことを示す方法は、
例えば、それが $A,B$ であるとすると、$A\subset B$ かつ $B\subset A$ であること
を示せば良いことになります。(今回の宿題でもそれを踏襲して解いてください。)

$A\subset B$ であることを示す方法は、$A$ の任意の元が $B$ の元になっていることを証明すれば良いことになります。
例えば、$6{\mathbb Z}=2{\mathbb Z}\cap 3{\mathbb Z}$
の等式を示す場合、

(証明)
$n\in6{\mathbb Z}$ のとき、$n$ は $6$ の倍数なので、$n=6m$ となる整数 $m$ が存在する。よって $n=3(2m)$ かつ $n=2(3m)$ となり、$n \in 2{\mathbb Z}$ かつ $n\in 3{\mathbb Z}$
となる。よって、$n\in 2{\mathbb Z}\cap 3{\mathbb Z}$ となる。
また、$n\in 2{\mathbb Z}\cap 3{\mathbb Z}$ とすると、$n=2m$ かつ、$n=3k$ となる整数 $m,k$ が存在する。
よって、$n=2m=3k$ であるから、$m$ は$3$ で割り切れる。
よって、$m=3l$ とおくと、$n=6l$ となり、$n\in 6{\mathbb Z}$ となる。$\Box$

このように示してください。

最後に、集合の演算を集合の言葉で書いておきます。
$U,V$ の共通集合 $U\cap V=\{x|x\in U\text{ かつ }y\in V\}$
$U,V$ の和集合 $U\cup V=\{x|x\in U\text{ または }y\in V\}$
$X$ の中での $A$ の補集合 $\{x\in X|x\not\in A\}$



数列の収束
数列の収束についてやりました。
数列 $a_n$ が $a$ に収束するというのは、 $a$ に限りなく近くなるということで、講義の方でも、このような定義をしたようです。しかし、大学ではちゃんと収束するということを定義してすすんでいきます。いずれ出てくるから、それまでとりあえずお預けなのですが、今日はその定義だけを教えました。

ただ、私の不覚のいたすところで、間違いの定義をしてしまいました。
manabaに登録したプリントでは直してあります。

数列 $a_n$ が $a$ に収束するというのは、
(誤) $\forall \epsilon>0$ に対してある $n\in {\mathbb N}$ が存在して、$|a_n-a|<\epsilon$ となる。
(正) $\forall \epsilon>0$ に対してある $N\in {\mathbb N}$ が存在して、${}^\forall n>N$ に対して、$|a_n-a|<\epsilon$ となる。

と訂正します。
(誤)の方ですと、とても簡単な発散数列 $(-1)^n$ が収束してしまいます。
なぜだかわかりますか?
(正)の方は、あるところから先全てが条件 $|a_n-a|<\epsilon$ をみたさなければなりません。
一方(誤)の方は、全てでなくても、なんらかの項が存在すればよいと言っています。


ここでは、次のごく簡単な原理と収束の定義から、数列 $a_n=1/n$ が収束するということを証明してみます。

アルキメデスの原理
$\forall a\in {\mathbb R}$ に対して、$\exists n\in {\mathbb N}$ が存在して、$a<n$ となる。


数列 $a_n=\frac{1}{n}$ が収束すること。

(証明)
任意の $\epsilon>0$ をとります。このとき、アルキメデスの原理より、
$\frac{1}{\epsilon}<N$ となる自然数 $N$ が存在します。
よって、$\forall n>N$ に対して、
$$|\frac{1}{n}-0|= \frac{1}{n}< \frac{1}{N}<\epsilon$$
となり、数列の収束の定義から、数列 $a_n=1/n$ は収束します。$\Box$


ここでの数列の収束の示し方

ここでは、上のような定義に突っ込んだ証明ではなく、
下のようにパッケージされた収束判定のための定理を用いて数列の収束性を示します。
宿題の方でもそのようにしてください。

定理
任意の上に有界な単調増加数列は、収束する。
任意の下に有界な単調減少数列は、収束する。


この定理を用いると、上の数列 $a_n=\frac{1}{n}$ は、以下のように示されます。

(証明)
$a_n=\frac{1}{n}$ が下に有界であることと、単調減少であることを示せばよい。
$n$ は正の整数だから、
$0<\frac{1}{n}$ であり、下に有界。また、
$a_{n+1}-a_n=\frac{1}{n+1}-\frac{1}{n}=-\frac{1}{n(n+1)}<0$ であるから、$a_n$ は単調減少。
ゆえに、$a_n$ は収束する。$\Box$

この方法を真似て、今日出した宿題、また、今回配った問題の自分の学籍番号の問題を解いて、黒板に書いておいてください。

2017年4月17日月曜日

数学外書輪講I(第1回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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配付プリント

今日から数学外書輪講Iが始まりました.

この授業を受け持つのは私は初めてです.
シラバスを見ると、数学の英語の本をみんなで読み回すという授業のようです.

今日持って行った本は以下です.

  • Calculus on Manifolds (M Spivak)
  • Linear Algebra (S Lang)
  • Thirty-three miniatures Mathematical and Algorithmic Applications of Linear Algebra (J Matousek)
  • Introduction to Mathematical Logic (J Malitz)
でした.私のオススメは3番目のマトウシェクの数学小景で、これをみんなで読もうかと思っていたのですが、私も少し読んだりしているうちに、少し高度なのかもしれないと思い始め、基礎知識としてすでに持っている、微積や線形の本を英語もよいかと思ってそれぞれ1冊ずつ用意しました.結局、多くの人は線形代数の本を読むことになりました.一人はマトウシェクの本を読むことになりました.

ちなみに、マトウシェクのホームページ(リンク)にこの本のPDF版(出版前バージョンとしておいていあります)がありますので、興味がある人はこちらを見てください.また、次はマトウシェクの本を読みたいという人は、申し出てください.

ちなみに、マトウシェクは、離散数学の大家で、数学の研究だけでなく、多くの著書もあることで有名なチェコの数学者です.離散数学というのはなかなか日本では馴染みがないですが、実はとても幅が広く、主にグラフ理論、組みわせ理論や、アルゴリズムや論理といった応用数学にも、また、整数論や確率論など純粋数学にも出てくることがあります.高校で言えば、順列や組み合わせなどの単元の内容となります.また、マトウシェクは2015年に亡くなっています.



授業における注意点

 この授業は、基本、学生が事前に本を読んできて、その内容を黒板の前で発表してもらうという内容になります.注意点として以下を書いておきます.
  • 発表者は必ず予習をしてきて、もし、内容としてわからない部分があれば、必ず教官に相談をすること.
  • 発表者以外も必ず予習をして臨むこと.
  • 内容以外に、自分で考えた例なども含め、わかりやすく説明をすること.
配付プリントの問題1-1の英文は、
(1) Calculus on Manifolds
(2) Thirty-three miniatuares の Miniature 6
(3) Thirty-three miniatuares の Miniature 12
(4) Thirty-three miniatuares の Miniature 8
でした.

今日出てきた数学書の英単語をここで羅列しておきます.

初めて数学外書を通読するための英単語帳
今日は、皆さんは積極的には英語ができるとは言わなかったので、今日配付したプリントの中ででてきた英語表現を全てここでおさらいしておきます.

ABC順に直しました.
  • assign : 割り当てる
  • bipartite graph 二部グラフ
  • call A B :  A のことを B とよぶ
  • A is called B :  A は B とよばれる
  • claim 主張する
  • class: 類
  • column 列
  • complete graph 完全グラフ
  • cover : 覆う
  • define A  as  B : AのことをBと定義する.
  • A denote B :  A は B のことを示す
  • disjointly :  ばらばらに(共通部分なく) 
  • distance : 距離
  • edge 辺
  • element :   要素、元
  • entry : 行列の各成分
  • finitely many : 有限個の
  • graph グラフ
  • infinitely many : 無限個の
  • integer: 整数
  • interior : 内部
  • irrational: 無理数
  • Let A be B. :  A をBとする
  • matrix 行列 (複数形はmatrices)
  • namely つまり
  • not necessarily とは限らない
  • n-tuple: n組み
  • odd : 奇数の
  • often しばしば
  • pair : 組み
  • rank ランク
  • rational : 有理数
  • rectangle: 長方形
  • respectively それぞれ
  • row: 行
  • set :   集合
  • A so that B : B となるような A
  • square : 正方形
  • A  such that B  :  Bを満たすA
  • suppose: 仮定する.
  • theorem : 定理
  • There exists A: A は存在する
  • tile : 敷き詰める
  • vector ベクトル
  • vertex 頂点
  • , where A,  ただし A であるとする.
  • with A :  A の条件のある
今回、上の数学書の中から適当に内容をピックアップしましたが、基本的な数学の用語や言い回しが上のように登場していました.

グラフ理論
ほんのちょっとだけですが、マトウシェクのグラフ理論の部分を読みました.
グラフというのは、関数のグラフではなく、離散数学に出てくるグラフです.
どちらもグラフと言います.

グラフとは、頂点と辺の集合からなっており、辺は、2つの頂点をつなぐ1次元のいくつかの線です。平面に書かなくても、抽象的に、点とその繋がりだけの関係があると考えます.ですので、平面に書いた時に、辺同士が交わっていても構いません.

そのようなあるネットワークを表したものをグラフと言います.辺には長さはなく、頂点と頂点がつながっているか、つながっていないかの情報しか考えません.
ちょうど、地下鉄の路線図のように、駅とそれをつなぐ線によって記述されています.

完全グラフ(cmplete graph)・・・・任意の頂点のペアに対して辺が存在するようなグラフ
2部グラフ(bipartite graph)・・・・頂点が2つのクラスに分かれており、同じクラス同士の頂点を結ぶ辺が存在しないようなグラフ
完全2部グラフ(complete bipartite graph)・・・・任意の異なるクラスの頂点のペアに対して辺が存在するような2部グラフ

2017年4月15日土曜日

微積分I演習(物理学類)(第1回)

[場所1E103(金曜日5限)]

HPに行く

今学期も授業が始まりました.
いつものようにブログを更新していきたいと思います.

物理学類の微積分I演習の授業を担当します.
物理学類の学生はいつも元気な学生が多いのでとても楽しみです.
この授業を担当するのは、4年ぶりで、そのときやった授業の記録が、
(リンク)に全てアップしてあります.
講義の先生もこのときと違うのでこの通り進むわけではありませんが、参考のため.

今回やったことは、高校の微積分の内容の演習で、
この微積分の授業は、高校の数学の分野で言えば、数列と微積分が融合したような
内容です.基本的に、極限操作に関する内容だと理解することもできます.

今回のプリントはmanabaにアップします.

小テストの内容
今回はいきなりですが、小テストを行いました.

小テストの内容は、
(1) 次の条件を満たす数列$a_n$の一般項を求めよ.
$$a_{n+1}=2a_n+n^2,\ \ a_1=2$$
(2) 次の関数の極値とその増減をかけ.
$$f(x)=\frac{x}{1+x^2}$$
(3)  次の関数の積分値を求めよ.
$$\int_0^\frac{\pi}{2}\sqrt{1-\cos t}\,dt$$

でした.

小テストの解答
(1) のような漸化式から一般項を求めることは数列の問題としてよくあるものです.

もう一度ここで書いておきます.その際、考えるのは、階差数列でした.
階差数列とは、前の数列との関係を探るための手法です.
前後関係の数列の比較の仕方はいろいろとあると思いますが、
ここでは、
$b_n=a_{n+1}-a_n$ とします.
このように、数列 $a_n$ から数列 $b_n$ を作る操作を階差操作ということにします.

すると、
$$b_n=2b_{n-1}+n^2-(n-1)^2=2b_{n-1}+2n-1$$
となります.さらに、$b_n$ との関係式を探ると、
$c_n=b_{n+1}-b_n$ とすると、上の数列は、
$c_n=2c_{n-1}+2(n+1)-1-(2n-1)$
となり、
$c_n=2c_{n-1}+2$ となります.このとき、$\alpha=2\alpha+2$ となる方程式を解いて、
$\alpha=-2$ となるので、恒等式 $-2=2(-2)+2$ と$c_n$ の漸化式を引いて、
$c_n+2=2(c_{n-1}+2)$ となります.
ここで、$a_1=2$ $a_2=5$ $a_3=14$ となりますので、
$b_1=3$, $b_2=9$ です.ですので、$c_1=6$ となります.
$$c_n+2=2^{n-1}(c_1+2)=8\cdot 2^{n-1}$$
となります.
つまり、$c_n=8\cdot 2^{n-1}-2$ です.
(ここで注意したいことは、 $c_n$ は指数関数的な振る舞いをするということです.)

また、$b_n$ の式に戻すには、
$$b_n=b_1+\sum_{j=1}^{n-1}c_j=3+\sum_{j=1}^{n-1}(8\cdot 2^{j-1}-2)$$
$$=3-2(n-1)+8(2^{n-1}-1)=-2n-3+8\cdot 2^{n-1}$$
となります.
(ここで注意したいことは、上のような階差操作を戻したときには、前の数列に、多項式が加わったかたちになるということです.つまり、指数関数と多項式の和の形になりました.下でやるように、階差操作を何回も戻した時も、出てくるのは、多項式だけということになります.)

$a_n$ の式に戻すには、
$$a_n=a_1+\sum_{j=1}^{n-1}b_j=2+\sum_{j=1}^{n-1}(-2j-3+8\cdot 2^{j-1})$$
$$=2-n(n-1)-3(n-1)+8(2^{n-1}-1)=-n^2-2n-3+8\cdot 2^{n-1}$$
となります.これが一般項となります.

(2) $f(x)=\frac{x}{1+x^2}$ とすると、
$$f’(x)=\frac{1\cdot(1+x^2)-x(2x)}{(1+x^2)^2}=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}$$
なので、$f’(x)=0$ となるのは、$x=\pm1$ となり、増減表は、
$$\begin{array}{|c|c|c|c|c|}\hline x&&-1&&1&\\\hline f’(x)&-&0&+&0&-\\\hline f(x)&\searrow&&\nearrow&&\searrow\\\hline\end{array}$$

となります.

(3) の積分は、三角関数
$$\sqrt{1-\cos t}=\sqrt{2\frac{1-\cos t}{2}}=\sqrt{2\sin^2\frac{t}{2}}$$
となります.また、$0\le t\le \frac{\pi}{2}$ のとき、$\sin\frac{t}{2}>0$ であることを注意すると、
$$\int_0^{\pi/2}\sqrt{1-\cos t}\,dt=\sqrt{2}\int_0^{\pi/2}\sqrt{\sin^2\frac{t}{2}}\,dt$$
$$=\sqrt{2}\int_0^{\pi/2}\sin\frac{t}{2}\,dt=\sqrt{2}\left[-2\cos\frac{t}{2}\right]_0^{\pi/2}$$
$$=-2\sqrt{2}\left(\frac{\sqrt{2}}{2}-1\right)=2(\sqrt{2}-1)$$



数列から漸化式を作ること、漸化式から数列を作ること
小テスト以外には、今回は主に、
  • 数列から漸化式を作る.
  • 漸化式から具体的な数列を作る.
の操作をやってもらいました.これは、意味を考えれば、逆操作です。

また、物理学は自然現象をうまく解釈するための現象学といえます.

つまり、上の操作はそれぞれ、次のように普遍化することができます.
  • 自然の中から法則性を見出す.
  • 法則性から自然現象を明らかにする(及び予測する).

今の場合、数列を一つの物理現象と捉えて考えてください.
上の階差操作とは、前後関係から何かしらの法則性を見出そうとする試みと解釈されます.
上の (1) は漸化式という法則性から数列がどのように記述されるのか?を明らかにしたわけで、上の2番目の操作といえます.一般の $n$ のときにどのような値になっているか?ということをうまく
予測できるような形になったといってもよいです.

この方向性とは逆に、2人の学生には、具体的な数列から漸化式を作ってもらいました.

今回やったところは、高校までの知識で、それまで数学に四苦八苦した人も
いるかもしれませんが、それを初歩として次回以降進んでいきますので、
苦手意識のある人は、大学の数学の前に、これまでの微積分をざっと目を通しておいても
よいかもしれません.